2026年1月1日施行!! よくわかる中小受託取引適正化法(取適法)【前編】 ~約20年ぶり大改正のポイントと対策

大東 泰雄、堀場 真貴子
2026年1月1日施行!! よくわかる中小受託取引適正化法(取適法)【前編】 ~約20年ぶり大改正のポイントと対策

1.はじめに

2025516日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立し、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)が改正されることになりました。法律の名称も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されました(以下、改正後の下請法を「取適法」といいます)。これは、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」を実現し、事業者における賃上げの原資を確保することを目的とするものです。
取適法の施行は202611日に迫っており、早急な対応が必要です。本連載では、取適法の特に重要なポイントに絞って、前・後編に分けて解説することとし、前編となる本稿では「法律の適用範囲の拡張」について主に取り上げます。 

2.改正のポイントと放送業界への影響度

今回の下請法の改正は、約20年ぶりの大改正となり、改正項目も多岐にわたります。改正の全体像は図1のとおりです。一言で述べれば、法律の適用範囲を3つの側面から拡張するとともに、取適法適用対象取引において委託事業者が重視すべきルールをさまざまな面で厳格化するものといえます。なお、各改正項目の影響度は企業により大きく異なると考えられますが、最大公約数的に考えた影響度もあわせて記載します。

【図1
toritekihou 1.jpg
また、今回の改正により「下請」や「親事業者」という用語は一掃され(図1ー①)、前述のとおり法律名が下請法から取適法へと変更されるほか、用語についても、「親事業者」は「委託事業者」へ、「下請事業者」は「中小受託事業者」へ、「下請代金」は「製造委託等代金」へと、それぞれ変更されますこのような法律名・用語の変更に合わせて、各企業においては、「下請法」等の旧名称が記載された各種社内規程・マニュアル類(企業行動憲章、コンプライアンスマニュアル、下請法遵守マニュアル等)や帳票類を確認し、新しい名称へ修正する必要性があります。

 3.法律の適用範囲の拡張

(1) 取適法の適用範囲

改正前下請法は、「資本金要件」と「取引内容要件」という要件をいずれも満たす委託取引を規制対象としています。

資本金要件とは、発注者と受注者の資本金額が同法所定の関係にあることを求めるものです。例えば、資本金1億円の放送局が資本金3,000万円の番組製作会社に番組製作を委託する場合は、資本金要件を満たすこととなります。

また、取引内容要件とは、発注内容が下請法の定める製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託のいずれかに該当することを求めるものです。例えば、放送局が放送する番組の台本・題字・コーナー番組等の製作を委託することは情報成果物作成委託に当たり、放送局が販売する番組オリジナルグッズの製造を委託することは製造委託に該当します。

そして、取適法は、改正前下請法が定める上記要件の範囲を狭めることはせず、資本金基準に加えて従業員数基準を新設したり、新たに特定運送委託を対象取引に追加したりすることにより、法適用の範囲(規制対象となる取引の範囲)を拡張しています。 

(2) 従業員数基準の導入

ア 従業員数基準の概要

放送業界への影響が最も大きいと考えられる改正項目が、従業員数基準の導入です。

改正前下請法は、前述のとおり、資本金要件として、発注者と受注者の資本金額が同法所定の関係にあることを求めています。しかし、資本金は必ずしも事業者の規模の実態を反映しておらず、規模は大きいものの資本金額が少額である事業者もあるほか、下請法の適用を免れるため、親事業者が減資したり下請事業者に増資を求めたりする事例の存在も指摘されていました。

そこで、取適法は、事業者の規模に関する要件(以下「規模要件」といいます。)として、従来の資本金基準に加えて、新たに従業員数基準を導入し、いずれかの基準を満たす場合には、規模要件を満たすこととしました。取適法における規模要件の概要は、図2のとおりです。

【図2】
toritekihou2.jpg2のとおり、従業員数基準には、従業員300人超の事業者が従業員300人以下の事業者等に委託する場合に適用対象になるという「300人基準」と、従業員100人超の事業者が従業員100人以下の事業者等に委託する場合に適用対象になるという「100人基準」があり、個々の委託内容ごとに2つの基準を使い分け、取適法適用の有無を判定することとなります。

例えば、資本金1億円で従業員数が200人の放送局が、資本金6,000万円で従業員数が80人の番組製作会社に番組製作を委託する場合(情報成果物作成委託)は、図22の各基準に照らして判断することになりますので、資本金基準は満たさないものの、従業員数基準(100人基準)を満たすため、規模要件を満たすこととなり、取適法対象取引として取り扱われます。

したがって、委託事業者においては、資本金要件を満たさないものの、従業員数が300人以下または100人以下であって、従業員数基準を満たす可能性がありそうな委託先企業については、個別に従業員数を確認しておく必要があります。

なお、従業員数基準は、委託事業者の従業員数が300人超または100人超の場合に限り適用されますので、①従業員数300人超の放送局では、いずれの委託についても同基準が適用され、②従業員数100人超300人以下の放送局では、図2の2記載の内容の委託(番組製作等)をする取引に限って同基準が適用され、③従業員数100人以下の放送局では、同基準により自社が委託事業者と扱われるものではないということになります。

イ 従業員数の確認方法

従業員数基準を満たすかどうかは、「常時使用する従業員」の人数で判断されます。そして「常時使用する従業員」とは、賃金台帳の調整対象となる対象労働者によるものとされており、パートやアルバイトも含まれます。

委託先企業における「常時使用する従業員」の人数を確認する方法としては、資本金基準を満たさない委託先に定期的にアンケートを送付し、従業員数の回答を求めることが考えられます。その際には、書面または電子メール等の電磁的方法等の記録に残る方法が望ましく(※1)、委託事業者としては、委託先の従業員数を確認するための照会書やメール文案のひな形を作成しておき、確認のフローを固めた上で、現場に周知することが望ましいでしょう。

 1 公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について(2025年10月1日) 別紙2「意見の概要及びそれに対する考え方」No.14 (※外部サイトに遷移します)

もっとも、委託先企業の従業員数は変動します。取適法が適用されるかどうかは、個々の発注の発注時点における委託先企業の従業員数で決まることとされていますので、次回の確認タイミングまでに従業員数が変動することを見据え、例えば、「回答が120人以下であれば、100人基準を満たすものと保守的に扱う」というように、社内基準としてバッファーを設けておくことをお勧めします。 

(3) 特定運送委託

取適法では、発荷主が、顧客に販売等する物品等の顧客または顧客指定配送先への運送を運送事業者等に委託する取引を、「特定運送委託」として新たな規制対象に追加することとされました。例えば、放送局が販売する番組オリジナルグッズを客先まで納品するための運送を運送会社に委託する場合は、特定運送委託に該当します。

他方、対象となるのは顧客等への運送に限られますので、自社の拠点間で単にグッズを移動させる場合や、放送局主催のイベント会場まで装飾等の運送を委託するといった場合は、特定運送委託に該当しません。また、対象となるのは運送のみですので、商品の倉庫保管のみを委託することは、特定運送委託に該当しません。


【執筆者紹介】

画像1.jpg

のぞみ総合法律事務所 弁護士
  大東 泰雄(だいとう・やすお) 

 2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
 公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。


画像2.jpgのぞみ総合法律事務所 弁護士
  堀場 真貴子(ほりば・まきこ)

  2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
 独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。

最新記事