放送業界も深く関係する新たな法律「フリーランス法」について、解説講座を連載しています(【第1回】はこちら)。大東泰雄弁護士、堀場真貴子弁護士による共同執筆です。(編集広報部)
第2回は、フリーランス法の「取引の適正化」に関するルールについて解説します。
1. 取引適正化に関するルールの概要
フリーランス法は、発注者とフリーランスとの間の取引の適正化を図るため、下請法と類似のルールを定めています。その主な内容は次のとおりです。
▶ 取引内容の明示(書面/電磁的方法) |
※ 規制対象となる取引にはそれぞれ限定があり、発注者とフリーランスとの間のあらゆる取引に全ての規制が適用されるわけではありません。
2. 取引条件の明示義務(3条通知)
フリーランス法では、発注者(業務委託事業者)は、フリーランス(特定受託事業者)に業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、取引条件に関し明示すべき事項を書面または電磁的方法により明示しなければならないとされています(同法3条1項。以下、当該書面または電磁的方法による明示を「3条通知」といいます。)。つまり、フリーランスに対する発注は、必ずフリーランス法所定の条件を満たす書面または電磁的方法で行う必要があり、口頭での発注は禁止されています。
なお、電磁的方法による明示には、電子メール、SMS、SNSのメッセージなどが該当します。
他方で、放送局がフリーランスに対し、番組の一部を構成することとなる情報成果物(脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、テーマ曲、題字等)の作成を委託する場合等には、下請法が適用されます。下請法においても、口頭での発注は禁止されており、所定の事項を記載した書面(「3条書面」と呼ばれます。)の交付または電磁的方法の提供をしなければならないとされています。
そこで、放送局としては、上記のように「下請法とフリーランス法の双方が適用される取引」と、番組制作に必要な役務(俳優の実演等)、自社ホームページの作成、自社向けの翻訳を委託する場合など、「フリーランス法のみが適用される取引」のそれぞれについて、発注書等の交付をどのようにすればよいか、検討する必要があります。
(1)下請法とフリーランス法の双方が適用される取引における対応
まず、下請法とフリーランス法の双方が適用される取引について考えます。
下請法とフリーランス法が、発注書等に記載・明示するよう求めている事項を対比すると、以下のようになります。
このように、下請法とフリーランス法において、発注書等への記載・明示が求められる事項は、ほぼ同等と評価することができます[1]。
そして、読者の皆様の会社では、下請法が適用される取引については、既に同法に基づき3条書面(発注書)を書面または電磁的方法により交付・提供しているはずですので、そのような取引がフリーランス法の対象にもなっている場合には、既に交付・提供している発注書をもってフリーランス法の3条通知も兼ねることができ、特段の追加対応は必要ないということになります。
(2)フリーランス法のみが適用される取引における対応
次に、フリーランス法のみが適用される取引においては、新たに3条通知を行うようにする必要があります。
そして、前述のとおり、フリーランス法が求める3条通知の内容は、下請法が求める3条書面の内容とほぼ同等ですので、下請法対応のために準備している3条書面と同じものを、フリーランスに対しても書面または電磁的方法で交付するようにすることが、基本的な対応方針となるでしょう。
3. 支払期日の60日/30日ルール
フリーランス法においては、発注者(特定業務委託事業者)は、フリーランス(特定受託事業者)の給付の内容について検査するかどうかを問わず、給付を受領した日(役務提供を委託した場合は役務提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定める義務があるとされています(同法4条1項)。
ただし、他の事業者から業務委託を受けた発注者(特定業務委託事業者)が、当該業務委託に係る業務の全部または一部をフリーランス(特定受託事業者)に再委託する場合(以下「再委託の場合」といいます。)において、フリーランス(特定受託事業者)に一定の事項を明示して再委託をしたときは、発注者(特定業務委託事業者)は、元委託者から発注者(特定業務委託事業者)に元委託業務の対価を支払う日として定められた期日(以下「元委託支払期日」といいます。)から起算して30日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めることができるものとされます(同条3項)。
そして、特定業務委託事業者は、上記のとおり定めた支払期日までに、報酬を支払わなければなりません(同条5項)。
(1)下請法との違い
下請法では、親事業者は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務提供日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定める義務を負うと規定します(同法2条の2第1項)。
そして、親事業者が当該支払期日までに下請代金の全額を支払わなかったときは、下請代金の支払遅延の禁止(同法4条1項2号)に違反するとともに、受領日から起算して60日を経過した日から支払日までの期間について、遅延利息を支払う義務があるとされます(同法4条の2)。
下請法とフリーランス法の支払期日に関するルールを対比すると、給付を受領した日から起算して60日以内に報酬を支払わなければならないという基本部分は共通していますが、次の2点で違いが見られます。
① フリーランス法には再委託の場合の支払期日の例外規定があるのに対し、下請法には例外規定がない ② 下請法では遅延利息の支払義務が定められているのに対し、フリーランス法では定められていない |
発注者自身が元々の委託者である場合(以下「元委託の場合」といいます。)と、再委託の場合のそれぞれについて、下請法とフリーランス法の支払期日に関するルールをまとめると、以下のようになります。
(2)放送業界における対応
下請法とフリーランス法の双方が適用される取引においては、既に下請法の「60日ルール」を遵守する体制整備がなされていることにより、同時にフリーランス法のルールも遵守できることになりますので、フリーランス法について特段の追加対応を行う必要はありません。他方、フリーランス法のみが適用される取引については、新たに、同法の支払期日に関するルールに対応する体制を整備する必要があります。
4. フリーランスに対する禁止事項
フリーランス法では、発注者(特定業務委託事業者)は、フリーランス(特定受託事業者)に対し、1か月以上の期間にわたる業務委託を行う場合には、同法所定の禁止行為をしてはならないとされています(同法5条、同法施行令1条)。
他方、下請法でも、親事業者は、下請事業者に対し、11の禁止行為を行ってはならないとされています(同法4条)。
そこで、下請法とフリーランス法における委託者の禁止事項を対比すると、下表のようになります。
フリーランス法には、報酬の支払遅延に対応する禁止事項が定められておらず、給付を受領した日から起算して60日以内の支払義務という形で定められているものの、前記3に記載のとおり、元委託の場合において委託者が遵守すべき事項は、下請法と同等の内容です。
また、フリーランス法には、有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止および割引困難な手形の交付の禁止が定められていないものの、特定受託事業者に対する委託において、これらの禁止事項が該当する場面は、もともと多くないと考えられます。
そのため、下請法とフリーランス双方の禁止・遵守事項は、ほぼ同等の内容と評価することができます。
5. まとめ
以上のとおり、フリーランス法の「取引の適性化」に関する規制は、下請法と概ね同じルールが定められています。そのため、下請法とフリーランス法の両方が適用される取引については、下請法への対応によって、フリーランス法にも対応できていることになりますので、「取引の適正化」の関係で別途新たな対応をする必要はありません。
他方で、フリーランス法のみが適用される取引については新たな対応が必要になりますが、フリーランス法と下請法の内容はほぼ同等ですので、下請法に対応する体制をそのままスライドすることが考えられます。このように、下請法とフリーランス法の共通性に照らし、両法律に対応する発注書のひな形の作成・周知、支払いの60日ルールへの対応の徹底、下請法とフリーランス法を総合した社内研修の実施や説明資料・マニュアル類の整備など、さまざまな横断的対応により、フリーランス法へ対応していくことが考えられます。
(第3回へ続く)
注:
[1] フリーランス法の3条通知では、電子マネーで支払う場合に電子マネー業者名・送金額の記載が求められますが、そもそも、読者の皆様の会社がフリーランスに対して電子マネーでの支払いを行うことは想定しづらいように思われます。また、下請法の3条通知では、原材料等を有償支給する場合、関連情報の記載が求められますが、そもそも、フリーランスに対して原材料等を有償支給することは想定しづらいように思われます。そのため、現実的には、下請法とフリーランス法において、発注書等への記載・明示が求められる事項は、ほぼ同等と評価することができます。
[2] ひな形の作成に当たっては、公正取引委員会等作成のパンフレット(https://www.jftc.go.jp/file/flpamph.pdf)に記載されたサンプルが参考になります。
※編集広報部より:フリーランス法に関する質問を募集します(2月22日締切)。 |
【執筆者紹介】
のぞみ総合法律事務所 弁護士
大東 泰雄(だいとう・やすお)
2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。
のぞみ総合法律事務所 弁護士
堀場 真貴子(ほりば・まきこ)
2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。