第73回民間放送全国大会、11月7日に名古屋で開く

編集広報部
第73回民間放送全国大会、11月7日に名古屋で開く

第73回民間放送全国大会(民放大会)が11月7日、名古屋市のエスパシオ ナゴヤキャッスルで開かれた。民放首脳、来賓、関係者ら約850人が出席。あいさつで早河洋会長は、前日(11月6日)に決定した「民間放送のコーポレート・ガバナンス強化策」に着実に取り組み、民放への信頼を確かなものにしていかなければならないと力説し、会員各社に協力を呼びかけた。

式典は13時30分、松波啓三大会委員長(CBCテレビ社長)による開会のことばで幕を開けた。2020年に名古屋での開催が予定されながら、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止となったため、同地での開催は2010年の第58回以来15年ぶりとなる。会場となったエスパシオ ナゴヤキャッスルは5年に及ぶ工事期間を経て10月に開業したばかり。この間の名古屋の変化を松波大会委員長は親しみやすい名古屋弁を交えながら紹介し、来場者を歓迎した。名古屋名物の金の鯱に秋の夜空などをあしらった和風の落ち着いた舞台の手前には、日本民間放送連盟賞(民放連賞)受賞者が控える円卓が設けられ、CBCテレビの夏目みな美、永岡歩の両アナウンサーの進行で進められた。

主催者役員紹介、早河会長のあいさつ、来賓祝辞、大会宣言、記念講演、民放連賞各部門の表彰、同賞のラジオ・テレビのグランプリ、準グランプリの発表と表彰が行われた。

【早河会長あいさつ】
民放への信頼を確かなものに

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早河会長は概要、次のようにあいさつした(=写真㊤)。

名古屋のこの会場から南南東に12㎞ほど行った伝治山から195191日に地元のCBCラジオが民放の第一声を発射した。それから四半世紀さかのぼる1925年に日本初のラジオが放送を始めて今年2025年が放送100年目の節目となる。人々の確かな情報源となることを期待されて放送が誕生しながら、その後、戦時中には表現の自由、放送の自由を失って誤った情報を伝えてしまった苦い経験を忘れてはならない。1953年にはNHKと日本テレビ放送網がテレビ放送を開始、民放との二元体制のもと、以来70年以上にわたって民放とNHKは競い合いながら情報を伝えてきた。

ラジオの誕生から100年後の現在、人間を取り巻く情報環境は劇的に変化し、「個人がメディアになれる」新しい時代が到来した。その負の影響も生まれている。ネット空間の特性を背景に、偽情報・誤情報や誹謗中傷が流布し、極端に偏った見方が広がることによる社会の分断だ。関東大震災が起きた一世紀前には「情報の空白」が不確かな情報の跋扈を生んだが、いまは「情報の氾濫」が同様の事態を生んでいる。

民放は今年、長期にわたって特定の放送局への広告出稿が止まる事態を経験した。問われたのは、番組を生み出す組織と経営が人権を尊重しているのか、ガバナンスが効いているのかということ。私は会長就任直後の5月に「緊急人権アクション」を始動し、昨日(116日)の理事会で「民間放送のコーポレート・ガバナンス強化策」を決定した。これらに取り組んで、民放への信頼を確かなものにしていかなければならない。

不確かな情報が氾濫する情報空間に対して、今年の参議院選挙報道では現場が悩みながら新たな選挙報道スタイルの確立を模索した。災害報道の現場でも正確な情報発信による被害の軽減に努めた。

戦後の放送民主化に力を注いだ人たち、ラジオとテレビの民間放送創設に努力し、現在の繁栄の源流を形作った人たち先人の功績を、放送100年の節目に思い返したい。どんなに技術が変わろうとも、確かな情報と健全な娯楽を届ける存在が必要とされ続ける。環境変化に適応し、新しい時代に向かって一致結束して前進していこう。

〔会長あいさつ全文は民放連ウェブサイトでお読みいただけます〕

【来賓祝辞】
正確な情報提供で社会の共通基盤に

会長あいさつに続いて高市早苗・内閣総理大臣、林芳正・総務大臣、稲葉延雄・NHK会長の来賓3氏の祝辞を堀内詔子・総務副大臣、竹村晃一・総務審議官、井上樹彦・NHK副会長がそれぞれ代読した(=写真㊦、左から堀内氏、竹村氏、井上氏)。

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高市総理は、今年も各地で頻発した災害時にラジオやテレビが果たした役割を称え、政府としても放送ネットワークの強靱化に取り組んでいきたいと発言。インターネット上の偽情報の拡散に対しては、正確な取材と編集に裏打ちされた放送への信頼が言論空間を健全化させていくと述べた。また、コンテンツの海外展開に向けて各社の創意工夫による取り組みに期待した。

林総務大臣は、放送事業者のガバナンスが十分に確保されてこそ、健全な情報空間が維持され、国民の生命や財産を守ることができると述べ、経営陣が率先してガバナンスの実効性を確保し、民放連には業界全体でその意識を底上げしていくよう望んだ。

NHKの稲葉会長は、中継局の共同利用に関する民放連との検討においてNHKから新たな提案を行い、心配をおかけしたと陳謝し、引き続きの協議に期待を寄せた。インターネット業務の必須化に伴って10月から始めた「NHK ONE」サービスも滑り出しは順調で、放送と通信を真に一体化させる大きな第一歩になるとの認識を示し、社会の共通理解の基盤となる役割を民放と手を携えて担っていきたいと述べた。

【大会宣言】
職責を再認識し、自主自立的に取り組む

来賓祝辞の後、松波大会委員長が大会宣言を読み上げ、満場の拍手で採択された。

 

第73回民間放送全国大会「宣言」

 メディア環境の急速な変化により、玉石混交の情報が人びとの間に氾濫し、分断と対立が深刻化しつつある。民主主義の基礎となる信頼できる情報を提供し、地域とともに歩むという民間放送の責務は、いままで以上に大きい。こうした状況下、民間放送の信頼を著しく傷つける事案が発生した。われわれは、放送事業者に課せられた職責を再認識し、人権の尊重、法令や社会規範の遵守、ガバナンスの向上に自主自律的に取り組むことを誓う。
 ここ名古屋で開催される第73回民間放送全国大会にあたり、宣言する。

2025年11月7日
一般社団法人 日本民間放送連盟

 

【記念講演】
宮崎吾朗氏「放送のローカル性に期待」

続いて、宮崎吾朗氏を講師に招き「テレビとラジオの未来、ジブリの未来」と題して記念講演を行った。宮崎氏はスタジオジブリ常務取締役でスタジオジブリ作品の世界を表現した愛知県長久手市の公園施設「ジブリパーク」の監督を務め、制作全体を指揮した。スタジオジブリ取締役(日本テレビ放送網事業局)の依田謙一氏と対談形式で行った(=写真㊦右が宮崎氏、左が依田氏)。

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愛知への出張が多い宮崎氏。テレビについては、出張先のホテルでローカルニュースを見ると述べ、「普段触れていない各地の情報が面白い」と話した。ラジオについては「東京から車で長野県に出かける際、中央道を走っていくうちに東京、山梨、長野と各都県のラジオ局でかかる曲のジャンルが変わっていくのが面白い」と、各地域のラジオ番組を聴く楽しさを語った。また、放送の未来については、YouTubeSNSで生配信が盛んになっていることに触れながら、「テレビ・ラジオの世界でも生放送の緊張感のあるコンテンツを求めたい」とし、「何が起こるか分からない面白さがあり、その生っぽさの中に、ローカル性みたいなものがあるのではないか」と期待した。

AIで作成するアニメのクオリティが向上していることにも言及し、「音楽の世界で自作の楽曲をボーカロイドなどを用いて公表してプロのアーティストになる人が現れたのと同様のことが、アニメの世界でも起きるのではないか」と予測。スタジオジブリのこれからについては、アニメーションやテーマパークを問わず「何かを作ってこそのスタジオ」と述べ、"ものを作る仕事"を続けたいとし、「現実の世界で生きる者として"生のもの"に触れたいという思いが誰にでもあるはず。イベントなどでリアルに楽しめる魅力に人々が向かっており、それに応えられるような仕掛け作りに携われれば」と述べた。

民放連賞の表彰、グランプリの発表と表彰

続いて民放連賞の表彰式が行われた。2025年民放連賞の表彰式では、918日に公表された4部門13種目87件の最優秀・優秀作品・事績と、技術奨励賞1件の合計88件の代表者らを次々に紹介。最優秀作品の各代表者は壇上から喜びのことばを述べた。さらに、番組部門全種目の最優秀とこれに次ぐ優秀1作品から選ばれる民放連賞ラジオ、テレビのグランプリ、準グランプリが当日発表され、表彰された。

式典の最後に来年の大会委員長を務める篠塚浩・テレビ朝日副会長があいさつ。「これからの1年は民放にとって大切な年となる。各社と業界全体のそれぞれがステークホルダーからの信頼をより確かなものにするため自主・自律のもとでさまざまな取り組みの努力を行うことになる。その成果を受けて、来年は民放の底力を示す大会にしたい。来年、東京でお会いしましょう!」と締めくくった。

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<松波大会委員長㊧と篠塚次期大会委員長>

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