第72回民間放送全国大会(民放大会)が11月6日、東京のグランドプリンスホテル新高輪・国際館パミールで開かれた。民放首脳、来賓、関係者ら713人が出席。あいさつで遠藤龍之介会長は、民放が自らを複数の視点から再評価する営みを進め、厳しい時代を生き抜くための指針を見いだしていきたいとして、会員各社に協力を呼びかけた。
大会式典に先立ち、2つのシンポジウム(ラジオ「楽しみ、生きがいをもたらす令和時代のシニアのエンタテインメントとは」、テレビ「オリンピックイヤーに考える"AI&最新技術"と"テレビスポーツ"の行方」も行われた。
式典は14時50分、港浩一大会委員長(フジテレビジョン社長)による開会の言葉で幕を開けた。ステージ正面の真下に設けられた日本民間放送連盟賞(民放連賞)受賞者が座る円卓からドローン4機が離陸、場内を編隊飛行しながら、受賞者の表情や、客席の様子をくまなく舞台上部の大型スクリーンに映し出した。さらに屋外からもう1機のドローンが国際館パミールの1階、2階、3階へと飛行し、会場内へと入ってくる模様が映し出され、司会進行を務めるフジテレビジョンの伊藤利尋、井上清華の両アナウンサーの手のひらに降下。拍手喝采を受けての華やかなオープニングとなった。
このあと、主催者役員紹介、遠藤会長のあいさつ、来賓の祝辞、大会宣言、民放連賞各部門の表彰、同賞のラジオ・テレビのグランプリ、準グランプリの発表と表彰が行われた。
【遠藤会長あいさつ】
"複眼"で新たなビジネスチャンスを
遠藤会長(写真㊤)は概要、次のようにあいさつした。
民放連は昨年、「人権に関する基本姿勢」をまとめた。この間の「人権」をめぐる議論で気づかされたのが「外からの視点の必要性」だ。民放はドメスティックな視点から逃れることができず、10年ほど前から国際的な潮流となっていたサプライチェーンの先にある人権をめぐる状況に配慮する意識が不足していたのではないか。米国エミー賞に『SHOGUN 将軍』が選ばれたのは、日本が持つ内なる価値が海外の目で再評価されたということではないか。自分たちの財産である放送コンテンツの価値を、別のものさしで測り直す必要がある。新しいビジネスチャンスの発見はそこから始まる。空間的な広がりとともに、時間的な流れに関しても"複眼"をもって自分たちのクリエイティビティを磨き上げていこう。
コンテンツだけでなく日本全国に瞬時に映像や音声を輻輳なく届けることができる放送インフラ、地域に立脚し貢献する企業のあり方やその価値を他者の視点からもう一度見直し評価することが必要だ。放送インフラの価値を維持・向上させるためには総務省による後押しとNHKとの連携も不可欠。日ごろの協力に感謝するとともに、村上誠一郎総務大臣と稲葉延雄会長にはさらなる配慮をお願いする。
民放連は引き続き「民間放送の価値を最大限に高め、社会に伝える施策」に取り組む。「人権と社会的責任」は人々からの「信頼」をより高めていく方策を、「放送広告の価値の再浸透」では提供するサービスの価値をもう一度見直し、広告主や広告会社に訴える。その際、CM取引に関するコンプライアンスを再確認することも忘れてはならない。「デジタル社会の深化への対応」では生成AIなどネット上のサービスの調査・分析を進める。ローカル、ラジオの経営課題に関する研究を継続し、その成果を共有したい。自分自身を複数の視点から再評価する営みを進め、厳しい時代を生き抜くための指針を見いだしていきたい。
〔会長あいさつ全文は民放連ウェブサイトでお読みいただけます〕
【来賓祝辞】
正確な情報への期待、二元体制の維持
会長あいさつに続いて石破茂・内閣総理大臣、村上・総務大臣、稲葉・NHK会長の来賓3氏が祝辞を述べた(=写真㊦、左から石破総理、村上大臣、稲葉会長/石破総理はビデオメッセージ)。
石破総理は、能登半島地震など災害の頻発とその際にラジオやテレビが果たした役割を称え、政府としても災害時の放送ネットワークの強靱化に取り組んでいきたいと発言。偽情報が拡散される時代だけに、正確な取材と編集に裏打ちされた放送への期待はこれまで以上に高まっているとして、その維持と発展を期待した。
村上総務大臣は、放送を取り巻く環境が大きく変化するなか、放送事業者の経営が安定していることが何よりも大切だとして、中継局をNHKと民放で共同運営する仕組みや経営の選択肢を増やすための施策を推進するとともに、日本の優れた放送番組の海外展開を支援していきたいと述べた。
稲葉NHK会長は、来年10月からインターネット配信が必須業務となるのを控え、放送で培った民放とNHKの二元体制をインターネットの世界でも維持し、切磋琢磨することで多元性が確保されたメディア空間の提供に寄与したいと述べた。また生成AIがもたらす"負の側面"にも協力してあたりたいとした。
【大会宣言】
ひるむことなく挑戦を
来賓祝辞の後、港大会委員長(写真㊦左)が大会宣言を読み上げ、満場の拍手で採択された。
第72回民間放送全国大会「宣言」 日本各地で自然災害が猛威を振るい、世界に紛争や分断が広がるなか、信頼できる情報の価値が一層高まっている。 |
続いて民放連賞の表彰式が行われた。9月19日に公表された4部門14種目91件の最優秀・優秀と技術奨励賞1件の合計92件の代表者らを次々に紹介。舞台上部のスクリーンには、関係者からの祝福のメッセージを生中継で紹介するなどの趣向を凝らして入選作を称えた。最優秀となった作品の代表者は壇上から喜びのことばを述べた。スタッフや取材関係者だけでなく、作品づくりを陰で支えた家族に感謝するコメントも相次ぎ、感極まって涙ぐむ受賞者も。さらに、ラジオ・テレビ両部門の番組8種目から選ばれる民放連賞ラジオ、テレビのグランプリ、準グランプリも発表された。
式典の最後に来年の大会委員長を務める松波啓三・CBCテレビ社長(写真㊦右)があいさつ。「名古屋での民放大会開催は15年ぶり。2026年には愛知・名古屋でアジア競技大会とアジアパラ競技大会も控え、地元も再開発が進んでいる。会員各社にさまざまに紹介いただいた"名古屋めし"もぜひ味わってほしい。勇気をもって前に進めるような大会を準備したい」としめくくった。