視聴データとバズから振り返るMLB東京シリーズ2025の盛り上がり

白岩 佳子
視聴データとバズから振り返るMLB東京シリーズ2025の盛り上がり

日本全国でどれぐらいの人が視聴したのか?

2025年3月15日(土)から19日(水)にかけて開催されたMLB東京シリーズ2025は、日本テレビ系列にて生中継され、多くの注目を集めました。メジャーリーグ開幕戦ではロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手が先発し、圧巻のピッチングを披露。第2戦では大谷翔平選手が今季第1号ホームランを放ち、会場を沸かせました。さらに、佐々木朗希投手が先発でメジャーデビューを果たし、話題を呼びました。対戦チームのシカゴ・カブスは鈴木誠也選手と今永昇太投手が活躍し、同シリーズ全体を大いに盛り上げました。
プレシーズンゲーム4試合を含む全6試合のMLB東京シリーズの生中継における推計視聴人数は7,270万6千人にのぼり、特にカブス対ドジャースの開幕2試合では5,691万人が視聴するなど、歴史的なシリーズとなりました。

図表1.jpg<図表1:MLB東京シリーズ6試合生中継番組の推計視聴人数(全国32地区個人全体4歳以上)>
出典:ビデオリサーチ

2025年の高視聴率番組TOP5(関東地区個人視聴率/5月25日までの放送を対象)では、開幕2試合の中継が1位・2位、プレシーズンゲームも5位にランクインしました。MLB東京シリーズは平日であってもリアルタイムで見たいと思わせるコンテンツであったといえます。また、TOP5すべての番組がスポーツ中継であり、スポーツはリアルタイム性が求められるコンテンツであることが再確認できました。

図表2 2025年高視聴率番組TOP5new.jpg<図表2:2025年高視聴率番組TOP5(関東地区個人全体4歳以上/5月25日までの放送を対象)>
出典:ビデオリサーチ

また、過去の日米野球やMLB開幕戦と比較しても高い視聴率を獲得しています。この要因としては、開催地が日本であり、プレシーズンゲームで日本のプロ野球チームとの試合もあって、世の中の関心が開幕戦以前から高まっていたことが推察されます。加えて、昨年のMLBソウルシリーズ2024以上に日本人選手の活躍が目覚ましかったことも一因と考えられます。山本由伸投手と今永昇太投手の日本人対決や大谷翔平選手のホームランなど、今年の東京開催の試合は特に見応えがあったのではないでしょうか。

開幕2試合の視聴率を地区別にみると、大谷翔平選手と佐々木朗希選手の出身地である岩手地区が32地区中最も高く、地元選手に対する期待の高さも表れていました。今大会は、動画配信プラットフォーム(Amazon Prime Video)でも視聴できたことが過去大会との違いの一つですが、視聴の手段が多様化しているにもかかわらず高い視聴率を獲得できたことは、テレビ放送のパワーが衰えていないことを証明していると思われます。

図表3.jpg<図表3:過去の主な日米野球やMLB開幕戦との視聴率の比較(関東地区個人全体4歳以上)>
出典:ビデオリサーチ

X(旧Twitter)ではどのように盛り上がっていたか?

では、具体的にどのように盛り上がっていたのかを質的なデータで明らかにするために、ビデオリサーチがX(旧Twitter)データを解析した「Buzzビューーン!」でカブス対ドジャースの開幕2試合に関する投稿内容を確認してみます。

まずは投稿者の構成です。男性の投稿が8割を占め、なかでも20代男性の割合が最も多くなっており、若年男性の投稿が活発だったことが確認できました。 

図表4 X投稿者の性年代構成割合new.jpg<図表4:X(旧Twitter)投稿者の性年代構成割合(Xのポストをビデオリサーチにて解析)>
出典:ビデオリサーチ

次に、番組解析のために使用したキーワードと一緒に投稿されたワード(共起ワード)を確認したところ、日本人選手の名前が上位に挙がっており、彼らの活躍を話題にしていたことが確認できました。

ではここからは、開幕2試合が行われた3月18日(火)と19日(水)の投稿内容を朝から時系列に確認してみます。
【朝~昼】
朝のあいさつとともに今日はMLB開幕戦があることのお知らせや、試合中継を見ることが楽しみである旨の投稿が多くありました。応援する選手やチームを表明したり、中継を見るために仕事や家事を早く終わらせなければという意気込みを投稿したりしていました。通勤中に野球帽やユニフォームを身に着けている人を見かけて、世の中の盛り上がりを感じている人もいました。一部地域ではテレビ中継がなかったため、その地域在住の人が試合を見られないことを悲しむ投稿もありました。
また、18日(火)から第97回選抜高等学校野球大会も行われており、鈴木誠也選手と大谷翔平選手のそれぞれの出身校の試合があることに言及している人もいました。

【夕方】
リアルタイムで試合中継を見るために、仕事を早く終わらせたり急いで帰ったりしているという投稿や、お風呂や夕飯の支度を早く済ませたという投稿もありました。なかには、夕方スーパーに行った際に、大谷翔平選手のコラボ商品を思わず買ってしまったという人もいました。
19日(水)は、佐々木朗希投手の初登板が楽しみという声も投稿されていました。

【試合中】
両日ともに、試合に動きがあった場面で投稿が多くされました。「Buzzビューーン!」では1分単位でのポスト数の推移も解析できるため、試合中に関しては毎分ポスト数が多かった時点をご紹介します。

18日(火)は、カブスが先制した場面、ドジャースが逆転した場面、ドジャースが試合に勝利した場面で毎分ポスト数に非常に大きな盛り上がりが見られました。ドジャースが逆転した場面では、大谷翔平選手の活躍を称える投稿が目立ちました。
19日(水)は、ドジャースが2点連続でとった場面、ドジャースの"キケ"ことエンリケ・ヘルナンデス選手のホームランで2点追加した場面、そしてドジャースが試合に勝利した場面で毎分ポスト数に非常に大きな盛り上がりが見られました。途中、大谷翔平選手がホームランを打ち、そのあとにカブスが1点返した場面でも盛り上がりが見られました。

【試合後】
試合展開に関する感想が多く投稿され、ドジャースの強さを再確認したという内容や、日本人選手を称える内容がありました。
18日(火)は、佐々木朗希選手の翌日のメジャーデビューを楽しみにする声もありました。
19日(水)は、ドジャースの2連勝を祝福したり、MLB東京シリーズに対しての感謝を述べたり、米国でのオープン戦を応援したりする内容も投稿されていました。

スポーツ中継の視聴とX(旧Twitter)への投稿

放送という観点では、スポーツ中継はリアルタイム性が求められるため、リアルタイム視聴が期待できるコンテンツです。ただし、勝敗や試合展開によるところは大きく、例えば応援するチームの成績が良ければ視聴の伸びも期待できますが、その逆もあり得るという厳しいジャンルでもあります。

Xの観点では、Xはもともと「推し活」ツールの一つとして使われることが多く、スポーツでも同様の活用がされています。例えば、ここ数年人気が高い男子バレーボールは、各選手のアイドルさながらの人気に支えられている側面もあるため、選手起点の投稿が行われることが多いです。これは、MLB東京シリーズに関しても同様といえます。

また、文字情報メインのSNSであるXであっても「映え(ばえ)」は重要な要素の一つです。例えば、東京2020オリンピックの「ロードレース」やパリオリンピック2024の「馬術」は地上波放送がありませんでしたが、X上では地上波で放送された各競技と同等の盛り上がりが見られました。「ロードレース」では海や富士山など日本らしい風光明媚な景色について、「馬術」ではヴェルサイユ宮殿と馬のヨーロッパらしい組み合わせについて、ネット配信やBS放送を見ながらの投稿がみられました。

スポーツジャンルは盛り上がり方が予測しにくいものではありますが、「推し」や「映え」という要素をうまく使うと、スポーツ中継の視聴やXへの投稿数の増加が見込めるかもしれません。

まとめ

大谷翔平選手をはじめとした日本人選手のメジャーリーグでの活躍は、MLB開幕戦に対する興味関心を高めリアルタイムでの試合中継の視聴を促したと思われます。「Buzzビューーン!」のデータをみていると、日本のプロ野球で活躍していた時代からのファンが引き続きその選手を応援しているといった、選手起点での視聴も多いようでした。

日本人選手が複数人出場したからこそ、視聴者層に広がりが生まれ、今回の高い視聴率につながったといえるのではないでしょうか。日本のプロ野球の人気があってこそのMLB人気ともいえます。今期の日本のプロ野球の盛り上がりとともに、MLBでの日本人選手の活躍にも期待しています。

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