ビデオリサーチでは、視聴率調査を60年以上続けてきました。「視聴率」という単語は一般の視聴者でもご存じの方が多く、さまざまなメディアでも取り上げていただく機会があります。一方で、だれがどうやって調べているのか? 何に対してのパーセンテージなのか? 等、素朴な疑問として質問を受けることが多々あります。民放online読者の方々は、日頃から視聴率をご覧になっている方、業務で使っている方も多いかもしれませんが、あらためて視聴率の基本について解説いたします。気になる見出しから、ぜひお読みください。
そもそも視聴率は何のためにあるの?
「視聴率○○%」というのは、どのくらいの人/世帯がテレビを見ていたかを示す指標です。視聴率データには大きく3つの役割があります。1つめは、世の中のトレンドの可視化です。テレビで人気の番組やジャンルを通じて、今どのようなことが人々の関心を集めているのか、世の中の動向を表すことができます。2つめは、視聴者反応の可視化です。どのような番組、その中のどの部分が、だれにどのくらい見られているか(あるいは見られていないのか)を示すことで、番組の制作や編成の参考にしていただくことができます。3つめとして、テレビ広告取引の共通指標という役割があります。テレビの媒体力やテレビ広告の価値を可視化し、広告出稿社、放送局、広告会社が広告取引をする際の指標として利用されています。
どうやって調べているの?
視聴率調査は、テレビ所有世帯の一部を対象に調査する「標本調査」です。住民基本台帳のデータをもとに、ビデオリサーチがランダムに抽出した世帯にご協力を依頼します。独自の基礎調査も行いながら、調査にご協力していただく世帯や個人の構成がそのエリアの縮図になるようにしています。
日本国内には32の放送エリアがあり、ビデオリサーチでは、全32地区で視聴率調査を行っています。地区によってサンプル数は異なりますが、関東地区では2,700世帯、関西地区では1,200世帯を対象としています(他地区の詳細はテレビ視聴率 サービス概要をご確認ください)。
調査対象世帯には、「PM(ピープルメータ)」と呼ばれる測定機を設置しています。ピープルという名前が表すとおり、テレビ視聴が世帯内のどの人の視聴であったか、個人単位で把握することができます。テレビを見ている人がPMのリモコンで自分の番号のボタンを押すことで、だれが見ていたかを判定しています。
視聴チャンネルの判定には、音声を使っています。調査対象世帯のテレビデバイス内の音声を捉え、放送側の音声と照合することで、テレビ稼働状況や視聴チャンネルを特定する仕組みです。
具体的には何を、いつから調べているの?
日本では1953年にテレビ放送が始まりました。ビデオリサーチが機械式視聴率調査を始めたのは1962年で、テレビが一般家庭に普及し、カラーテレビも発売された頃でした。
調査開始当時から現在まで、社会の状況、そしてテレビの視聴環境は大きく変化しています。視聴率調査もそれらの変化にあわせて、調査内容や各世帯の視聴データの収集方法、視聴率データの提供方法など、さまざまな面でアップデートを続けてきました。ここでは、特に大きな変化を3点ご紹介します。
①PM化(機械式個人視聴率調査の開始)
日本の家庭にテレビが普及した頃は、テレビといえばお茶の間に1台、家族全員で見るのが主流だったため、主に「世帯視聴率」を調査していました。時代とともに個室にもテレビが置かれるようになり、ライフスタイルの変化とともに個人単位でテレビを見ることが増えていきます。それにともない、個人視聴=世帯内のだれが視聴したのか、も測定する「機械式個人視聴率調査(PM式調査)」が関東地区で1996年に始まりました。後述しますが、現在では世帯視聴率よりも個人視聴率が使われることが多くなっています。
②タイムシフト調査の開始
1970年代半ばに家庭用VTRが登場し、リアルタイム視聴だけでなく録画再生視聴もされるようになり、1980年代から視聴率調査とは別に録画率や再生率の把握を始めました。その後DVR機器が普及すると録画再生のボリュームが増え、関東地区では2016年にリアルタイム視聴と同じ世帯/個人を対象としたタイムシフト視聴率の測定を開始しました。
③調査対象地区の拡大、2020年に全地区の調査仕様を統一
関東地区から始まった視聴率調査は、1963年に関西、1964年に名古屋......と、全国の放送エリアに調査対象を拡げました。一方で、各地区で調査の頻度やPM調査の有無、タイムシフト調査の有無など、調査仕様がまちまちでした。
2020年には27地区(翌2021年には全32地区)で調査仕様を統一し、全地区で毎日のPM調査とタイムシフト調査を開始しました。この統一によって、「全国」を束ねて視聴の規模を算出できるようになりました。テレビのリーチの大きさを示すことができ、デジタルをはじめとした他の媒体と横並びで見ることもできます。
視聴率○○%は何を示しているの?
視聴率の最小単位は1分です。毎分の視聴率をもとに、番組や時間区分(20時台、など)の視聴率を集計しています。また、「視聴率」と一言で言ってもいくつか種類があるので、ここではそれぞれ何を示しているかを解説したいと思います。
―「だれが」見ているか
大きく分けて「世帯視聴率」「個人視聴率」があります。「世帯視聴率」はテレビ所有世帯のうち、どのくらいの世帯が視聴したか、「個人視聴率」は調査世帯の4歳以上の人全員の中で、どのくらいの人が視聴したか、を示す割合です。個人視聴率は性別・年代別・職業別などに分けて表すこともできます。
世帯視聴率では、家族のうち1人でも視聴していればカウントされるのに対して、個人視聴率は4歳以上の家族全員が分母となり、視聴していた人だけがカウントされるので、数字の水準が異なります。一般的に、個人視聴率の数字は世帯視聴率の数字より小さく出ることが多いです。一例として、連続テレビ小説『虎に翼』の初回(2024年4月1日(月)NHK総合8:00~)は、個人視聴率9.3%、世帯視聴率16.4%(ともに関東地区)でした。
前章でも触れたとおり、時代とともに個人単位の情報接触が増え、個々の視聴状況をとらえることが重視されるようになってきました。広告の取引指標も現在は個人視聴率がメインになっています。一方で、人気番組や大きなスポーツイベントなどで視聴率が報道される場合、一般の視聴者にもなじみのある世帯視聴率が使われることもあります。また、世帯単位で調査することで、テレビの大きな長所の一つである「共視聴」(家族などの複数人が一緒にテレビを見る)の状況を示すこともできます。
(詳細は「個人視聴率と世帯視聴率」 ビデオリサーチが解説 視聴率基本の『キ』もご覧ください)
―「いつ」見ているか
一般的に「視聴率」と呼ばれているのは"リアルタイム視聴率"であることが多く、これは放送と同時の視聴を示すものです。その他に、放送から7日間(168時間)以内を対象とした再生視聴を示す「タイムシフト視聴率」、リアルタイムとタイムシフトいずれかでの視聴を示す「総合視聴率」があります。
連続テレビ小説『虎に翼』の初回(同)では、リアルタイム視聴率9.3%、タイムシフト視聴率5.1%、総合視聴率13.8%(いずれも個人全体、関東地区)でした。ドラマは自分の好きなタイミングでじっくり見たい、というニーズがあり、タイムシフト視聴率が高めに出やすいジャンルの一つです。番組の見方が多様化しているため、リアルタイム、タイムシフトの両方を測定することで、番組の広がりをより正しく示すことができます。
(詳細は「視聴率の種類」 ビデオリサーチが解説 視聴率基本の『キ』もご覧ください)
今後の視聴率調査はどうなっていくの?
本稿ではテレビ視聴を取り巻く環境の変化と、これまでの視聴率調査の整備についてご紹介しました。最近の視聴環境の大きな変化として、CTV(コネクテッドテレビ)の普及、動画配信プラットフォーム利用の拡大が挙げられます。2023年10~12月の研究データでは、テレビデバイスの利用のうち6.5%を動画配信プラットフォーム利用が占めるという結果が出ています(詳細はニュースリリースをご参照ください)。このような実態を踏まえ、ビデオリサーチでは、視聴率調査世帯のテレビ放送の視聴だけでなく、CTVやスマートデバイスによる動画配信プラットフォーム利用の測定を開始し、今年4月に関東地区における調査データを「STREAMO(ストリーモ)」β版としてリリースしました。2025年10月には全国での調査に拡大予定です。
番組の視聴方法、経路、デバイスの選択肢が増え、見られ方の多様化が加速する中で、コンテンツの価値をトータルで示すことのできる測定の実現、指標の整備に今後も対応していく予定です。テレビやコンテンツの進化とともに、ビデオリサーチも進化し続けられるように努めますので、今後ともよろしくお願いいたします。