番組審議会の役割と活用 【放送の自主・自律を守る―番組審議会の目線から②】

宍戸 常寿
番組審議会の役割と活用 【放送の自主・自律を守る―番組審議会の目線から②】

各放送局がそれぞれ設置している番組審議会。その役割や意義について連載企画を通じてお伝えしています(まとめページはこちら)。
第2回目は、東京大学大学院の宍戸常寿教授にお考えを伺いました。(番組・著作権部)


番組審議会は、放送界の方々にとっても、よくわからない・よく知らない存在かもしれない。しかし、番組審議会は、日本の放送制度の特徴を端的に示すものであると同時に、デジタル社会における放送の役割を発展させていくためのポテンシャルも内包しているように思われる。以下では、制度の特徴について筆者がどのように理解しているかを述べたうえで、これまでの機能向上に向けた取り組みを評価し、さらに今後の放送事業者・放送界に若干の問題提起をしてみたい。

番組審議会制度の特徴

番組審議会は、放送事業者が、放送番組の適正を図るために外部の者から意見を聴くための場として、放送法により必ず置くことが求められている機関である。もともとは1959年に、低俗番組批判の高まりを受けて定められた制度であり、その後も、形骸化しているとか活性化が必要である等の指摘を受けて手直しがなされて、現在の形になっている。

現在の番組審議会制度の特徴は、放送法第6条第6項にあると筆者は考えている。

6 放送事業者は、審議機関からの答申又は意見を放送番組に反映させるようにするため審議機関の機能の活用に努めるとともに、総務省令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を公表しなければならない。
一 審議機関が放送事業者の諮問に応じてした答申又は放送事業者に対して述べた意見の内容その他審議機関の議事の概要
二 第四項の規定により講じた措置の内容

法令用語としては珍しい「機能の活用」という表現は、番組審議会のあり方を放送事業者の自主性に任せつつ、その形骸化を防ごうとしたものである。また、議事の概要の公表義務は、視聴者に対する透明性を高め、番組審議会と視聴者の結び付きを深めることを期待したものである。このような番組審議会制度は、放送番組編集の自律(放送法第3条)の下で、放送事業者による自主規律に期待する法の基本構造を踏まえて、その実効性を視聴者の監視の下で確保するための仕組みと見ることができる。

番組審議会の機能向上に向けた取り組み

筆者はかつて、民放onlineの前身である隔月誌『民放』20189月号に、「番組審議会の意義と活用のあり方」を寄稿したことがある。そこでは、上記のような機能の活用や「見える化」が十分ではなく、放送事業者としては「無難な安全運転」を心がけていないか、また、民放連をはじめとする放送界として番組審議会全体としての取り組みも考えられるのではないか、という問題提起もした。

喉元過ぎれば熱さを忘れるか、あるいは、デジタル化の進展や新型コロナウイルス感染症に伴う放送事業の環境変化で顧みる余裕が乏しくなってきたせいかはさておき、2018年当時は、総務大臣による番組に対する行政指導や、番組編集準則を含む放送規制の緩和が大きな波紋を投げかけていた。このような放送規律のあり方が問われる中で、番組審議会を、これまでのイメージにとらわれずに活用することが、放送規律の構造と整合的なのではないかと筆者は考えたのであった。

民放連も同年7月には「放送の価値向上・未来像に関する民放連の施策」で「放送番組審議会の活動内容の見える化」を掲げ、201912月には民放連ウェブサイトに、各社の番組審議会のサイトへのリンクを一覧化した「番組審議会ポータルサイト」を開設した。そして審議会の構成員の多様性に配慮したり、選挙報道のあり方について審議を求めたり等、これまで以上に積極的な取り組みを進める放送事業者も増えてきているようである。筆者としてはこのような取り組みは、地味ではあっても、制度の趣旨にかなったものであり、放送の適正化を下支えするものとして、強く歓迎したい。

デジタル時代の放送と番組審議会への期待

デジタル化が進む中、マスメディアには、知る権利に奉仕するために持続可能性を確保し、偽情報等も飛び交う中で個人の情報リテラシーを高め、安定して健全な世論形成に貢献するといった役割を発揮してゆくことが求められている。とりわけ基幹放送事業者にはそのような社会的期待が強く寄せられている一方、事業環境が厳しくなっていることも明らかであり、さらには近時のフジテレビの問題に象徴的に見られるとおり、ガバナンスのあり方も問題とされ始めている。

このような状況下で、番組編集の自律を守りつつ「放送に携わる者の職責」(放送法第1条第3号)をバージョンアップさせていくことはもちろん容易ではないが、あらためて放送独特の仕組みである番組審議会制度の検証ともう一段の活用を考えていくべきではないだろうか。代表的な例としていえば、放送番組の同時配信を含むインターネットの活用が、放送事業者としての役割をデジタル社会で果たすためのものであると考えるのならば、番組審議会に各種情報を提供して自由に意見をもらうことが考えられる。インターネット上の情報配信については、閲覧数や運用型広告の収入等の指標があるが、それに頼るだけではアテンションエコノミーの世界に放送事業者が取り込まれてその本来の役割を見失うことにもなりかねない。経営層も出席する、多様な立場からの「審議」の場を活かさない理由はないだろう。

委員、事務局、経営層、放送界それぞれの役割

番組審議会の効率的・効果的な審議に向けた工夫も有用だろう。例えば参議院議員選挙のようにスケジュールが決まっている事象については、事後に関係する番組の審議を求めるというだけでなく、過去の事例や審議会の指摘を参考にしながら編集・報道の方向性について事前に意見を求める、数カ月先の審議の予定を委員に告知し視聴者として関心を持って番組を見ておいてもらう等の工夫が可能であろう。このように委員がいっそう責任感をもって審議する環境を整備することで、デジタル社会において真の意味で視聴者に開かれた、信頼される番組制作への貢献が、期待できるのではないか。

いま委員について触れたが、このような番組審議会の活性化は、放送事業者とりわけ事務局の負担が増加することも確かである。そのような負担を軽減するためには、放送の区域、ネットワーク、そして放送界全体でのノウハウの共有や「見える化」が有用であろう。とりわけ民放連には、放送外からの不当な批判に答えるためにも、番組審議会の委員・事務局・視聴者への定期的なアンケート実施等のエビデンス整備を期待したい。

そして誰よりも、放送事業者の経営層に対しては、放送法遵守のための「コスト」ではなく、むしろ放送の役割を高めるための「投資」と位置づけて、番組審議会への必要なコミットメントを社内外に示してもらいたい。それこそが放送にふさわしい自律的なガバナンスの要諦の一つであると筆者は考えている。

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