韓国でもラジオの経営状況には厳しいものがあります。メディア接触状況の変化によって、ラジオリスナーも減る傾向にあります。それでも、ラジオ各局は「見えるラジオ」の導入やコネクテッドカーやYouTubeの活用、AI時代への対応など、さまざまな対策を講じています。他方で、政府も災害時の重要インフラとして、政策や資金面でラジオへの多様な支援を打ち出しています。そうした韓国ラジオを取り巻く状況について、韓国のジャーナリスト趙章恩さんに、短期集中連載でレポートしていただきます。(編集広報部)
韓国ラジオの来歴
韓国のラジオの歴史は日本の植民地だった1927年に始まった。コールサインはJODK。1945年8月15日の光復(韓国では植民地支配からの解放を「光復:クァンボク」と言う)以降、1947年9月3日に国際電気通信連合(ITU)が韓国のコールサインをHLとした。これを記念して9月3日は放送記念日になった。毎年放送記念日には、放送の発展に貢献した関係者を表彰する式典が行われる。1947年から独立した韓国の放送として中央放送局(HLKA、現在のKBS)のラジオ放送が始まったが、ラジオが一般家庭に普及したのは1959年金星社(現在のLGエレクトロニクス)が初めて韓国産の受信機を販売してからである。輸入ラジオの半額ほどで安く販売し始めたことにより受信機が普及、ラジオ局も増え1960年代からラジオ全盛期が始まった。
韓国のラジオキー局はテレビ放送を兼営する公共放送の韓国放送公社(KBS)・教育放送公社(EBS)、半官半民の韓国文化放送(MBC)、民放のSBS、キー局傘下の地域放送があり、ラジオ専門放送はTBN交通放送、TBS(Traffic Broadcasting System、ソウル市庁が運営する交通放送)、CBS(基督教放送)、 BBS(仏教放送)、YTNラジオ(放送専門ケーブルテレビのラジオ)、KFN(Korean Forces Network、国軍放送)、アリランラジオ(韓国政府が設立した国際放送交流財団が運営する英語放送)などがある。
ラジオ人気の高まりと、共に聴く楽しみ
韓国では、独立前の1945年から一部地域で、また1950年の韓国戦争(朝鮮戦争)勃発後は全国で、午前0時から早朝4時まで、夜間通行禁止令が出され、1982年1月5日まで続いた。1982年1月5日までこの時期にラジオの深夜番組が人気を集めた。好きなDJ(ラジオパーソナリティ)に手紙を送り番組で読んでもらうリスナー参加型番組が増え、1990年代までラジオ放送局はリスナーから届いた手紙やハガキを展示するイベントを行っていた。ラジオ番組で便りが紹介されるとキムチ冷蔵庫や洗濯機、ホテル宿泊券など豪華な景品がもらえた。深夜ラジオ番組が夏休みに開催する高校生向けキャンプも人気だった。
「見えるラジオ」の始まり
かつてソウルの路線バスはラジオを流す運転手が多かった。チャンネルは運転手の好みで選択。ラジオから面白い話が流れると乗客がみんなで笑ったり、オチのところでバスのアナウンスが入ると乗客が一斉に「あ~」とため息をついたり、楽しかった思い出がある。韓国の旅客自動車運輸事業法(日本の旅客自動車運送事業運輸規則に該当)にはバスの中でラジオを流してはいけないという規定はないが、新型コロナの後から見当たらなくなってしまった。最近はほとんどの乗客がワイヤレスイヤホンをして自分のスマートフォンから動画を見ている。
放送通信委員会を廃止し、今年10月1日に発足した韓国放送メディア通信委員会の「放送媒体利用形態調査」によると、1週間に一度以上ラジオを利用している人は2012年の26.7%から2022年に19.7%、2023年には15.6%へと減少し続けている。ラジオの主な利用者は40代以上だった。ラジオを利用する方法は自動車のオーディオが79.7%と突出していて、ラジオは移動しながら車で聴くメディアという認識が強い。
韓国のラジオ各局は1990年代後半から自社ホームページでラジオ放送のインターネット同時配信を始め、「見えるラジオ」も始めた。公共放送KBSは1995年からホームページでテレビとラジオの全チャンネルを同時配信し、聴き逃したラジオ番組を後から聴けるポッドキャストサービスも始めた。1997年からはラジオのスタジオ内部を映像で生中継する「見えるラジオ」を始めた。2006年にはラジオ放送局別にパソコンにインストールして利用する無料インターネットラジオアプリが登場した。KBSは「KONG」、MBCは「mini」、SBSは「gorealra」を立ち上げている。アプリでは全ラジオ放送の同時配信、DJとコミュニケーションできるライブチャット、選曲リスト、「見えるラジオ」、ポッドキャストなどを利用できる。「KONG」「mini」gorealra」はスマートフォンやタブレットPC、コネクテッドカーでも利用でき、利用者は約250万人前後と推定されている。
2010年代にスマートフォンが普及してからは、全ラジオキー局がYouTubeにも公式チャンネルを開設してラジオのスタジオ映像を生中継しながらライブチャットができるようにしたほか、「アイドルが出演して歌う場面をショート動画で配信」「アイドルのトーク部分だけをまとめてポッドキャストに」「ラジオ番組の制作過程を動画で配信する」など、ラジオだけど見て聴いて楽しめるコンテンツにしようと力を入れてきた。
https://www.youtube.com/@KBS_1Radio
〈KBS1ラジオのチャンネル(登録者数135万人)〉
https://www.youtube.com/@KBS_CoolFM
〈KBS CoolFMのチャンネル(登録者数149万人)〉
https://www.youtube.com/@radiombc
〈MBCラジオのチャンネル(登録者数84.4万人)〉
https://www.youtube.com/@SBS_Radio
〈SBSラジオのチャンネル(登録者数166万人)〉
MBCラジオのプロデューサーによると、以前は「見えるラジオ」で舞台用の衣装を着ていない姿を見せるのに抵抗があったアイドルたちも、今はYouTubeに「見えるラジオ」の動画をアップしないラジオ番組には出演しないというほど変わったという。韓国のラジオは見て、聴いて、参加して、楽しむラジオを作るために頑張っているが、利用率は減少している。
リスナーの減少とアプリ乱立という課題
当然ではあるが、ラジオの利用者が減ると広告も減る。韓国放送広告振興公社の「放送通信広告費」統計によると、2023年の放送広告は3兆3,898億ウォンで前年比15.7%減少、このうち地上波放送は1兆3,267億ウォンで前年に比べ18.7%減少した。ラジオ広告は2023年に2,160億ウォンで前年比15%の減少だった。2024年は前年比16.2%減の1,810億ウォンとなる見込みである。インターネットラジオやポッドキャストなどに入るデジタル音声広告は別途集計していない。
利用者は減少してもリスナーが多い看板番組はある。日本ではテレビでいろいろな分野のゲストやコメンテーターが登場するワイドショーを放送するが、韓国ではラジオでワイドショーを放送する。ラジオの聴取率調査をみると、リスナーが多いのはワイドショーに近いニュースを解説する番組だった。政府関係者や各政党の議員がゲストとして出演しリスナーの質問に答える朝夕のニュース解説番組は、選挙にも多大な影響を与えるほどである。YouTubeでライブ放送を行いポッドキャストを提供する政治チャンネルも増えている。
韓国は早期にラジオ各局がそれぞれアプリを作りインターネットラジオサービスを積極的に始めたことで、逆にまとまりがないことが悩みである。そこで「統合ラジオプラットフォーム」構想が検討されることとなった。
次回は韓国政府のラジオ放送支援や統合ラジオプラットフォームに向けた動きについて紹介する。
