【最優秀受賞のことば】 信越放送 SBCスペシャル 寅や(2024年民放連賞テレビバラエティ番組)

宮川 伊都子
【最優秀受賞のことば】 信越放送  SBCスペシャル 寅や(2024年民放連賞テレビバラエティ番組)

過去に取材で知り合った幾人もから、なぜか同時に寄せられた1つの"タレコミ"。
「『男はつらいよ』の寅さんが大大大好き! 離婚歴2回、子ども2人、派遣で働き貯金はゼロ。そんな女性が齢50にしてゲストハウスを建てるって言うからさぁ、取材してやってよ」。

まぁおせっかいな人たちが、女将の周りには大勢いるもんだと思いつつ直接話を聞きに行くと、現れたのは赤髪に黒縁メガネ、ダボシャツに腹巻姿で弾けんばかりに笑う女将・清水則子さん。

「昔からいろんな仕事をしてきたけど、何をやっていても家に人が集まって来るんだよ。鍵なんかかけたことなかったよ。そしたら、みんながこのままこれを仕事にすればいいじゃんって。昭和の......寅さんの......人情あふれるあったかい場所をつくりたいって思ったんだよ!」と熱弁を振るう"清水さんの人情宿が見てみたい!"と取材を即決。2022年4月、銀行などから2,000万円を借り入れ、長野県千曲市上山田温泉に誕生した「おせっかいゲストハウス昭和の寅や」を、オープンから密着することにしました。

何が起こるかわからないため、時間があればデジカメ片手にお邪魔し、「宿泊客が来ない」と暇そうにしている清水さんと、世間話をする日々が続きます。撮るだけ撮って番組の展開は後で考えようと思っている中、寅や唯一の従業員だという長男の寅くんに出会います。

寅くんが「寅やをやり始めてからの嫌なことも言ってよろしい? ここに来られる方は出会いを求めていらっしゃるんでしょうけど、親子とはいえボクはお母さまのように社交的ではありませんので、ゲストハウスは苦手でございます」。

すると清水さんは「ゲストハウスがイヤだって? 昔からそうだよね。宮川さん、こいつの名言教えてやろうか。"ボクはこの世で一番苦手な人と住んでいます"。ガハハハハハ」。

え?何この親子の会話......おもしろ過ぎる! 母である清水さんに対し、いつも敬語で話をする寅くん。実は、寅くんのことも考えた上でゲストハウスを始めた清水さん。"撮るだけ撮って方針"は変えないものの、この日から家族にカメラを向け始めました。

次男のじゅんくんに初めて会ったのは、取材を始めて半年後。まだ診断は下りないものの、大きな病気らしいと、清水さんが泣きながら話を始めた後でした。病名は指定難病の潰瘍性大腸炎。積極的ではないものの、じゅんくんとも話ができるようになりましたが、会う度に目に見えて体調が悪くなっていきました。こんな状態のじゅんくんにカメラを向けていいのだろうかと思うこともありましたが、そんな時に清水さんが「絶対よくなるから、この様子撮っといてよ。同じ病気で苦しんでる人に大丈夫だよって言ってやりたいから」と取材の許可をくださいました。「寅や」というタイトルではありますが、構成を考え始めた時には、清水さんと息子2人の家族の物語にしようと決めていました。そういえば、『男はつらいよ』もそうだよね......って。

今、SNSでの自己発信には積極的ですが、取材となるとプライバシーだったり、肖像権だったりを言われることも多い時代です。この素晴らしい賞をいただくことができたのは、嫌な顔一つせず取材を受け入れてくれた清水さんご一家のおかげです。心から感謝申しあげます。そしてこれからも、デジカメ片手に「寅や」に行ってみようと思っています。


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