【村上圭子の「持続可能な地域メディアへ」】⑤ 同一放送対象地域における"1局2波"の議論は?

村上 圭子
【村上圭子の「持続可能な地域メディアへ」】⑤ 同一放送対象地域における"1局2波"の議論は?

メディア研究者の村上圭子さんによる連載です。テーマは「ローカル局」。村上さんは、NHK放送文化研究所メディア研究部に在籍時から放送政策、地域メディア動向、災害情報伝達について発信してきました。ローカル局が直面している厳しい現実のなかで新たな挑戦をする局、人への取材を中心に、地域メディアの持続可能性を考えていきます(まとめページはこちら)。(編集広報部)


はじめに

20251224日、総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」(第40回会合、※外部サイトに遷移します。以下同じ)で、「マスメディア集中排除原則(以下、マス排)」の緩和についての議論が行われた。主な論点になったのは、現在は認められていない「同一放送対象地域における複数のテレビ局の兼営・支配」の原則を緩和するかどうか、いわゆる"12波"もしくは"1局複数波"(以下、12波)についてである。この議論は、202510月に在り方検で本格的に開始されたローカル局の将来に関する検討の一環として行われているものであり、本連載では第37回第38回の会合の議論を整理した。本稿では、第40回の議論を整理する。

進むマス排緩和

マス排とは、基幹放送(地上放送と衛星放送)¹を運営する機会をできるだけ多くの者に対して確保することで、基幹放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されることを目的とした国の制度である²。この制度によって、放送の多元性、多様性、地域性の三原則の実現が目指されてきた。しかし、メディア環境の変化や人口減少などでローカル局の経営が困難となる中、局の経営の選択肢を増やすためにさまざまな緩和策がとられてきている。

近年の緩和策としては、複数放送対象地域における放送番組の同一化、隣接・非隣接に関わらず最大9局まで兼営・支配を可能とする制度、認定放送持株会社傘下の事業者の地域制限の撤廃がある。以上の緩和策はいずれも、系列ネットワークのローカル局の経営の今後に課題感を抱くキー局の提案がきっかけとなり、制度改正されたものである。ただし、今回の論点である12波は、同一放送対象地域内の緩和であり、系列をまたぐ兼営・支配が対象となるため、発意はローカル局にあることが想定される。そのため、議論のきっかけとして、どのくらいの局が1局2波を希望しているのか、逆に否定的なのか、ローカル局の意向の把握が必要であった。

会合では2つの事業者アンケートの結果が紹介された。1つは民放連が2025年7~8月に実施したもので、意向分布が割合で示された。もう1つは総務省が2025年12月に実施したもので、こちらは各局の意見の記載という形で示された。

民放連アンケートの結果は?

まず、民放連アンケートの結果についてみていく。下図は地上民放テレビ127社を対象にした、12波に関するアンケートの結果である。「認めることが望ましい」と回答したのは39社と、「変更は必要ない」と回答した30社を上回った。半数弱の58社は「どちらともいえない」と回答した。

図1 民放連anc.jpg

<図: 放送対象地域が重複する場合における複数テレビ局の兼営・支配>

また、アンケートでは同一放送対象地域におけるマス排緩和策として、支配の基準の緩和についても聞いている(この項目はテレビ・ラジオ社の計194社が対象)。10分の1の議決権保有の緩和については、「望ましい」が34%、「必要ない」は19%。5分の1の役員兼任比率の緩和については、「望ましい」が32%、「必要ない」が21%。いずれも「どちらともいえない」が半数弱を占めていた。

総務省アンケートの結果は?

総務省のアンケート結果の報告は、12波に関する内容が中心だった。報告資料では、各社の意見が肯定から否定までのグラデーションで示された。以下、筆者なりに、①肯定的な意見、②条件付き肯定、③判断が困難、④慎重もしくは否定的な意見、の4つに分けて整理しておく。

①については経営の選択肢が増えることを歓迎する意見が多数みられた。中には、マス排緩和で多様性、地域性がより確保される状態を生み出せるならば多元性の一定程度の毀損は許容されるべき、といった意見もあった。

②については、現状でも同一放送対象地域で民放テレビ局が3局以下の地域が存在している中、4局以上ある場合には2局までの兼営・支配を認めてもいい、といった意見、緩和の実施には地域社会に密着した報道と文化的価値の共有を確保することが必要、といった意見、また、著しく経営困難に陥った局に特例として認める、といった意見があった。③については、12波にしたとしても劇的な経費削減は難しい、収支改善につながるか不透明、といった意見が多かった。④については、報道や番組の多様性や地域情報の量が担保されるのかという懸念や、報道機関の多角的な見方を伝える使命が果たせるのかといった危惧が多くあげられた。

また、12波に関連するものとして、基幹放送普及計画における「放送系の数の目標」(注:各地域におけるチャンネル数の目標)についても同時に見直し、放送における多元性のあり方を根本から見直すことを要望する意見や、これからの配信時代を踏まえながら、1県に何局が妥当なのか抜本的な検討が必要ではないか、といった意見があった。

アンケート結果を受け、何が議論されたのか?

在り方検の前身である「放送を巡る諸課題に関する検討会」から有識者として参加する電通総研の奥律哉構成員は、「5~10年前に同じアンケートを取っていたら、こうした回答はなかった。これまでは縦の系列での堅牢化を進めることが基本的な作戦で、横については、言うは易しだがやるのは難し、という感じだった。こうしたことが総務省の会議に出てくることに時代の流れを感じる」とコメントした。名古屋大学の林秀弥構成員も、「想定より1局2波の要望が多かった印象がある。採用するかしないかは個社の自由であることを前提として、一定程度の緩和を検討してもよいのではないか」コメント。その上で基幹放送普及計画について、「目標自体が時代にそぐわなくなってきているため、多元性について柔軟な考え方を取る時期にきているのではないか」とした(総務省事務局が代読)。

一方、日本総研の大谷和子構成員は、「実際にどのようなコスト低減が可能で、経営状態の好転につながるのか、もう少し細かい議論を進めることが必要ではないか」とした上で、「特に放送波が少ない地域においては、多元性を失ってしまう影響は決して小さいものではない。本当に経営の選択肢として有効なのか見極めるための時間が必要」と慎重な意見を述べた。

議論の最後にコメントを求められた民放連の堀木卓也専務理事は、「自社にとって得か損かだけではなく、業界全体として経営の選択肢を広げることが必要だと考えて、『望ましい』と答えている社もある。『緩和が必要ない』と答えた社の中には、実際に緩和すると困ると本当に考えている社もあると思う」と応答した。

おわりに

民放連の堀木専務理事の発言にもあったが、マス排緩和については、個社にとっての対応と業界にとっての対応という両方の側面があり、なかなかに悩ましい。特に、今回論点となっている12波については、これまで同一放送対象地域内で、個社同士という対等な関係で切磋琢磨してきたローカル局が、支配する側とされる側という上下関係になる状況も否めない。個社の肯定か否定かの意向がすなわち、地域内の局間の力関係を反映しているといえなくもない。総務省が紹介したアンケート結果の中に、1つだけ「地域の視聴者にとって有益なものかどうか」という意見があった。マス排をめぐる施策を考える上で最も重要なのは、個社にとってでも業界にとってでもなく、地域にとってその緩和は意味があるのかどうか、であろう。先に紹介した総務省アンケートの中で、「4局以上ある場合には2局までの兼営・支配を認めてもいい」という意見があったが、全国一律の議論をするのではなく、地域の状況を踏まえた丁寧な議論が必要ではないだろうか。そして、その先には、人口減少の実態に応じた基幹放送普及計画のあり方について議論していくべきではないかと筆者は考える。

在り方検の事務局は、次回の会合で総務省アンケート結果のうち、地域情報の確保について説明するとしている。今後も引き続き、議論について整理していきたい。


1.ケーブルテレビ、東経124/128CS放送は含まない
2. 放送法第91条第2項第1号(https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/media/

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