徳島県で生まれたから「とくし丸」。社会奉仕の心にあつい「篤志（とくし）」の意味も込めました。2012年に軽トラック２台で始まり、いま全国で1,000台超。それほどに需要を伸ばしてきたのは、独自のビジネスモデルがあったから。
買い物に会員登録や会費もいりません。気になる値段は、店頭価格に20円プラス（一部地域は10円プラス）。10点買えば200円を利用者が負担します。地元スーパーの商品をとくし丸が代行販売します。スーパーは売れ残りの返品に応じなければなりませんが、販売にかかる費用は増えません。
商品を届けるのは、トラックを約350万円で購入した個人事業主の販売員。スーパーの売り場から商品を持ち出し販売するので、仕入れのリスクは負いません。販売や仕入れのリスクが分散でき、地元スーパーの売り上げ支援、販売員という仕事の創出、さらには"買い物弱者"の増加にも歯止めがかけられる、というワケです。
＜生鮮食品など約1,200点を積んで週１―２回、自宅の前までやってくる「とくし丸」＞
創業者の住友達也さんは30年以上前、タウン誌で成功をおさめた実業家。かつての若者文化の担い手はいま、お年寄りのくらしの応援団です。創業から２年後には県外へ進出、当社の取材も全国に及び、テレビのローカル情報番組などの特集枠で放送を続けてきました。
10年間取材を続けてこられたのは、とくし丸が「ありがとう」と言われる仕事だから。庭先のゴーヤーを若い販売員さんが物干し竿で取ってあげたら「困っとったんよ、ありがとう」。冬の寒い日、ベテラン販売員におばあちゃんから手編みの帽子のプレゼント。「あんたもええ年やから、風邪ひかんといてよ」。今度は販売員さんが照れくさそうに「......ありがとう」。軽トラックを囲んでいろんな「ありがとう」が飛び交う現場。そこに立ち会え、うれしくて。
＜買い物はお年寄りに残された最後のエンターテインメント！＞
ラジオ特番は2022年の８月。コロナ禍で外出を控える住民の需要が急増し、おととし500台だったとくし丸は、倍の1,000台にまで増えていました。いま、どこで、どんな困りごとが起き、どう応えようとしているのか、あらためてリサーチと取材を重ねました。地震や豪雨災害、過疎、孤独死――これらの情報をラジオの生放送でどう活かせばよいか......「過去のテレビ素材の使用は最小限に抑えて」。
中でも力を入れたのが災害への対応です。平成30年７月豪雨（西日本豪雨、2018年）では、岡山県倉敷市真備町で浸水被害にあったスーパーが高知県のスーパーから車両提供を受け、臨時店舗として住民のくらしを支えました。北海道の販売員が2018年の胆振東部地震の体験から作成した、お役立ち品物リストなども全国の販売員と共有しています。
自治体との新たな連携にも注目しました。徳島県美馬市木屋平（こやだいら）地区の山間集落はそこまでの道のりに民家がなく、十分な売り上げが見込めません。その道のり分の売り上げを、美馬市が補助金で支えます！ この美馬市の取り組みは補助金の新モデルケースとして、いま全国から注目されています。
＜頼りにされる理由は「欲しがっても売らない」「捨てさせるな」＞
２時間の生放送では、創業者である住友達也さんら関係者をゲストに迎えるとともに、各地の販売員や自治体とも電話でつなぎ、地域の課題を考えました。番組中、心がけたのはとにかく丁寧にわかりやすく、おさらいしながら進めること。そのような中から、ゲスト同士が「そうだったんですか！」との「驚き」や「気づき」に発展していきました。北海道や北陸、九州など、放送エリア外のリスナーからも長文のメールが寄せられ、地域の課題を一緒に考えました。radikoを通じて全国とつながっている実感と、責任感をあらためて感じました。
ラジオの特性は情報を伝えるだけでなくリスナーがそれを咀嚼し、「自分ごと」として心交わせること。そのタイミングを送り手が見誤れば、リスナーの反応はすぐに薄れ興味をなくしてしまう......音声だけのラジオはそれだけシビアで難しいメディアだということも肌で感じました。今回の受賞を糧に、地方だから見える地域の課題を「ラジオ感覚」で的確に捉え全国的な問題解決の処方箋となるよう、努力いたします。ありがとうございました。
