【第32回FNSドキュメンタリー大賞を受賞】長野放送『最期を生きて―「看取り」支える訪問診療―』 「証し」と「願い」を込めて

嶌田 哲也
【第32回FNSドキュメンタリー大賞を受賞】長野放送『最期を生きて―「看取り」支える訪問診療―』 「証し」と「願い」を込めて

「死ぬんじゃなくて、最期の日までその人らしく生きる」。数多くの「看取り」を支えてきた瀬角英樹(せすみ・ひでき)医師の信条とも言える言葉。番組のタイトルは、その言葉を拝借し、取材した記者と話し合って「最期を生きて」にした。最期まで生き切ったという「証し」、最期までその人らしくという「願い」を番組から感じ取ってもらえたらとの思いからだ。

夕方のローカルニュース『NBSみんなの信州』(月―金、18・09―19・00)では、ほぼ毎日5―10分程度の「特集」を放送している。年間約240本。当社のような所帯の小さな局にとっては、なかなかハードルが高く、特にネタ探しには苦労している。「看取り」のテーマにたどり着いたのも、その特集のリサーチがきっかけだった。女性キャスターの親族が瀬角医師と知り合いで、「今度、松本に訪問診療専門のクリニックを開く」という情報を端緒に、取材がスタートした。

大切な人との別れが病院では難しくなったコロナ禍。自宅での最期を選択する患者が増えており、重要性を増す訪問診療の役割を伝えることにした。

②がん患者の男性 家族写真.jpg

2021年11月に放送した2本の特集は、子や孫に囲まれ「最後の記念写真」を撮って看取られていった男性と瀬角医師の活動を描いた。がんを患い、65歳で旅立った男性は、最期の約3カ月を妻と暮らす自宅で過ごした。県外の子どもや孫たちもたびたび自宅に集まり、笑顔の思い出を作った(=写真㊤)。そして家族に見守られるなか、男性は穏やかに逝った。妻は悔いなく添い遂げることができたと......。

見る側にとっても悲しく、つらい出来事なのだが、清々しさや温かみも感じられる内容になった。コロナ禍云々を超え、直面したのは「最期をどう迎えるか」という普遍的なテーマ。引き続き瀬角医師の協力を仰ぎ、「看取り」の今を見つめることにした。

継続取材は当初、チームで行うつもりだった。急に取材が入ることが予想されたからだが、取材はドキュメンタリー制作の経験がある松本駐在の中村明子記者に集約された。医師の協力があるとはいえ、デリケートな現場。その場で一定の判断ができ、取材対象と人間関係をきちんと築くことができる中村記者でなければ務まらないケースもあったように思う。

続く特集の放送は22年12月。ローカル枠としては異例の約20分のVTRになった。余命1カ月と宣告された57歳の女性。一家は自宅での最期を選んだ(=冒頭写真)。残された短い時間、瀬角医師は思いを伝え合うよう促す。「ありがとう」と家族一人一人に感謝を伝え、翌日、女性は静かに息を引き取った。料理が得意だった女性は二人の子どもに「レシピノート」を密かに書き残していた。母がいない食卓。でも母の味が、そこに......。

声を絞り出して女性が感謝を伝える場面を撮影していたのは中村記者。気配を消し、泣きながらカメラを回し続けた。そして泣きながら原稿をまとめた。

VTRには亡くなった女性の顔も登場する。その穏やかな表情に、この家族の「看取り」が凝縮されている思いがして、協議の結果、そのまま使用した。放送後、苦情等は一切なかった。

番組にはもう一家族登場する。一人暮らしをしていた男性が末期がんの宣告を受けて、自宅へ。本人の強い希望によるものだったが、病院に戻りたいと話す。世話をするきょうだいに負担をかけていることを男性は気にしていたのだった(=写真㊦)。瀬角医師が説得し、病院に戻ることはなかったが、その後、容体が悪化し、男性は急逝。患者を迷わせたこと、家族に十分な「看取り」の時間を作れなかったことに、瀬角医師は自身の「力のなさ、不甲斐なさ」を吐露する。静かな語り口だったが、訪問診療を専門とする医師の決意、矜持が感じられたシーンだった。

③がん患者・1人暮らしの男性 瀬角医師と弟と.jpg

人生で最も尊重されるべき「最期」の姿。それを取材できたのは、「看取り」と真摯に向き合う医師の協力、患者本人と家族の理解があったから。託されたものは重い。今後も「最期まで生きる」ことの意味を問いながら、訪問診療・在宅医療のあり方を見つめていきたい。

当社の番組がFNSドキュメンタリー大賞を受賞したのはこれで3回目。受賞は09年の「特別賞」以来。制作に携わった者はもちろんだが、今回は通常ニュースの特集から発展した番組が評価された点で、報道部にとっても大きな励みになった。特集をドキュメンタリーのチャレンジ枠として捉え、これからも大切にしていきたい。

放送後、中村記者と私は貴重な経験をした。レシピノートの一家の特集を記事、動画でネット配信すると、YouTubeの再生回数が600万を超えるなどの反響を呼んだ。幻冬舎からの書籍化の打診はその最たるもの。配信記事が見城徹社長の目に留まったとのこと。一家のエピソードが1冊の本に。当社を代表して二人がその過程に携わり、出版のプロたちの仕事を垣間見ることができた。番組には盛り込めなかった家族の話も加えられ、チェックで何度も読み返したが、その都度胸に迫るものがあった。

タイトルは『家族のレシピ』(1月24日発売)。多くの人に読んでもらいたいが、まず妻と二人の子に勧めてみようと思う。

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