太平洋戦争におけるラジオ放送は、政府のプロパガンダに利用され、真実を正確に伝えるという本来の使命と真逆の役割を担わされました。さらに、アメリカのプロパガンダ放送を自国民に聞かせたくない日本政府は、各地で「防遏(ぼうあつ)放送」と呼ばれる妨害電波の放送(ジャミング)を実行します。その拠点が、事もあろうに現在の文化放送の送信所(埼玉県川口市)の地下に建設した「隠蔽放送所」であり、その実態を解き明かそうと考えたのがこの番組の制作に着手したきっかけでした。
本番組は構想段階の割と早い時期にタイトルを「軍属ラジオ」と決めました。太平洋戦争で軍の戦略の一環としてプロパガンダ放送と防遏放送を行っていたラジオは、まさに軍のために働くラジオ「軍属ラジオ」と呼ぶにふさわしい存在と言えます。半ば皮肉を込めての命名でもありました。その意味では、本番組の制作意図はタイトルに凝縮されているとも言えます。
アーサー・ビナード氏は番組の中でラジオについてこんなことを言っています。「(ラジオは)毎日毎日、毎秒毎秒、聴き手の脳みそと心に直撃する言葉の爆弾を飛ばせるんだ」と。
「ラジオが持つ機能の"本質的恐さ"をリアルに伝えたい」という制作者のメッセージは、何とか表現できたのではないかと思います。