放送業界も深く関係する新たな法律「フリーランス法」について、解説講座を連載しています(【第1回】【第2回】はこちら)。大東泰雄弁護士、堀場真貴子弁護士による共同執筆です。(編集広報部)
第3回は、フリーランス法の「就業環境の整備」に関するルールについて解説します。
1. 就業環境の整備に関するルールの概要
フリーランス法は、フリーランスの就業環境を整備するため、発注者(特定業務委託事業者)に対して4つの義務を課しており(※1)、その主な内容は次のとおりです。これらは、第2回でご紹介した取引の適正化に関するルール(公正取引委員会および中小企業庁が所管)に関するルールと異なり、厚生労働省が所管しています。
▶ 募集情報の的確表示義務(12条) |
※1 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)と中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)は、後述のとおり、フリーランスに対する継続的業務委託が対象となります。
2. 募集情報の的確表示義務(12条)
フリーランス法において、発注者(特定業務委託事業者)は、広告等により募集を行うときは、次の情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(同法12条、同法施行令2条)。
・ 業務の内容 |
この点、企業は、従来から労働者を広告等により募集するときにも、同種の的確表示義務(職業安定法5条の4)を負っていますので、基本的には、労働者の募集を行う際の対応を、フリーランスの募集を行う場面にアレンジしつつスライドすることが考えられます。
3. 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)
フリーランス法において、発注者(特定業務委託事業者)は、6カ月以上の期間で行う業務委託[1](以下「継続的業務委託」といいます。)について、フリーランスからの申し出に応じ、妊娠、出産もしくは育児または介護(以下「育児介護等」といいます。)と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をする義務があるとされています(同法13条1項)。また、継続的業務委託以外の業務委託についても、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするべき努力義務があるとされています(同法13条2項)。
この点、厚生労働省は「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針(外部サイトに遷移します)」(以下「厚労省指針」といいます。)において、必要な配慮の具体的な内容を示しています。
【厚労省指針第3の2(1)より抜粋】 |
労働者と異なりフリーランスは働き方が多様ですので、具体的な配慮の内容は、フリーランスと相談の上、ケースバイケースでの対応が必要になるでしょう。
4. ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)
フリーランス法において、発注者(特定業務委託事業者)は、フリーランスに対してセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントおよびパワーハラスメントが行われることがないよう、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならないとしています(同法14条1項)。そして、そのような相談をしたこと等を理由とする不利益な取扱いも禁止されています(同法14条2項)。
この「必要な措置」の具体的な内容は、次のとおりです(厚労省指針第4の5)。
▷ 発注者(特定業務委託事業者)の方針等の明確化及びその周知・啓発 |
この点、労働者との関係においても、同種の定めがなされていますので(男女雇用均等法11条、同法11条の3、労働施策総合推進法30条の2)、フリーランス法に対応するにあたっては、労働者を対象としたハラスメント対応の体制を何らかの形で拡張して対応することが基本になると考えられます。例えば、次のような対応が考えられます。
◇ ハラスメント防止規程・ハラスメント防止マニュアル等において、ハラスメントを行ってはならない相手として、自社従業員だけでなく、受託者であるフリーランスを含むようにする。 |
5. 中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)
フリーランス法においては、発注者(特定業務委託事業者)は、継続的業務委託の解除をしようとする場合または契約期間の満了後に更新しないこととする場合には、一定の例外事由に該当しない限り、少なくとも30日前までにその旨を予告しなければならず(同法16条1項)、予告日から契約満了日までの間に、フリーランスが解除の理由の開示を請求した場合には、発注者は、一定の例外事由に該当しない限り、遅滞なく開示しなければなりません。これらの予告および理由の開示は、書面のみならず、ファクシミリ、電子メール等によることが可能です[2]。
6カ月以上の期間を定めたフリーランスとの契約を途中で解除する場合や、契約を更新しない場合には、上記のとおり30日前までに事前予告を行う必要が生じますので、契約書においてこのような事前予告を定めていない場合は、契約書の見直し等を検討する必要があるでしょう。
6. まとめ
以上のとおり、フリーランス法の「就業環境の整備」に関するルールは、ある程度、労働者保護に関する法令の内容との共通性が見られます。そのため、労働者保護に関する対応を参照しながら、フリーランスの募集広告等の見直し、育児介護等に対する配慮のための対応方法の検討、ハラスメント防止に係る体制のフリーランスへの拡張、契約書の修正等の対応を進めていくことになると考えられます。
(第4回へ続く)
注:
[1] 6カ月以上の期間を定めた業務委託だけでなく、契約の更新により6カ月以上継続して行うこととなる業務委託をも含みます。基本契約を締結している場合には、個別契約ではなく基本契約を基に期間を判断することになります。
[2] 厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則3条1項および5条1項。
【執筆者紹介】
のぞみ総合法律事務所 弁護士
大東 泰雄(だいとう・やすお)
2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。
のぞみ総合法律事務所 弁護士
堀場 真貴子(ほりば・まきこ)
2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。