BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は1月17日、テレビ東京が2023年3月28日に放送した『激録・警察密着24時!!』に「放送倫理違反があった」とする意見書を通知・公表した(意見書全文はこちらから)。2024年度で初めての決定。
同番組では「人気アニメ『鬼滅の刃』に便乗 悪質コピー商品の販売業者を追い詰めろ」として、販売業者が「不正競争防止法」違反で摘発された事件を取り上げて放送。放送後、販売業者から、放送内容が名誉を毀損する表現や虚偽の事実を警察官に演じさせたねつ造の疑いがあるとして抗議および申し入れ書が23年6月23日付で送られた。これを受け、テレビ東京は不適切な内容があったことを認め、2024年5月におわび放送を行った。また、同月の社長会見で以後の同番組の放送を取りやめる旨を表明し、その後、社内処分や再発防止策を発表した。放送倫理検証委員会は同年7月12日に審議入りを決めていた(なお、放送人権委員会も6月18日に審理入り)。
意見書は、本件放送の問題点として、▷被疑者4人中3人が不起訴となったことに触れずに、刺激的な演出で犯罪者と決めつけた、▷事実でない内容(「『鬼滅の刃』のキャラクターをそのまま描いた商品を発注した」など)を放送した、▷密着ドキュメントをうたいながら捜査のほとんどが事後撮影だった――の3点を挙げた。
また、こうした問題が生じた直接的な原因として、引き継ぎの不徹底や適切な事実確認がなかったことなどを指摘したうえで、構造的な要因として、①モザイク・音声加工をすればプライバシーへの配慮は足りているとする強力な"モザイク信仰"が人権意識を鈍らせた、②この番組(警察密着番組)は、警察は活動の意義などを世間に知らせることができ、テレビ局は視聴率が取れ、視聴者は楽しみながら犯罪の手口などの知識を得られる、という"三方良し"の考え方は、逮捕・摘発される"当事者"を軽視している、③適切な引き継ぎがなかったのは過酷を極める勤務状況などの「ひっ迫する制作体制」にあるのではないか、④特殊な事案にもかかわらず、逮捕と犯罪者を安直に結びつける構図にとらわれ、ナレーションと刺激的なスーパーで犯罪捜査をエンタメ化するステレオタイプが繰り返された――と指摘し、放送倫理違反があると判断した。
さらに、「チェックよりもバックアップ」と再発防止策が制作現場の負担にならないよう求め、各局の警察密着番組すべてについて、警察のPRに偏ることなく密着するためのスキルや見識、これまで以上のバックアップ体制の重要性を訴えた。