BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は12月5日、NHK『ニュースウオッチ9』が今年5月15日のエンディングに放送した企画に「放送倫理違反があった」とする意見を公表した。
2022年夏ごろに発案され、不定期で放送されてきた同日のエンディングビデオ企画は「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常 それぞれの思い」がテーマ。全体で1分5秒のうち、各地の点描に続いて遺族3人(それぞれに「夫を亡くした○○さん」「父を亡くした○○さん」「母を亡くした○○さん」〔放送ではいずれも実名〕のテロップ付き)のインタビューが24秒間流れ、コメントが紹介された。しかし、3人はワクチンの接種後に亡くなった人の遺族で、新型コロナウイルスに感染して亡くなったという番組全体の流れとは異なるもので、コメントにもワクチンの件は触れられていなかった。放送終了後、遺族らをNHKに紹介したNPOの理事長から「なぜワクチンに触れないのか」と抗議が寄せられ、SNS上で「事実の隠蔽ではないか」との指摘があった。NHKは翌16日の同番組でワクチン接種後に亡くなった人の遺族であることを認め、謝罪。ウェブサイトにもおわび文を掲載した。
検証委は、①遺族が伝えたかった証言の本質を軽んじ、「ワクチンの問題には言及しない」「広い意味でコロナ禍で亡くなった人に変わりないだろう」と考えた担当者の認識は、ニュース・報道の現場を担うものとしての基本を踏み外している、②取材経験やノウハウが乏しい担当者を組織としてサポートやバックアップする体制がなかった、③エンディングビデオを「点描的で」「軽い位置づけ」とみなし、業務フロー上の約束事や共認認識が不在でチェック機能が働かなかった、④「人の死」をめぐる情報を扱う際の編集判断があまりにも軽すぎた――とし、「遺族の心情を大きく傷つける結果を招いた」と放送倫理違反にあたると判断した。NHKから3人の遺族に対する直接の面談や謝罪の機会が得られていないことに対しても、早期に実現するよう求めた。また、番組が記者やディレクターではなく映像編集を主業務とする担当者による企画であったことに触れ、制作現場に萎縮効果をもたらすことなく、取材・制作をサポートする体制の拡充に注力することも要望した。