11月15日から26日まで開催された「東京2025デフリンピック」(正式名称:第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025)。国際的な「きこえない・きこえにくい人のためのオリンピック」として知られる大会で、陸上、バドミントン、卓球など全21競技が行われ、約80カ国から約3,000人のデフアスリートが参加した。日本勢は金16個、銀12個、銅23個の計51個のメダルを獲得し、初開催の東京大会を盛りあげた。
民放各局も積極的に報道。そのうち、手話や字幕を活用した情報保障の取り組みに注目した。
TOKYO MX 特番で競技中継に手話通訳と「ミルオト」導入
東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は、『開局30周年記念特番「東京2025デフリンピック」』を11月23日と30日の両日、午後7時から9時まで放送。番組では大会の盛り上がりを伝えるリポートや、デフアスリートのスタジオインタビューに加え、卓球・バドミントン・バレーボールの競技中継を実施した。全編に字幕を付与し、アクセシビリティを重視した構成となった。
見どころの一つが競技中継だ。アナウンサーによる実況を手話通訳するだけでなく、試合中の音や拍手を文字で視覚化する「ミルオト」を活用(=冒頭写真)。聞こえない・聞こえにくい人も楽しめる工夫を凝らした。一方で、聴者に対する工夫もあった。解説を健聴者アスリートが務め、例えばバドミントンダブルスでは、健聴者同士ではシャトルをどちらが打ち返すかを声がけをしながら競技を行うが、デフアスリートは阿吽の呼吸で分担するために事前に戦略のすり合わせが必要であることを解説するなど、デフ競技への理解を深める構成とした。

<手話通訳、字幕に加え、ミルオトで観客たちの盛り上がりを伝える(TOKYO MX提供)>
番組を担当した関谷博之チーフプロデューサーと北澤史隆プロデューサーは「新技術の導入やアクセシビリティの両立に試行錯誤したが、多様な人々が共に楽しめる環境づくりの重要性をあらためて認識した」と振り返る。
TOKYO MXは特番にとどまらず、大会のトータルサポートメンバーとして協賛し、会場でのブース出展、ニュースでの専用コーナー企画など、全社的な取り組みで大会を盛りあげた。
フジテレビ 報道番組に同時手話通訳を導入
フジテレビジョンもトータルサポートメンバーとして協賛し、大会期間中、夕方の『Live News イット!』で関連ニュースに同時手話通訳を導入した。キャスターと手話通訳を同一画面に収める新レイアウトを考案し、背景色や照明を調整して見やすさを確保した。さらに、手話通訳のスムーズな進行のため、原稿を通常の5分の4程度に調整するなど工夫を重ねた。

<キャスターと手話通訳が並んで見ることができる画面づくり (フジテレビジョン提供)>
『Live News イット!』の羽山寛プロデューサーは「デフリンピック報道に手話通訳を取り入れることは、聴覚障がい者への情報保障を強化し、彼らが自分の言語で大会の魅力を受け取れる環境をつくる重要な取り組み」と語る。
このほか、ニュースサイトであるFNNプライムオンラインでは、デフリンピックの記事など関連記事をまとめたページを設置。開幕当日の11月15日には、社屋をテーマカラーのさくら色にライトアップするなど、大会を盛りあげた。
佐野純サステナビリティ経営推進室室長は「聴覚障がいは見た目で分かりにくい障がいであるがゆえに、なかなか理解が進まない現状がある。デフアスリートが抱える難しさをテレビがどう伝えるか。今回トータルサポートメンバーとして関わらせていただき、多様性理解を視聴者の皆さまと共に考える貴重な機会になった。日本初開催のデフリンピックを多くのメディアが伝えたことが、違いを認め合えるインクルーシブな社会の実現につながればうれしい」と全体の取り組みを振り返った。
岡山放送 手話実況体験でスポーツの魅力を共有
30年以上手話放送を実施する岡山放送も、デフリンピックにトータルサポートメンバーとしていち早く協賛。以前からさまざまなスポーツで手話実況に取り組んでいる実績を活かし、一般社団法人トヨタ・モビリティ基金が主催する手話実況体験会を11月15日~26日にデフリンピックスクウェアで運営した。
岡山放送の篠田吉央情報アクセシビリティ推進部長は「スポーツの魅力を伝わる手話実況を実現するには、スポーツを伝えるノウハウがあるテレビ局の力が生かされる」と語る。
このようなノウハウの一部を体験できるのが手話実況体験会。実際の競技映像にあわせて手話実況を行い、その様子が画面に合成される。手話の方法を事前にレクチャーし、画面横で手話のお手本を示すことで、健聴者も体験できる。体験会では、マラソンの場合、タイムや距離などの情報を伝えることで、競技の魅力や面白さが伝えられると習う。記者も実際に体験したが、刻々と展開が変わる競技に対して、限られた時間のなかでタイミングよく、手話をするのは、なかなかに難しかった。
手話実況という分野において、どのようにスポーツを実況すると分かりやすいのかを知り尽くしたテレビ局が関わることの意義は大きいと感じた。
<手話実況体験会のようす>
このほか、11月23日には、ろう実況者の早瀬憲太郎さんが選手として出場した自転車競技「ポイントレース」の手話実況を実施した。篠田部長は、「マスメディアとして、情報が届きにくい人のために尽力すること、一人一人に届けようと思うことによって、結果的に全ての人に届くような情報伝達を実践していきたい」と語る。
日本初開催となった東京デフリンピックは、競技の熱戦を伝える裏で、テレビ局による情報保障の工夫もあった。多様な人に理解できることを意識した手話通訳、字幕、音の視覚化など、放送の現場で試みられた工夫は、今後のスポーツ中継におけるアクセシビリティの発展に、大いに役立つこととなるのではないか。
