テレビは「見る機器」から「暮らしのハブ」へ 米国の各種調査で明らかに

編集広報部
テレビは「見る機器」から「暮らしのハブ」へ 米国の各種調査で明らかに

米国でテレビの接触状況や視聴デバイスの使われ方に変化の兆しがある。2025年前半に複数の調査機関が発表した結果によると、共通するのは「リニアテレビにおけるリアルタイム(ライブ)視聴の減少」と「スマートテレビの多用途化」というトレンドだ。

▶若年層の4割がライブでテレビを見ない
アテスト社(Attest)が実施した2025年版の「US Media Consumption Report」によると、米国で1日に3時間以上テレビを視聴している人は56%で、24年の61%、23年の63%から漸減傾向にある。一方、28%の人は1日にニュースやスポーツ中継、ドラマの最新エピソードなどをライブでは「全く視聴しない」と回答しており、24年の24%、23年の20%からさらに増えている。30歳未満の若年層に限るとその割合は41%に達する。ただし、50歳以上の層ではテレビのライブ視聴が高く、年齢による視聴傾向の違いも鮮明になった。

▶リニア視聴の主役がFASTにシフト
こうしたなか、米国におけるリニアテレビの視聴方法は、従来のケーブルや衛星放送から、FAST(Free Ad-Supported Streaming TV=広告付き無料配信)へと急速に移行していることも明らかになった。ホロウィッツ社(Horowitz Research)の年次調査「State of Media, Entertainment & Tech: Viewing Behaviours 2025」によると、テレビをライブで見ている人のうち、FAST経由は40%と従来型のケーブル・衛星経由の36%を上回った。特に18〜34歳の若年層では53%がFASTを利用しており、リニア視聴の新たな主戦場となりつつある。

この傾向をホロウィッツ社の担当者は「従来型テレビの広告収入が減少するなか、FASTの台頭はそれを補う重要で歓迎すべき変化だ。広告主にとっては従来のテレビ広告でリーチできなかった若年層やZ世代に直接アプローチできる貴重な場となっている」と分析する。

▶ニュース源はSNSがテレビを上回る
情報の入手手段としても、テレビの優位性が崩れ始めている。英オックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所(RISJ)が公表した「Digital News Report 2025」によれば、米国ではニュースを得る主な手段としてソーシャルメディアがテレビを初めて上回った。SNSや動画アプリを通じてニュースにアクセスする人は全体の54%に達し、テレビ(50%)やニュースサイト・アプリ(48%)を追い越した。特に、既存メディアへの信頼度が低い若年層で個人発信型のニュースコンテンツがより大きな影響力を持つようになっている。政治的分断が顕著な米国では特に変化のスピードが速く、英国やフランスも上昇傾向にある。なお、同調査の邦訳は協力しているNHK放送文化研究所のサイトから閲読できる(外部サイトに遷移します)。

▶米家庭のスマートテレビは平均2台
デバイス面にも変化がみられ、スマートテレビ(インターネットに接続して配信サービスの視聴に対応したテレビ)の普及と進化が著しい。ハブ社(Hub Entertainment Research)の調査「Evolution of the TV Set」によると、米国の家庭はスマートテレビを平均で2台所有している。「最も頻繁に使用しているテレビ」はブランド別でSamsungとLGがリード、ソニーやVisioが二番手グループに。RokuやFireTV(Amazon)も急速にシェアを拡大している。Rokuは全体の8%、FireTVは同5%と前年の各4%、1%から大幅な伸びを記録した。

▶テレビの多用途化とAIへの期待
さらに、テレビはもはや「番組を見るためだけの機器」ではなくなりつつある。同じくハブ社の調査では、米国ユーザーの47%がテレビ画面を音楽ストリーミング(Spotifyなど)に使用しており、40%がスマートフォンやPCの画面をテレビに転送するミラーリングで見ている。このほか、ニュースや天気予報アプリの視聴(23%)、ゲームのストリーミングプレイ(20%)、写真の画面表示(16%)、スクリーンセーバーをテレビ画面で再生(15%)、スマートホーム機器の制御(10%)、テレビ画面上でのビデオ通話(5%)など多用途化が急速に進んでいることが示された。

これらの変化の背景にはテレビのOS(オペレーティングシステム)の進化がある。電源を入れるとまずアプリ画面が表示されるインターフェースはコンテンツを発見するための出発点となっており、視聴者の利便性を高めている。AIによる視聴履歴やユーザーの嗜好に基づいたコンテンツ推奨機能も期待を集め、ハブ社の調査に答えた人の半数以上が「AIの力で見たい番組を探したい」と答えたという。

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