《特別対談》曽我部真裕さん×毎日放送・中西正之さん 番組審議会のこれから【放送の自主・自律を守る―番組審議会の目線から⑧】

民放連 番組部
《特別対談》曽我部真裕さん×毎日放送・中西正之さん 番組審議会のこれから【放送の自主・自律を守る―番組審議会の目線から⑧】

各放送局がそれぞれ設置している番組審議会。その役割や意義について連載企画を通じてお伝えしています(まとめページはこちら)。最終回となる第8回目は、毎日放送の番組審議会委員を務める曽我部真裕さん(京都大学大学院法学研究科教授、元BPO<放送倫理・番組向上機構>放送人権員会委員長、写真㊧)と、同社の番組審議会事務局長の中西正之さん(写真㊨)による対談を企画。
はじめに、自社の番組審議会の様子を中西さんに紹介いただき、その後、おふたりに番組審議会の役割やBPOとの違いなどを中心に話し合っていただきました。(番組部)


1. 番組審議会で何をしているのか
~最近のトピックから

毎日放送の番組審議会は、1959年の放送法改正で義務づけられる前年に自主的に設置したこともあり、「自ら考え、新たな取り組みを実践していく」という当時の気概を受け継いでいます。委員は、メディア史が専門の佐藤卓己委員長(京都大学名誉教授)をはじめ、IT企業社長、映像人類学者、芥川賞作家、弁護士など、多様な8人で構成されています。20254月からは、地域ジャーナリズムを研究する小川明子委員、そして曽我部委員が加わり、専門的な知見から議論が深まっています。審議会は原則月1回で、一方的な講評ではなく、制作者と委員が一問一答形式で議論する「ディスカッション方式」を取り入れています。
番組審議会の最近のトピックとして、4つご紹介します。

情報バラエティ番組『ゼニガメ』の審議

2024年7月に放送した情報バラエティ番組『ゼニガメ』で、密着取材した事業者の偽装や仕込みを見抜けず、事実と異なる内容となってしまった問題で、BPO放送倫理検証委員会は20254月、放送倫理違反が一部の回にあったとする委員会決定を出しました。

番組審議会ではBPOで審議入りする前の20249月と、委員会決定が出た後の20255月の2回にわたって議題としました。20249月の番組審議会では、社内調査の結果と再発防止策を報告しました。委員からは、▶事業者から「バラエティだから面白いものを作りたいんでしょう?」と見透かされ、軽く見られていたのではないか、▶スタッフの「センサー」が働かなかったことが残念だ――などと厳しく指摘されました。

2025年5月の番組審議会では、委員から、「バラエティ番組だから」という制作側の潜在的な甘さや、違和感を抱けない制作現場のチェック機能不全に対して鋭い指摘がなされました。また、「だまされた被害者」という立場ではなく、視聴者に対する責任を重く受け止めるべきだ、という認識が、委員と当社の出席者で共有されました。

選挙報道番組の審議

20257月の参議院議員選挙では、2024年の衆議院議員選挙や兵庫県知事選挙を契機に、各局とも選挙報道のあり方を大きく変えました。当社の参院選報道に対するご意見をいただくため、20259月の番組審議会では、投開票日2日前の事前特番として放送した『よんチャンTV×選挙の日 関西人のホンネとギモン 投票日直前SP』を審議番組としました。

番組審議会では、従来の選挙報道のあり方(量的な公平性)を見直し、「質的な公平性」へと舵を切ったことに対する評価と課題を中心に議論されました。▶投票日直前にこのような特番を組んだこと、▶「公平性を重視して一歩下がる」姿勢から「積極的に事実を報じる」姿勢へ転換したこと――に対し、複数の委員から支持が表明されました。さらに、選挙報道にあたり、放送法が求める「政治的公平」の解釈を、自律的に再定義しようと実践したことについて、委員がその背中を押しつつも、情報を読み解くためのより高度なリテラシーと、多角的な視点を求めるなど、次へのヒントとなるご意見をいただきました。局側との意見交換も活発に行われ、熱量の高い番組審議会となりました。

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<毎日放送番組審議会事務局長を務める中西正之さん>

「放送と人権」に関する講演

2025年の放送業界では「人権」が大きなテーマとなりました。そこで202511月の番組審議会では、曽我部委員から、BPO放送人権委員会におけるご経験も踏まえ、「放送と人権」と題してご講演いただきました。また、放送基準や番組審議会という日本独自の仕組みを通じて、日本の放送がいかにして自主・自律を守ってきたか、ということもご説明いただき、委員との意見交換を行いました。この内容については、このあとの対談で、曽我部委員から直接、ご説明いただければと思います。

社内周知に関するトライアル

番組審議会の放送局側の参加者は、役員と審議番組に関連する局員など、限られたメンバーとなっており、審議内容はクローズドになりがちです。

このため、もう少し風通しを良くしたいと考え、現在、社内の一部社員向けに番組審議会の模様をオンラインで視聴可能とするトライアルを開始しました。例えば、選挙報道を議題とした2025年9月の番組審議会は報道情報局員全員が視聴できるようにしました。自ら考え、新たな取り組みを実践していく気概のある毎日放送ならではの取り組みではないかと思います。


2. 対談~番組審議会の役割を考える

委員から見た番組審議会

中西 BPO放送人権委員会で委員と委員長を計12年間お務めになり、その後、当社の番組審議会委員になっていただきました。そんな曽我部委員ならではの視点で、番組審議会に関するご意見や、番組審議会とBPOとの違いなどを伺えればと思います。4月以降、当社の番組審議会に参加されたご感想はいかがでしょうか。

曽我部 先ほど説明のあった回以外の通常回では、番組を視聴して意見や感想を述べました。このために情報番組やドキュメンタリー、古典芸能、上方落語、バラエティなど、いろいろなジャンルの番組を視聴しました。私は普段見るテレビ番組が偏っていますので、あまり見ないジャンルの番組を見る機会が増えたことは個人的な変化ですし、審議対象にならなくても番組を見るようになりました。
委員の方々はそれぞれの分野の第一人者がそろっており、ご意見・発言はとても刺激的です。また、「私はテレビを見ない」といった発言などもしばしばあり、「予定調和」「忖度」というものとは、およそ程遠い世界だと感じています。こういった発言にも局側は回答しなければならないので、相当な緊張感を持って臨んでいるのではないかと感じています。

中西 放送法の目的である「放送番組の適正を図る」との関係ではいかがでしょうか。

曽我部 番組審議会の会合時間は1時間余りと限られていますが、忌憚のない意見がいくつも出ており、局側にしっかりインプットできていると思います。ただ、それがその後の番組づくりにどのように活かされているかは見えにくいです。委員意見も具体的なものもあれば、心構えや姿勢の問題など抽象的な意見もあります。後者については、直接、明日の放送に役立つわけではなく、局の方々が聞いて自分で消化し、中長期的に活かしていただくものだと思います。このような効果を最大化するためにはより多くの社員に議論を聞いていただくことが有益です。そういった意味でも、毎日放送のオンライン視聴のトライアルは評価できます。

BPOとの違い

中西 日本では、各局の番組審議会と、放送界全体のBPOの両輪で番組の向上を図っていると思います。その両方に携わってのご感想をお聞かせください。

曽我部 「放送番組の適正を図る」ための自主的な仕組みである点は共通すると思いますが、大きな違いがあります。BPOは番組問題が指摘された後に審議・審理するものなので、局にとっては「非常時」に関わる存在です。一方、番組審議会は「平時」に番組の適正を図るための意識づけをもたらす存在であると思います。
他方、番組審議会も非常時に果たす役割があると考えています。本連載の第1回で民放連事務局が書いていましたが、最近の番組審議会の活性化論議では、「番組問題」が起こった時に、番組審議会に第三者の立場から厳しい意見を出してもらい、それを放送事業者が受け止め、自主的に改善につなげることも期待されています。

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<毎日放送番組審議会委員を務める曽我部真裕さん>

社内調査の結果や再発防止策を番組審議会がチェックし、調査は甘くないか、再発防止策が適切かなど、普段より時間を取って議論することは可能だと思います。これをどのように促進するかについては、BPOとの関係も重要です。『ゼニガメ』の事案のように、現在は、局側が自主的に調査して再発防止策をまとめ、番組審議会で議論しても、その後にBPOが審議入りすることもあります。例えば、局と番組審議会がしっかりと対応した場合、BPOは審議入りを控えるという運用になれば、局側にとってインセンティブになるかもしれません。

中西 番組審議会が1つ目の「フェールセーフ」(異常が発生した際に、安全な状態に移行するよう停止するという考え方)、BPO2つ目のフェールセーフというイメージを持っており、1つ目で止められるのが理想だと感じています。

曽我部 番組審議会とBPOという二重の構造になっていることをうまく活かしていくという考え方は重要だと思います。また、番組審議会の議論を活性化するという意味では、例えばBPOの委員会決定が出た時に、自社の案件でなくとも、それを番組審議会で議論し、それについて局側がどう受け止めているかを聞くという方法もあり得ます。

中西 他局の番組審議会の議事の概要を見ると、そうした対応をしている局も見受けられます。なお、BPOの事案ではありませんが、フジテレビ問題を議題とした社もありました。業界全体に波及するような大問題となれば、番組審議会で扱う可能性もあり得るかもしれません。

曽我部 私もBPOにいた時には、委員会決定を当該局だけの問題ではなく、業界全体の共有財産として、番組改善のための素材として使ってほしいと思っていました。一つの「教材」として活用していただければと思います。

自主・自律を守るために

中西 本連載は「放送の自主・自律を守る-番組審議会の目線から-」としています。放送の自主・自律の堅持のために、放送局へのアドバイスやアイデアはありますでしょうか。

曽我部 放送法が自主規制を義務づけているとはいえ、結局、その運用をどうするかは局の心づもり次第になっているのが実情です。現在、総務省でガバナンスについて議論されていますが、油断していると問題が起きてしまいますし、今はSNS時代ですので、「自分たちでちゃんとやっている」と言うだけではなかなか通用しません。自主・自律が機能していることを見せていく必要があります。そういうところをどこまで意識できるかが重要だと思います。

中西 番組審議会の委員に求められるものは何だとお考えでしょうか。

曽我部 放送法は番組審議会にいろいろな権限を与えています。放送局は「番組審議会の機能の活用に努めなければならない」といった規定もあります。放送法は、番組審議会にさまざまな役割を果たさせようとしています。トータルで見ると、放送局が番組審議会に対して説明責任を果たし、質問にきちんと答えるということを通じ、自主・自律を確保しようとしているのだと思います。そうすると、番組審議会は、「視聴者の代表」という役割を持ちますが、委員は一般視聴者の代表ではなく、有識者から選ばれることになっています。つまり、委員には「一般視聴者の代表」という側面と、それぞれの専門性に基づく意見を述べるという側面の二重の役割が求められます。両面から、局側の姿勢を問うことが求められるのだと思います。

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<対談の様子>

中西 局側はどういう心構えで番組審議会と向き合うとよいでしょうか。

曽我部 放送法には「番組審議会の機能の活用に努めなければならない」という規定がありますので、▶適切な方に委員になっていただく、▶しっかり議論できるよう、会合の時間や回数を確保する、そして、▶番組審議会での議論を番組に反映させる――ことが大切です。委員が「その場限りではなく、きちんと局の運営に反映されている」と感じられると、より真摯に向き合うことになるでしょう。委員が先ほどの二重の役割を踏まえた意見を述べることと、局側がそれを活用すること、その両方がかみ合うことで放送法が本来想定している機能が発揮されると思います。

中西 番組審議会は放送法で設置が義務づけられているので、どの放送局にも必ずあり、運営上の課題は共通しているように感じています。放送局同士が横のつながりを持って課題解決のアイデアを共有していけば、各局の番組審議会が活性化し、結果的に業界全体の底上げにつながるのではないかと思っています。

曽我部 民放onlineの今回の連載企画もそういう趣旨だと思います。各局の取り組み事例を共有し、そういったものを通じて番組審議会の重要性を伝えていくことは重要です。各局に閉じた議論になってしまいがちですが、本当はもう少し横のつながりを持っていけるといいと思います。

中西 番組審議会は、単に感想を言う場ではなく、放送局と委員が一緒に考えて作られている場だと、今回の対談を通じてあらためて感じました。曽我部委員、本日は誠にありがとうございました。

(2026年1月13日 毎日放送にて実施/取材・構成=民放連番組部・梅本樹)


京都大学大学院法学研究科教授(憲法・情報法)
曽我部 真裕(そがべ・まさひろ)
1974年生まれ。京都大学大学院法学研究科教授(憲法・情報法)。(一社)ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)代表理事、日本ファクトチェックセンター(JFC)運営委員長など。

毎日放送 コンプライアンス局番組審議会事務局長
中西 正之(なかにし・まさゆき)
1963年生まれ、87年毎日放送入社。報道局で社会部、ドキュメンタリー制作、経済部を担当後、制作局で夕方のワイド番組、美術・CG部門のセンター長などを経て現職。新「毎日放送 放送基準」プロジェクト事務局員を務めた。

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