各放送局がそれぞれ設置している番組審議会。その役割や意義について連載企画を通じてお伝えしています(まとめページはこちら)。 第7回目は、テレビ朝日番組審議会事務局長の陣内紀恵さんに、系列各局の番組審議会委員長が一堂に会する全国会議を中心に紹介いただきます。
テレビ朝日の番組審議会(以下、番審)は、各界の第一線で活躍されている委員が、多彩で多角的な意見を出し合う活発な雰囲気で、ほぼ毎月開催しています。委員長をはじめ、それぞれの委員の確かな経験と見識に裏打ちされた意見には、単なる批評を超えた番組作りのヒントが盛りだくさんで、時に局側の出席者をはっとさせ、気づきを与え、「放送とは何のために存在するのか」という原点に立ち返るきっかけとなっています。
全国24社で"放送の信頼"に向き合う
また、独自の取り組みとして、年に一度、系列局の番審の委員長が一堂に会する全国会議「系列24社放送番組審議会委員代表者会議」を開催しています。「系列番審」と呼んでいるこの会議では、テレビ朝日の委員長に議事の進行をお願いし、毎年テーマを設定して各局で事前にご審議いただいたうえでその内容や結果を持ち寄り、広く意見交換を行っています。
今年10月30日に開催した系列番審(第94回)(=冒頭写真)は、「地上波テレビとコンプライアンス ~テレビの信頼回復にむけて~」というテーマにしました。フジテレビの事案を受け、放送局として避けては通れないテーマとして設定したものの、なにしろ全国から委員長ら24人がそろう会議で、その後方には各局の事務局長がずらりと控えて会議を支えています。当日は、運営面もさることながら「地域性や局内事情も異なる出席者がおそろいになったときに、いったいどういう議論になるのだろうか」という不安と期待が入り交じった緊張感で張りつめていました。
しかし、いざ会議がはじまると「そもそも局側はこの問題をどう捉えているのか」「番審で扱うべきテーマなのか」といった忌憚(きたん)のない指摘も含め、「コンプライアンスとは単なる法令遵守ではなく視聴者の期待に応えることではないか」「風通しの良い組織文化を創造して自主自律を基盤に据えることが必要だ」「フジテレビ事案は"攻めのガバナンス"への転換機会とすべき」といった建設的な意見が次々に出され、議論が深まっていきました。
やがて終盤には「各局の熱心な議論に学びを得た」「番審の役割の重要性をあらためて感じた」という感想や、「コンプライアンスと面白さの関係を単純化せず、思考停止しない姿勢が必要」といった制作サイドにも向けた助言が出るなど、会場は熱気と一体感に包まれていきました。
各局で持っていた漠然とした問題意識や課題の核が、意見を持ち寄ることで研ぎ澄まされ、より鮮明になっていく。これこそが系列番審の醍醐味なのです。年に一度、系列全24局の番審の委員長らが欠けることなく集まり、さまざまなテーマを通して放送局が向き合うべき課題などについて議論し共有していただくことは、今後の番組制作や放送文化を支える力強い礎となっています。テレビ朝日系列にとっては何物にも代えがたい財産なのです。
制作者へのエール、「PROGRESS賞」
そしてもうひとつ、テレビ朝日系列全体の取り組みとして、系列24社の番審委員が選考する「PROGRESS賞」についてもご紹介します。「プログレス」つまり「進歩・向上・成長」を意味するこの賞は、系列24社の番審委員が推奨する最高の賞と位置づけられ、放送番組のより一層の質的向上・系列各局の制作力の向上に資するものとして制作者たちの日頃の努力を応援するもので、1995年から始まりました。毎年、系列全社が自社番組の中から1作品をエントリーし、地域ブロック選考と全国選考の2段階を経て、各賞が決定されています。
第31回となる今年は、名古屋テレビ放送、長崎文化放送、北海道テレビ放送、北陸朝日放送の4社の優れたドキュメンタリー番組が、最優秀賞をはじめとする各賞を受賞しました(既報)。
半世紀を超えて、未来へ
ところで、放送法第6条第2項は、放送番組審議機関の目的を「放送番組の適正を図る」ことと定めています。この「適正」とは何なのか。
一度、社内から「系列番審の開始時期を知りたい」という問い合わせを受けたことがあります。このとき私は、事務局のロッカーからどれどれと第1回の議事録の概要を引っ張り出し、「昭和46年(1971年)8月」の日付を確認してから、ぱらぱらとすっかり黄ばんだページをめくり、驚きを禁じえませんでした。議事録によると、系列番審の第1回は「横の連携を密にしていったらどうかという話が実を結び」開催されたとのことで、北海道、東京、大阪、福岡の基幹4局が集まるという今と比べれば小規模なものでした。
しかし、そこには、例えば失踪中の人を捜す「人間蒸発」(当時の『奈良和モーニングショー』内の特集コーナー)について、「現代のドキュメントという形でとりあげている。ややもすれば、のぞき趣味になりがちであるが、そのようにならぬよう制作している」「中高生の両親をスタジオに呼んで世間に訴えかけさせているが、見ている方には抵抗があるのではないか」といった指摘や、「この番組には多勢の女性を座らせているが、その目的は何か。抵抗を感じる」といった文言が並んでいたのです。
すでに50年以上も前に問題提起されていた、センセーショナルな表現をめぐる慎重な姿勢の必要性や、ジェンダー平等の視点からの指摘。時代を超えた番審の「普遍性」を垣間見る思いでした。
「放送番組の適正を図る」。このシンプルで実に重い課題は、おそらく放送局にとって永遠のテーマでありましょう。各局はそれぞれが設置している番組審議会を通じて、そのテーマと日々向き合っているのです。その一翼を担う事務局としての責任の重さを実感しつつ、よりよい放送の実現に向けて励みたいと思います。
半世紀を超えて続くこの対話の場が、これからも放送の未来を照らし、進むべき方向を見いだす羅針盤のひとつであり続けることを願っています。

