メディア研究者の村上圭子さんによる連載です。テーマは「ローカル局」。村上さんは、NHK放送文化研究所メディア研究部に在籍時から放送政策、地域メディア動向、災害情報伝達について発信してきました。ローカル局が直面している厳しい現実のなかで新たな挑戦をする局、人への取材を中心に、地域メディアの持続可能性を考えていきます(まとめページはこちら)。(編集広報部)
はじめに
本シリーズでは、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」(※外部サイトに遷移します。以下同じ)で行われているローカル局をめぐる議論を整理している。本稿では、1月23日の第41回会合の内容を取り上げる。会合では、総務省が実施した地上放送事業者アンケートの2回目の結果報告(1回目は「1局2波」の意向について。詳細は本シリーズ⑤を参照)が行われ、自社制作番組の詳細、他地域への展開、ネット配信に関する意向などのデータや事業者のコメントが示された。以下、筆者の見解も交えながら紹介したい。
売上高全体に占めるデジタル展開の割合は? その他事業は?
放送番組収入の減少が避けられない中、デジタル展開や地域事業などの新たな収入源の確保が必要であるということは、ローカル局自身も認識し、ここ数年、多くの局で取り組みを加速させてきた。では、その成果はどのくらい出ているのだろうか。

<図1. 地上テレビ事業者の売上高に占める各収入の割合>
今回、総務省の事務局が報告したアンケート結果の中で、そのことが端的に示されているデータがあった(図1)。これは、地上テレビ事業者の売上高全体に占める各収入の割合の推移を、キー局、準キー局・在名局、系列ローカル局、独立局で比較したものである。系列ローカル局は、テレビ放送番組収入が占める割合が最も高く、90%以上であった。そして、デジタル展開による収入は1%に満たず、イベント収入とその他事業による収入を合わせた割合も10%に満たないまま、横ばい状態であることがわかった。
このデータは、キー局4、準キー局・在名局8、独立局11、系列ローカル局79の回答から、それぞれの平均値を出したものである。系列ローカル局には、デジタル展開の前提となる自社による番組制作や、放送外事業の取り組みに熱心な局とそうでない局で差があり、79局の平均値であるこのデータを、そのまま系列ローカル局の実態だとするのはいささか乱暴であると思われる。とはいえ、取り組みに熱心な局が業界全体を牽引し、放送番組収入に依存する経営体質から脱却する流れを作るまでには至っていないということは読み取れる。この現実は重く受け止めなければならない。
自社制作番組の展開は?
系列ローカル局の自社制作番組比率は平均10%程度であり、近年、その比率に大きな変化はみられない。今回のアンケートには、これまでの在り方検での構成員の意見を受けて、具体的にどのようなジャンルの番組を制作しているかを尋ねる質問が盛り込まれた。結果は、90%以上の局が「教育・教養」「ドキュメンタリー」「観光・グルメ」「スポーツ」「生活情報」を制作。80%以上の局が「報道(定常的なもの以外)」「イベント情報」「バラエティ」を制作していた。一方で、「音楽」は40%、「ドラマ」は16%、「アニメ」は7%と限定的であった。
ただ、この結果だけではジャンル別の分量はわからない。これまでの筆者の取材や各局の番組表からうかがえるローカル局の自社制作番組の多くは、夕方の時間帯に生放送で行うニュース・情報番組である。そのため、分量の多くは、そこで日常的に扱われる「生活情報」「イベント情報」「観光・グルメ」であると推察される。
総務省の報告では、こうしたジャンルの中で何が他地域への展開に訴求力を持つのかを尋ねた結果も示された。自社制作番組の中で分量が多いと推察される「生活情報」は34%、「イベント情報」は37%と、訴求力は高くないという回答結果であった。最も高かったのは「観光・グルメ」、次いで「ドラマ」「バラエティ」「ドキュメンタリー」であった。「ドラマ」の制作は一部の局に限られていることを考えると、現時点では、多くの局で制作されている「観光・グルメ」「バラエティ」「ドキュメンタリー」を、より積極的に他地域にどう展開できるかを考えることが現実的である。
図2は、他の放送事業者への番組の展開状況を示したものである。基本的には、系列ローカル局は系列内で、独立局は独立局間での展開がベースとなっているが、独立局の70%弱は系列ローカル局に、60%弱はケーブルテレビ事業者にも番組を展開している。一方で、系列ローカル局で独立局に展開している局は40%弱、ケーブルテレビ事業者に展開している局は20%弱である。ローカル局は系列内の展開にとどまるのではなく、もっと積極的に番組を展開し、潜在的ニーズを引き出していく努力が必要ではないだろうか。
また、海外展開については、系列ローカル局が20%弱、独立局が25%という回答であった。このあたりは、ローカル局の制作力強化の支援策と併せて、1月に発足した「実写コンテンツ展開力強化官民協議会」で議論していくことになるであろう。議論を注視していきたい。

<図2. 自社制作番組の他の放送事業者への展開状況>
図3は、インターネットを通じた、他地域(全国・全世界)への展開の状況を示したものである。国内および海外の配信事業者への展開の数字を見ると、系列ローカル局、独立局ともに低い数字となっている。これは、配信事業者によるサービスのメインコンテンツである「ドラマ」を制作する局が少ないことが最大の理由であろう。
そうなると、ローカル局が他地域への展開の訴求力が強いと回答した「観光・グルメ」「バラエティ」「ドキュメンタリー」の展開の主な舞台は、必然的にTVer、YouTube、系列キー局の各種サイトとなる。「観光・グルメ」については、ローカル局の情報番組のコーナーVTRなどを、系列を超えて集約し、そこにメタ情報を付与してデジタル展開を促進する「ローカルコンテンツバンク」(LCB)が本格的に活動を開始しており、TVerにも展開中である。TVerはこの他、ローカル局が制作する「バラエティ」の展開の場としても機能してきたが、最近は、骨太の「ドキュメンタリー」を配信するローカル局も少しずつ増えてきている。「ドキュメンタリー」については、系列キー局系のサイトで短尺にして束ねて展開している事例もある(NNN系列による「Nドキュポケット」)。地域の課題解決や民主主義に貢献する手段として、ドキュメンタリー制作を志す若手は少なくない。経営が厳しいローカル局において、テレビ広告を集めにくいドキュメンタリーを安心して制作できる環境を構築・持続させていくためには、放送以外の場で収入を得る仕組み作りが急務である。
先にも触れたが、系列ローカル局のデジタル展開による収入は現在1%未満であり、収入を伸ばす道のりは険しい。YouTube依存ではマネタイズの将来像は描けない。ローカル局が番組制作を頑張るだけでなく、番組を受け入れる側のTVerや各種サイトを運営する系列キー局が、ローカル局が制作する番組の価値を認識し、その価値を高めるための工夫をより進めていくことが必要ではないだろうか。そのことは、ローカル局を支えるのみならず、TVerや各種サイト、そして業界全体にとっての利益となるはずである。

<図3. インターネットへの番組配信の展開状況>
同時配信? 放送の補完・代替?
この他、総務省事務局からは、「今後のネット配信に係る展望」「ネット配信によって放送を補完または代替することの是非や要件」に関する事業者のコメントが紹介された。この質問は、2025年8月25日の在り方検親会36回会合に提出された「今後の検討の方向性」に従って行われたものと思われる(図4)。

<図4. 総務省・在り方検第36回会合資料>
現在、ラジオについては、AM事業者が中継局を廃止してFMに移行するにあたって発生する難聴地域について、代替的手段としてradikoの活用が要望されている。また、今回の会合ではエフエム東京が、FM事業者も中継局を廃止する際にradikoを代替として認めることを要望した(説明資料はこちら)。radiko代替については、災害対応の観点から筆者は消極的な意見を持っているが、一旦それは脇におくとして、radikoは、全ての地上ラジオ放送事業者が地域制御する形で"常時"同時配信を無料で提供するプラットフォームとして運営され、ユーザーにも定着しつつあることから、代替を検討する要件は整っているといえる。
一方、テレビについては、ケーブルテレビなどによる再放送、ブロードバンドによる代替の制度化、そして現在は衛星放送による代替が検討されている。ラジオのような、一般的な"常時"同時配信を代替・補完とするという論点は、これまで構成員の意見としては出されていたものの、具体的な代替案としては提示されてこなかったはずである。先に触れたように、テレビにおいては系列ローカル局の自社制作番組は平均10%程度であり、残りはキー局等が制作した番組や購入番組が放送されている。この点は、ローカル局でも多くの番組を制作し、権利処理をすれば自社の判断で配信が可能なラジオとは大きく異なる。TVerによる同時配信(リアルタイム配信)も、キー局系としてプライムタイムの番組などが一部実施されているのみである。このようにラジオとは大きく異なる事情の中で、民放全体としてテレビの"常時"同時配信をどう考えていくのかについては、10年以上、検討がほぼ足踏み状態にある。
総務省としては当然、以上のようなテレビに関する事情は十分に理解した上で、今回のアンケート調査に臨んだはずである。ただ、報告された事業者コメントを見ると、どんな前提でこの質問に向き合えばいいのか、戸惑いながら回答しているのではないかという印象を持った。筆者も、事務局資料の膨大で多様な事業者コメントをどう読み込めばいいのか、戸惑いを感じた。
テレビについても、ゆくゆくはラジオと同様の考え方で、"常時"同時配信を放送の代替にすることを検討しようとしているのか。その際に、制度化されたブロードバンド代替施策との関係性をどう整理する考えなのか。"常時"同時配信に関するキー局と系列ローカル局の位置づけをどう考えていこうとしているのか。それとも、前提を置かず、幅広に事業者の意向を探ろうとしただけなのか。議論では、構成員から総務省事務局に対してこうした質問があるのではないかと期待していたが、この論点にはあまり時間が割かれず残念であった。
放送の補完・代替としてネット配信をどう位置付けていくのかという論点は、ローカル局云々の話に留まらず、放送制度全体の根幹に関わるものである。次回の2月18日の在り方検では「放送の将来像と制度の在り方に関する論点整理」が行われる予定である。注目してみていきたい。
おわりに
筆者は、本シリーズでも繰り返し述べてきたとおり、ローカル局の地域メディアとしての存在意義は、放送だけではなく、配信や地域事業など多様な取り組みを組み合わせることでより高まっていくと考えている。そのため、冒頭で紹介した、テレビ放送番組収入に依存する経営体質から脱却できていない系列ローカル局全体の実態を示すデータを見て、少なからずショックを受けた。しかし、報告されたアンケートの「地域情報をより増やすために必要と考えられる対応」の事業者コメントの中には、「社員が減少する中、情報収集・制作力を強化するため、地域の団体、学校などと連携し、コンテンツを共同で企画・制作」「外部クリエイターや大学との共同制作の構築」「地域活性化に資するイベントや施策に対して、メディアとしての積極支援」などの文言もあった。メディア以外の地域のさまざまな団体や人々とつながり、放送波というリーチ力、放送局というアセットを活用したさまざまなアイデアをビジネスにしていく可能性は、まだ十分にあると筆者は信じている。引き続き、ローカル局の現場から学びながら考えていきたい。

