放送局は、子どもたちに番組を見てもらうために何をすべきか。子どもたちのために何ができるのか――。「シリーズ"子どもたちのために"」では、放送局の取り組みの紹介に加え、有識者による論考なども掲載します(まとめページはこちら)。第4回は、NTT東日本 地域循環型ミライ研究所客員研究員の久保隅綾さんによる、子どものメディア利用についての論考です。米国小児科学会の最新のポリシー・ステートメントから、子ども向けコンテンツに求められる要素をひもといていただきます。(編集広報部)
時間制限による「安心」の限界
メンタルヘルス保護や依存防止を目的とした子どもたちのスマートフォンやSNSの利用規制は大きな転換点を迎えている。16歳未満のSNSの利用を禁止する世界初の法律が2025年オーストラリアで施行され、日本でも市町村レベルの行政で同様の動きが見られ始めた。政府や行政が、法による強制的なメディア利用介入へとかじを切る様子がうかがえ、こうした規制の波は、子ども向けコンテンツを制作・配信する放送・メディア産業にとっても無関係ではない。
今まで筆者は、乳幼児と親のメディアのかかわりに関する研究や、デザインリサーチ業務に携わってきたが、小学校5年生と1年生の二人の子どもを米国で育てている親としても、スクリーンタイム(利用時間制限)は常に悩みの種である。アメリカでは、ハロウィーンの子どもたちの衣装を見ると、何が流行っているのかが一目瞭然だ。昨年はNetflixオリジナルアニメ『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』の衣装をまとう子たちで溢れていた。子どもへのメディアの影響をひしひしと肌で感じる日々である。
筆者らによる乳幼児の情報機器利用とその影響、育児との関わりについての研究(橋元・久保隅・大野, 2020※1)では、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics/以下、AAP)が2016年に発表したメディア接触利用に関する指針を紹介している。例えば、2歳から5歳の子どもは一日に1時間以内、"高品質のプログラム"のみを視聴することなど、年齢に応じた具体的な提言内容となっている(AAP,2016※2)。最近では2026年1月にこれらの方針がアップデートされ、親の介入による子どもの利用制限の限界を指摘している。
そこで本稿では、AAPの最新のポリシー・ステートメント「Digital Ecosystems, Children, and Adolescents: Policy Statement」(AAP, 2026※3) を紹介し、"高品質なプログラム"の定義を再考する。そして、利用制限のその先にあるべき、子どもや家族を取り巻くデジタル生態系のデザインには何が求められるのか、ひもといていきたい。
AAPによる最新提言―「時間制限」から「生態系」へのパラダイムシフト
AAPが発表した最新ステートメントは、これまで私たちが正しいルールとして依拠してきた「スクリーンタイム(利用時間制限)」という概念が、機能不全に陥っていることを公式に認めるものだ。こうした転換の背景には、子どものメディア利用と発達への影響に関する研究の蓄積がある。そこで示されているのは、希望と危惧が入り交じるものだ。
例えば、乳幼児期(生後18カ月以下)の子どもにおいて、特定の教育アプリは、STEM(科学・技術・工学・数学)や言語学習を促進する効果がみられ、養育者とのジョイント・メディア・エンゲージメント(例:一緒に見る、教えながら見る)によってその効果は強化されるという。逆に、子どもをあやすために、非教育的なコンテンツを一人で見させるような使い方は、言葉や考える力、人との関わり方、気持ちや行動をコントロールする力などの発達が遅れる傾向があることが報告されている。
6歳から12歳までの子どもでは、 学習目標を持ち、高品質で適度に利用されるよう適切に設計されたデジタルメディア(テレビ、インターネット、SNS、ビデオゲーム、AIアシスタントor会話型AIアシスタント)の場合は、子どもの数学や読解力の向上に寄与しうるが、過度なメディア利用やスクリーンタイムは学業成績の低下、注意制御や認知能力の低下に影響する。
13歳から18歳のティーンエイジャーでは、高品質なコンテンツへのアクセス、養育者の支援、そしてオンラインでの良好な友人関係がある場合、学習、人格形成、健やかな発達や幸福にプラスの影響を与える一方で、アルゴリズムによる情報提示や拡散、SNSなどによる他者との比較は、摂食障害、うつ病、不安症、自傷行為のリスクを高める可能性があるという。
いずれの研究結果にも共通するのは、高品質なコンテンツの効果は「親や養育者と一緒に見る」ことで強化されるということだ。一方で、深刻な影も浮き彫りにしている。特に、あやし道具としての利用は子どもの自己調整能力の発達を妨げ、過度な一人での視聴は実行機能遅延につながる。自動再生、無限スクロール、ターゲティング広告など、子どもを画面に留める「エンゲージメント(滞在時間)ベースの設計」は、発達や学習だけでなく、睡眠や運動といった生活習慣にも悪影響を及ぼす。

<図1 子どもを取り巻くデジタル環境についての社会生態学モデル
出典:American Academy of Pediatrics(2026)Digital Ecosystems, Children, and Adolescents: Policy Statement
※図中の日本語表記は筆者による和訳>
こうした負の影響は、「親の注意不足」「子どもの自制心の欠如」や「個人の選択」の結果ではなく、子どもを取り巻く広義な「デジタル生態系(Digital Ecosystem)(*図1)」の問題だと、AAPは鋭く指摘する。子どもや親を取り巻く、「第3の輪(デジタルエコシステム)」「第4の輪(制度と社会構造)」が適切に投資・規制されていないために、親が孤立し、疲弊する状況を引き起こしている。これは、子どものメディア利用を「家庭内のしつけや時間管理の問題」と捉える時代の終焉を意味している。そして、今求められているのは、高品質なコンテンツ制作を超え、子どもの成長を支えるデジタル生態系全体の設計責任を再定義することである。
「高品質」なコンテンツを再定義する―
「5つのパズルのピース」
AAPは子どもを取り巻くデジタル生態系を踏まえ、コンテンツの"内"だけでなく、"外"とともに「子ども中心設計」に転換せよと主張する。それは子どもの発達ニーズを優先し、プライバシー、安全性を担保するとともに、現実世界での学びや社会的なつながりをサポートするものだ。具体的にはどのようなデザインが求められているのだろうか。AAPが提案する、親の子どもに視聴させる番組選びの指針である、高品質な視聴体験を構成する不可欠な「5つのパズルのピース」(図2)にそのヒントがある。

<図2 高品質なコンテンツを選ぶためのパズルピース
出典:American Academy of Pediatrics(2026)Digital Ecosystems, Children, and Adolescents: Policy Statement
※タイトルおよび図中の日本語表記は筆者による和訳>
内容面では、知識や情報の詰め込みではなく、子どもが自分の感情を制御したり、人と関わる力を育てるものや、子ども自身の自由な想像力や「なぜ?」という問い、批判的思考力を促すもの、そして、親子が一緒に視聴し、会話を誘発する設計が望ましい。番組やプログラムのペースやテンポも重要だ。速すぎるカット割りや刺激的な演出など、子どもの神経を過度に興奮させることを避け、理解と内省のための「間」が確保されていることが望ましい。さらに、長時間だらだら視聴させるのではなく、視聴後に子どもが自ら次の行動や活動に移れるよう、「主体性(Agency)」を尊重することも設計上の挑戦である。こうした要素は、長年子ども向け番組や教育コンテンツを制作してきた放送業界の設計思想と重なる。
一方、質の低いコンテンツは、子どもを画面に引き止める暗黙の設計(ダークパターン)がされている。過剰な広告、ターゲティングメッセージ、過度なインタラクティブ機能は、子どもの健全な発達を阻害する可能性がある。暴力表現の排除や、ネットいじめなどから子どもを守り、親の安心を担保する視聴設計には、規制やガイドラインの定期的な見直しが欠かせない。高品質なコンテンツとは、画面内の一時的な満足感にとどまらず、画面の外にある現実世界へと子どもを解き放つ"出発点"でもなければならない。その効果を最大化するには、複数の層からなるデジタル生態系やその設計方針を理解したうえで制作されなければならない。
画面の内と"外"のデザインへ向かって
先日、娘と息子が通う学校から、「Wait Until 8th」(訳:8年生まで待って/外部サイトに遷移します)活動のお知らせが来た。日本でいう中学2年生まで、スマホデビューをあえて遅らせる草の根活動だ。スマホ利用がメンタルや学習に与える影響を懸念し、保護者が、互いに約束を交わし、足並みをそろえて取り組むものだ。わが家も、親だけで子どもの利用を管理するのが難しいと考え、参加した。登録すると参加者間で子どもの名前が共有され、同じ学校で取り組む仲間が見える。ニューヨークの学校では、家庭でのデジタル・デトックスやスクリーンとの距離感に関する親向けのイベントやワークショップが頻繁に開かれている。これは、親が孤立せずに「集団で環境を設計する(Collective Design)」取り組みであり、子どもと親を取り巻くデジタルエコシステムの設計の好例だといえよう。
子どもを守るとは、画面を閉じさせることではない。画面を閉じた後に広がる世界を豊かにすることだ。デジタルエコシステムとは、端末やアプリの集合ではなく、子どもが生きる社会環境そのものを指す。私たちが次にデザインすべき対象は、まさにその「画面の外側」である。個人を孤立させるのではなく、"同じ時間と空間を共有する場"を提供し、画面の外――社会とのつながりへと開いていく切符は、放送事業者だからこそ、届けられるのではないだろうか。
参考文献
※1 橋元良明・久保隅綾・大野志郎(2020)「育児とスマートフォン」『東京大学大学院情報学環情報学研究 調査研究編』36, 197-241.
※2 American Academy of Pediatrics. (2016). Media and Young Minds.Pediatrics, 138(5), e20162591. https://doi.org/10.1542/peds.2016-2591
※3 American Academy of Pediatrics. (2026). Digital Ecosystems, Children, and Adolescents: Policy Statement.Pediatrics, 157(2), e2025075320. https://doi.org/10.1542/peds.2025-075320

