米国のドナルド・トランプ前大統領が3月30日、大統領経験者として初めて刑事事件で起訴された。ニューヨーク州マンハッタン地区検察はトランプ氏が 2016年の大統領選に関連した違法行為を隠すため、ビジネス記録を改ざんしたとして34の罪で起訴に踏み切った。歴史的な一大事とあって、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が第一報すると、テレビ各局も一斉に速報特番態勢に入った。同紙はこれらを「トランプショーの復活」と報じている。
翌週4月4日の罪状認否に出廷したトランプ氏は、すべての罪状を否認した。入廷を禁じられたテレビカメラは入り口付近に陣取り、わずか5秒のトランプ氏入廷の瞬間を全米に届けた。この日、ケーブルニュース局は終日トランプ特番を組んだ。
テレビカメラは入廷できず
起訴が伝えらえた3月30日の速報には各局の花形アンカーが総出で報道にあたった。MSNBCのレイチェル・マドーはこの日非番だったにもかかわらず、「メークも自分でやったのであしからず」などとジョークを飛ばしながら駆けつけ、緊急登板。トランプ氏の起訴は予想されていたものの、それがいつになるかはメディアもつかんでいなかったようで、その驚きは各局のアンカーらの様子からも視聴者に伝わった。
テレビカメラがニューヨーク市内の法廷に入ることはほとんどないが、今回は歴史的瞬間とあって例外が認められるかが注目されていた。テレビ局は当然、カメラ中継できるよう申請を行っていたが、トランプ陣営は逆に報道陣締め出しの要請で対抗。結果、罪状認否前日の夕方、ニューヨーク州最高裁はテレビカメラの入廷禁止を発表した。PCやスマホ・携帯電話などあらゆる通信デバイスの法廷内持ち込みが禁止された。ただし、5人のスチールカメラマンが正式な罪状認否が始まるまでの数分間だけ入廷して撮影が許可された。
終日特番を組んだケーブル局だけでなく、大手地上波局もライブで伝えた。ABCニュースのデービッド・ミューアーは、あっという間のトランプ氏入廷映像の直後、「わずか5秒ですが、歴史的な5秒でした」と事実の重大さを強調した。
トランプ氏は、裁判所の入り口に詰めかけたメディアからの質問には一切答えず、法廷を出るとすぐに車でラガーディア空港に向かった。ケーブル局はいずれもトランプ氏が乗った車を空からカメラで追いかけながら、歴史家や法律家など各分野の専門家の見解を報道し続けた。トランプ氏は罪状認否の翌朝、フロリダ州で支持者を集めて抗議演説を行い、FOXニュースとCNNはこの様子を生中継した。しかし、MSNBCだけは「ニュースバリューはない」として中継を行っていない。
トランプとメディアのいびつな関係
トランプ氏支持のFOXニュースだけでなく、反トランプのMSNBCや、中道を主張するCNNにとっても、同氏はドル箱キャラクターだ。批判と支持の立場を問わず、トランプ報道は良くも悪くも視聴者を引きつける。それを熟知するトランプ氏は一連の起訴報道を逆手に取り、起訴翌日には支持者から500万ドルの寄付を集めている。
ニールセンの調べによると、起訴を報じた3月30日の速報は3大ケーブルニュース局の視聴者数を大幅に引き上げた。プライムタイムではFOXニュースが330万人(通常の34%増)、CNNが120万人(通常の2倍)、MSNBCが250万人(同78%増)。3月30日の起訴当日から4月5日の罪状認否翌日の平均視聴者数もFOXニュースが通常の13%増、MSNBCが同36%増、CNNが同35%増だった。
トランプ氏は来年の大統領選への立候補を表明しており、今回の起訴を「かつてない規模の選挙妨害だ」と非難している。一方で、「起訴はむしろ選挙戦で有利になる」との見方もある。NYTやニュースサイトAxiosなどは、「トランプ氏はそのたびにテレビを利用するだろうし、テレビはそれでもトランプ報道に明け暮れるだろう」と両者のいびつな関係を揶揄している。