M9.0の地震により広範囲にわたる津波被害や福島第一原発事故が発生した東日本大震災から14年。今年も3月11日を中心に、民放各局は震災関連の特別番組や特集企画を放送した。14年前の震災を経験していない子どもたちへの継承、能登半島地震の被災地とのつながり、復興の後押しなどをテーマにした番組や、2月19日に発生した岩手県大船渡市山林火災との"二重被災"などをふまえた企画などが見られた。また、「3.11」という日にちや、番組ジャンルに捉われない多様な伝え方に各局の創意工夫があった。岩手、宮城、福島の民放各局の番組を中心に、編集広報部でピックアップして紹介する。(編集広報部)
テレビ(岩手、宮城、福島):系列特番、通常番組、特別番組、ドキュメンタリー、同時配信も
【岩手】
テレビ岩手は、『福岡・いわて、感謝のリレー ~知ると行きたくなる岩手~』(=写真㊤ 3月8日13:55~14:50)を放送。これまでの復興支援への「感謝」をテーマに、盛岡市出身の俳優・戸塚純貴さん、同社『5きげんテレビ』MCの渡辺裕太さんら福岡県と岩手県を結ぶ4人のメンバーが両県の絆と訪れてみたくなる魅力を紹介。福岡では福岡市民防災センター、北東北3県アンテナショップ「みちのく夢プラザ」(福岡市中央区天神)、岩手では高田松原津波復興祈念公園(陸前高田市)、東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」(同)、いのちをつなぐ未来館」(釜石市)、三陸復興国立公園・浄土ヶ浜ビジターセンター(宮古市)などをリポートした。
また、『5きげん×プラス1 東日本大震災14年~相次ぐ自然災害 あの日の教え~』(3月11日16:45~17:53、18:15~18:54)を放送。大船渡市山林火災を踏まえ、前半は、渡辺雄太さんが防災について学び、後半はフリーアナウンサーの藤井貴彦さんらが陸前高田市の川原川公園の「つむぐイルミネーション」から生中継。このほか県内各地の鎮魂の祈りや、山林火災の被災・被害状況、釜石市「いのちをつなぐ未来館」の未来につなぐ防災教育、防災設備の強化などを伝え、命を守るために必要なことを考えた。
岩手朝日テレビは、『スーパーJチャンネルいわて』(3月11日18:15~18:55)を放送。陸前高田市、釜石市から鎮魂の願いを中継、復興教育の現状、大船渡市山林火災の状況などを伝えた。同番組では当日以外にも、震災関連企画として、▶いまだ行方が分からない不明者を探し続ける人たちの相談会、▶2025年度末で市の支援が終了するコミュニティ支援事業への被災者の思い、▶震災伝承活動の変化と継続に向けた課題、▶被災者の記憶をたどり記録を残す研究者の活動――などを取り上げた。
IBC岩手放送(テレビ)は、ドキュメンタリー『忘れない3.11 Mission-伝える使命-』(3月11日10:25~11:20)を放送。震災から14年。伝承活動を行う団体の約9割が担い手の高齢化や資金難を理由に継続に不安を抱えている。このままでは、「語り部事業」が自然消滅する可能性が高い中、若い世代が伝承の役割を担おうと動き出す。大槌や釜石をはじめ、全国各地で、風化にあらがい、人の命を守るため具体的に行動する若き語り部たちに密着した。
また、『IBCニュースエコー』(3月11日18:15~18:55)では、防災訓練や追悼式典など岩手県内の3.11ドキュメントを伝えた。同番組は、11日以前からシリーズで「つなぐつながる~あの日から14年~」を放送し、防災教育の語り部、津波の教訓を伝える木碑(もくひ)の建て替えなど、震災で被災した地域の今を伝えた。
岩手めんこいテレビは、別項の共同制作番組や系列の特別番組のほか、『mit Live News』(3月11日17:48~19:00)を放送。県内各地の祈り、震災と山林火災の"二重被災"に遭った大船渡の3.11、被災者や水産業者の声などを伝えた。また、同番組で11日以前から、陸前高田市の前市長の思い、震災の語り部や支援活動を続ける旅館の元女将、災害公営住宅の心のケア支援事業終了問題などを取り上げた。
【宮城】
東北放送(テレビ)は、特別番組『ウォッチン!×Nスタみやぎ 東日本大震災14年の現在地』(=写真㊤ 3月11日9:55~10:50)を放送。元JNN三陸支局長の龍崎孝・流通経済大学教授をゲストに被災地の現状、防災対策の「今」を考えた。▶14年前、南三陸町で津波に流されながら一命をとりとめた元消防士の男性の救命活動に携わったのは地元の中学生たちだった。元消防士の男性と当時の中学生が14年越しに再開、あの日の救命活動を振り返った、▶震災を経験した宮城県内の避難所は、どのように改善し、どのような課題が積み残されているのか、県内各市町村への独自アンケートを基に災害時の避難所のあり方を検証した。
また、お笑いコンビ・サンドウィッチマンが出演する2つの番組、▶被災地の現状を伝え、復興を応援するシリーズの第14弾『サンドのこれが東北魂だ みちのく究極グルメを開発せよ!』(1月26日15:30~16:24)は岩手・宮城・福島の3県を舞台に究極食材探しの旅をテーマとし、▶レギュラー番組『サンドのぼんやり~ぬTV』(土、17:00~17:30)は南三陸町と気仙沼でロケを行い、3~4月に放送した。
仙台放送は『仙台放送 Live News イット!』(月―金、15:45~19:00)で、シリーズ企画「あの時、そして今」を2月20日から展開。「小学2年生で被災し、高校時代から語り部活動を続ける22歳の若者」「震災直後の仮埋葬の現実」「引退後も女川町に残った元サッカー選手」「人々の話を聞く『傾聴』を続ける住職」「自然の不気味さを作品で表現する美術家」「津波避難施設はどう変わったか」「若手に震災を伝える警察官」――などを取り上げ、さまざまな角度から東日本大震災を見つめた。また、『仙台放送 Live News イット!特別版「あの日をつなぐ」』(3月11日13:50~14:50)を放送、各地の追悼の様子を中継でつなぎ、鎮魂の祈りを届けた。
宮城テレビ放送は、『OH!バンデス ミヤギnews every. つなぐ~震災から14年~』(=写真㊤ 3月11日15:48~19:00)を生放送とYouTubeライブ配信。『OH!バンデス』MCのさとう宗幸さんと『ミヤギnews every.』キャスター柳瀬洋平さんら3人が南三陸町旧防災対策庁舎から生中継し、南三陸町長に同庁舎が震災遺構として恒久化された経緯を聞いた。また、石巻市震災遺構の門脇小学校で発災当時の校長にインタビューし、記憶と教訓をつなぐ思いを伝えた。プロスケーター・羽生結弦さん(仙台市出身)のインタビューを挟み、南三陸さんさん商店街と、能登半島地震後に同商店街と交流を深めた石川県七尾市の一本杉通り商店街を中継でつないだ。気仙沼市出身で東日本大震災を経験し、現在、石川県輪島市で子どもたちへの防災教育に取り組む2人にインタビューするとともに、輪島市の商店や子どもたちの現状を取材。県内では、津波で子ども3人を亡くした石巻市の夫婦を取材し、時間の経過とともに変わる自身や周囲の状況、震災に対する思いを聞いた。そのほか、地震研究の最前線として海底掘削船の活動などを紹介した。
東日本放送は、「テレメンタリー2025『"3.11"を忘れない94 警察官の3.11』(=写真㊤ 3月10日25:31~26:01)を放送。東日本大震災当時、最前線で人命救助にあたった警察官。未曾有の事態に混乱する中、宮城県警トップとして指揮を執った竹内直人さんは、「1万人地獄 これから本番 現場はもっと辛い」と手帳に記した。県内では、警察官14人が住民の避難誘導中に津波に巻き込まれるなどして殉職した。部下を失い、あの日の判断を自問自答する者、連日運び込まれる多くの遺体に向き合い、次の災害への備えを問う者......。あの日、震災とどう向き合ったのか。警察官たちの「3.11」を証言で構成した。
また、『チャージ!』(3月11日16:35~17:50【第1部】、18:15~19:00【第2部】)では、各地での鎮魂の祈りや、教訓の伝承、生死を分けた"職場避難"に関する調査結果、定点映像で振り返る"復興の歩み"――などを伝えた。
【福島】
福島テレビは、『【防災大百科スペシャル】あの日をつなげる』(3月11日16:50~17:48)を放送。同社防災アドバイザーの松尾一郎氏(東京大学大学院客員教授)とともに、津波から命を守る「海岸防災林」、小名浜道路のインフラ整備、警察の震災対策、震災関連死などを取り上げた。
また、『テレポートプラススペシャル あの日から14年』(同18:09~19:00)を放送。除染土の搬入開始から10年を迎える中間貯蔵施設をテーマに大熊町の中間貯蔵事業
福島中央テレビは、『特別番組 アートレック@Fukushima~私たちが創る浜通りの未来~』(=写真㊤ 3月8日15:30~16:00)を放送。浜通り地域で進むアートによる復興への取り組み。フリーアナウンサーの藤井貴彦さんをナビゲーターに、浜通りで映画や音楽、現代美術などアートを活用して地域づくりを進めている人たちとともに、福島の未来像を話し合った。同社はシリーズ企画「アートレック@Fukushima」(※外部サイトに遷移します。以下同じ)を展開。「アートレック」とは、アート(芸術)、アトレ(魅力)、トレック(旅)、レック(記録)を組み合わせた造語で、アーティストたちが被災地を訪れその魅力を記録していく活動や思いをYouTube動画・WEB記事・テレビ番組で発信している。
また、『ゴジてれChu!』(3月11日15:50~18:00)では県内各地の鎮魂の祈りを伝え、故・西田敏行さんの福島への思いを過去映像で振り返り、津波で母と姉を亡くした女性の思いを聞いた。
福島放送は、共同制作番組のほか、『シェア!震災特別編』(3月11日16:05~17:50、18:15~19:00)を放送。各地の追悼の祈りとともに、▶いわき市出身の俳優・富田望生さんが震災の経験を語り継ぐために母校を訪問、▶避難指示が最後に解除された双葉町からのリポート、▶子育て世代農家が語る被災地の課題、▶福島第一原発の14年の変化――などを伝えた。
テレビユー福島は、『ステップスペシャル 2025現在地〜残された課題 地域の未来〜』(=写真㊤ 3月11日15:00~15:49)を放送。▶帰還困難区域の現状~復興とは何かを住民の声とともに伝える、▶除染土の最終処分~県民との約束は果たされるのか、その行方を問う、▶記憶の伝承と風化~被災地と向き合う若者たちの姿や、被災地に新設された学校の現状――の3つのテーマに分け、当日の動きも交えながら、福島の現在地とこれからを考えた。
在京テレビキー局:さまざまな番組を通じて伝え、新たな試みも
日本テレビ放送網は、『真相報道バンキシャ!』(3月9日18:00~18:55)を放送。メディア初公開の3時間におよぶ震災当時の記録映像には、津波の瞬間や引き波の脅威、避難生活の様子などが残されていた。記録映像を分析すると「新たな仮説」が浮かび上がり、南海トラフ地震など将来の津波対策につながる可能性が見えてくる。一般の方が撮影した記録映像をもとに、学識者の見解もふまえ、近接する地域でも「押し波」(=沖合から海岸に向かってくる波)と「引き波」(=海岸から沖合に向かう波)の両方があり得るという仮説を提示した。また、3月11日は各ニュース・情報番組で被災地の様子などを伝えたほか、「津波遺留品」や「311円中華そば」などを特集した。
テレビ朝日は、ANN報道特別番組『東日本大震災から14年「命を守る防災力」』(3月11日13:50~14:53)を放送。東日本大震災の教訓から得た防災の知見が頻発する災害の備えに結びついている事例を紹介。▶当時、小学1年生の子どもが教師に。"伝える"ことで子どもたちの災害への備えにつなげる活動、▶地震・津波に耐えた水道管。AIを活用し効率的に水道インフラの耐震化を進める防災対策の最前線、▶福島第一原発から取り出した核燃料デブリを再現。2051年までに廃炉の完了は間に合うのか――などのテーマを取り上げた。
TBSテレビは、『報道特集』(3月8日17:30~18:50)で、「東日本大震災から14年」をテーマに2つの特集を放送。▶東北と能登で考える"復興"。東日本大震災で被災した経験をもとに、今、能登半島で奮闘する人たちを取材。2つの被災地から「震災と復興」について考える。▶原発事故で住民ゼロの福島県双葉町。復興を目指す町は2,000人規模の町づくりを実現できるのか。そして、いまだ最終処分地が決まらない除染土の処理問題を取材した。
また、3月11日は各ニュース・情報番組で被災地の様子を伝えたほか、「つなぐ、つながる」と題して「津波避難の教訓」「震災で家族を失った被災者の14年」などを特集するとともに、「非常用防災バッグの点検」「首都直下地震への備え」「初期消火の重要性、避難先の確保」も注意喚起した。
テレビ東京は、1月10日から3月28日までドラマ『風のふく島』(=写真㊤ 全12回、金、24:42~25:13※放送回により時間変更あり)を放送。東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難指示の対象となった福島12市町村を舞台に、実在する12人の移住者たちをモデルとして、新時代に向かう人々の暮らしを1話1主人公のオムニバス形式で描き出すヒューマンドラマ。ふくしま12市町村移住支援センターが制作協力し、現地の人々も出演。3月から福島テレビでも放送された。また、モデルになった移住者本人のドキュメンタリー(※)もYouTubeで配信。ドラマの形で被災地の移住者をポジティブに描き、あわせてドキュメンタリーでもリアルを伝える多面的な手法を試みた意欲作。
フジテレビジョンは、『わ・す・れ・な・い~福島と能登~ 語り継ぐ震災の記憶』(=写真㊤ 3月11日14:45~15:45)を放送。"命を守るための行動""震災をどう語り継ぐか"をテーマに、被災地の今を生中継したうえで、▶能登半島地震の避難行動をドライブレコーダーの映像から検証、▶福島県・楢葉町の貴重な津波映像を撮影し、避難時も今も町の記録を続ける男性、▶東日本大震災の「語り手」の世代交代が進む中、語り継ぐために必要なこと――などを取り上げた。
また、民放NHK6局防災プロジェクトの一環として、4人のアナウンサーが「語り手」となり、書籍『東北モノローグ』(いとうせいこう著/河出書房新社)を朗読して音声を残す企画「朗読『東北モノローグ』」(※)を実施。新たな形で震災の記憶を伝える試みを行った。
【①ラジオ、テレビ共同制作番組(岩手、宮城、福島)】はこちら。