【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオ報道番組)】大切なのは、どのように伝えるか。

石井 彰
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオ報道番組)】大切なのは、どのように伝えるか。

8月18日中央審査【参加/33社=33本】
審査委員長=石井 彰(放送作家)
審査員=錦光山雅子(フリーランスライター)、田中早苗(弁護士)、やきそばかおる(コラムニスト)

※下線はグランプリ候補番組


戦争、原爆、震災、原発事故、性暴力、事件事故など、伝えるテーマは多岐にわたった。大切なのは、それをどのように伝えるか。音声だけのラジオで、それぞれの主題に応じた制作スタイルがある。テーマそのものに軽重はない。制作者の深い視点と手法の新しさ、つまり聴き応えが、おのずと評価の基準になった。

最優秀=文化放送/文化放送戦後75年スペシャル 封印された真実~軍属ラジオ(=写真) ラジオで「ラジオと戦争」の関わりを描いた意欲作。日本とアメリカは、相手国にむけたプロバガンダ放送、電波による空中戦を展開していた。ラジオが戦争に巧妙に利用されていた事実を、あらためて深く考えさせる。8月15日の玉音放送3時間前に、米軍のVOA(Voice of America)は、日本のポツダム宣言受諾放送があることを複数の言語で報道していた。埼玉県の川口送信所(現在の文化放送送信所)から妨害放送が流されていたなど、取材で突きとめられた事実が巧みに構成されており、思わず魅き込まれるラジオの傑作だった。

優秀=北海道放送/隠された性暴力 ~28年前の少女からの訴え~ 28年前に教師から受けた性暴力を実名で告発する女性の苦悩を伝えることで、性暴力被害の深さと苦しみに想いをはせた秀作。番組は重苦しいが、それだけ女性の受けた傷ははかりしれない。隠し録りされた加害者との居酒屋での会話には固唾をのんだ。30分と短い番組ゆえ、被害者の救済や性犯罪防止などの具体策に言及されなかったのが惜しまれる。

優秀=信越放送/SBCラジオスペシャル『Lost and Found ~家族と故郷を失った父と娘の10年』~ 東日本大震災と大津波、そして福島第一原発事故により、行方不明になった娘を捜し続ける父と、妹を失った娘。その10年を継続して取材した番組には厚みがあった。自宅のあった場所には、いま放射性廃棄物の中間貯蔵施設が作られようとしている。無口な親子それぞれの心情を、二人のナレーターが語り分けて交差させる方法論は秀逸だが、もっと本人たちの言葉も聞きたかった。

優秀=北日本放送/KNBラジオ報道スペシャル 冷たい扉~記者が見た奥田交番襲撃事件~ 2018年、富山県で、元自衛官が交番を襲撃。警官を殺害して拳銃を奪い、近くにある学校の警備員を射殺した事件が発生。報道部に異動したばかりの記者が事件を担当する。なぜ自宅から15kmも離れた交番を襲ったのかなど、多くの疑問を持った記者は取材を続けて、加害者への面会を求めるが拒絶される。遺族と信頼関係を築き、その悲しみや揺れる心を丁寧に伝えた取材が光る。記者が構成・演出・語りを担当した意欲作だが、語りの調子があまりにも無機質なのが気になった。

優秀=ラジオ関西/知らないけど知っている~私たちの1.17~ 甚大な被害を出した阪神淡路大震災から26年がたった。いまや神戸に住む人の半数は震災を体験していない。自分たちが知らない震災を継承していこうと、25歳のアナウンサーと地元の長田高校放送委員会のメンバーが開いた4回のワークショップを中心に伝えた。また、番組を通して全国の高校から「"明るい"防災CMコンテスト」を実施して優秀作品を発表。高校生もアナウンサーも女性ということもあり、誰が話しているのかががわかりづらいのが残念。

広島エフエム放送/歌えなかった校歌、歌い継ぐ 1942(昭和17)年創立の広島市立中学校(現・基町高校)は、学制改革のため6年でその歴史を閉じた。44年に作られた校歌は歌う機会が少なく、一部の生徒しか知らなかった。8月6日の原爆投下により、同校教職員や生徒369人が死亡。校歌の楽譜と歌詞は消失。基町高校では毎年亡くなった生徒らの慰霊式が行われ、06年からは市立中の校歌が歌い継がれている。校歌作り、その復元と合唱への歴史をたどりながら、原爆の悲劇を伝える大切な番組。オルゴールの使い方など工夫もあるが、難点は歌詞の全文がわかりにくかったこと。

優秀=琉球放送/RBCiラジオスペシャル 首里城火災から1年 撮り続けた8時間の記録~ 2019年10月31日未明に発生した首里城火災により、正殿など7棟が消失した。建物だけでなく内部に保管されていた多くの文化財も灰となる。県民にとってのシンボルが燃え落ちていく姿を、8時間余りホームビデオで撮影した近所の男性がいた。ビデオに残された音声と、男性への取材によって、火災の恐ろしさだけでなく、人々の首里城への想いが伝わってくる。火災の発生原因や消火遅れの理由なども、番組に盛り込んでほしかった。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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