8月18日中央審査【参加/110社=110本】
審査委員長=城戸久枝(ノンフィクションライター)
審査員=市川紗椰(モデル、タレント)、金川雄策(Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフプロデューサー)、布施英利(美術批評家、東京藝術大学教授)
※下線はグランプリ候補番組
教養番組というカテゴリーは、テーマが非常に幅広く、作品としての持ち味、教養、さまざまな視点から、同じ土俵で比べて評価することの難しさを感じた。取材者がどのようなスタンスで向き合ったのか、何を伝えたかったのかというメッセージ性の強弱で、受けとめ方が大きく分かれた。
最優秀=鹿児島テレビ放送/20年目の花火(=写真)
20年前に起こった花火工場の爆発事故で10人の花火師が命を落とした。事故の前から花火師に取材を行っていたディレクターが、定年を前に20年の空白を経て、花火工場を訪れる。花火の製造ができなくなった工場で、社長は事故以来、過去を背負い、たった一人、事故の記憶と向き合いながら、花火の打ち上げだけは続けていた。20代だった社長が表情を輝かせながら、花火づくりを語る過去の映像と現在の姿の対比が胸をつく。ナレーションやテロップは少なく、映像はとても静かで、無駄な演出はない。そして、映し出される花火の映像はどこまでも美しい。大きな事件、事故があれば、大々的に報道され、世間の注目を浴びる。だが、時の流れとともに、それらの記憶は、メディアからも、人々からも忘れ去られていく。果たしてそれでいいのかと、私たちに静かに問いかけるような印象深い作品である。審査員のなかでも異論なしの高評価で最優秀となった。
優秀=山形放送/口福の献立~お腹と心を満たす嚥下食~
食べ物をうまくのみ込めない人たちのために作られる嚥下食。鶴岡市の料理人、延味克士さんは舌だけでなく目でも楽しめる嚥下食(えんげしょく)を作る。延味さんの嚥下食は、本人だけではなく、家族まで笑顔にしていく。「食べることは人生を豊かにしてくれること」という家族の言葉が印象的だ。嚥下食が、介護や看護だけでなく、私たちの生きる今につながる普遍的な存在であることに気づかされる作品である。
優秀=BS-TBS/通信簿の少女を探して ~小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今~
一冊の古本に挟まれていた通信簿の持ち主である少女を探す旅をとおして、戦中、戦後の日本が歩んだ時代をたどる。通信簿というプライバシーに踏み込むことへの懸念や、ドラマ仕立ての構成でなくてもいいのではないかという意見もあったが、戦争の記憶を次世代につなげるために、若い世代をひきつける手法としての構成が高く評価された。結果が見えないなかで粘り強く取材を続けた姿勢も素晴らしい。
優秀=テレビ山梨/ワタシ桑ノ集落再生人~限界集落で挑戦した11年~
韓国人のハン・ソンミンさんが、山梨県の限界集落で興した桑の葉茶を製造する小さな会社。持ち前の明るさと行動力で、地元の人々と交流を深めながら、小さな会社が大きくなっていく成長物語を11年かけて取材。まさに、地元局ならではの強みが活かされた作品だ。ハンさんの、プライベートの意外な表情や歩みを描くことで作品に広がりが増すのではないか、という意見もあった。
優秀=北日本放送/駅ナカ保健室 性教育は誰のものか
中高生たちが気軽に性の相談をする場として富山駅に開設された「駅ナカ保健室」の1年を追いながら、日本の性教育の遅れの真相に迫っていく。一体、誰のための性教育なのか。あらためて性教育に向き合う必要性を強く感じる作品だ。中盤からは統一教会批判、ジャーナリズム的な視点に変わっていく。性教育と宗教批判。2つの骨太なテーマを掘り下げるにはもう少し時間が必要だったかもしれない。
優秀=朝日放送テレビ/Q-1 ~U-18が未来を変える★研究発表SHOW
高校生たちが、自らの研究を9分間のプレゼンテーションで競う"知の甲子園"「Q-1」 。彼らの熱量に圧倒された。高校生と専門家との発展的交流の場面は、知の頂点を目指すだけでなく、研究が未来への希望につながっていくように感じられた。まさに"教養"というカテゴリーにふさわしい番組である 。各地域 の予選の様子などもあれば、地元を応援するように全国を巻き込んで盛り上げていく展開になるのではないか。
優秀=広島テレビ放送/幸せをあきらめない~由佳さんと家族 6年9か月のキセキ~
交通事故により、夢も仕事も奪われた中野由佳さんが、持ち前の前向きさで、一つ一つ、夢を取り戻していく過程を丁寧に取材されている。自然体のインタビューの様子から、撮影時、取材対象者との信頼関係がしっかり築けているように感じられた。前向きな姿が前面に出ているが、家族や本人の苦悩などの思いが描かれると、もっと作品が深みを増すのではないかという意見もあった。
・各部門の審査結果はこちらから。