TBSテレビ「東京2025世界陸上」の興奮と感動を届けて

七澤 徹
TBSテレビ「東京2025世界陸上」の興奮と感動を届けて

2年に一度開催される陸上競技の世界最高峰の国際大会(世界陸上競技選手権大会、通称「世界陸上」)をTBSテレビが開催国のホストブロードキャスターの役割を務めるとともに、スポーツの魅力を地上波テレビの生放送でリアルに伝えました。その制作担当者に陸上競技中継を振り返ってもらいました。(編集広報部)


東京では34年ぶり、日本国内でも2007年の大阪大会以来18年ぶりの開催となった「東京2025世界陸上」(9月13~21日)は「熱狂の9日間」として多くの方々の記憶に残る大会となったに違いありません。期間中、日本の陸上競技大会史上最高となる61万9,288人の観戦者数を記録。前回のブダペスト大会(約40万人)と比較しても実に50%増であり、その成功規模が際立ちます。地上波放送でも連日好調な視聴率をマークし、個人視聴率はゴールデン帯平均10.5%、視聴者数は7,977万人に達しました(ビデオリサーチ調べ)。さらに、主催のWorld Athletics(国際陸上競技連盟。以下、WA)はSNS動画再生数が7億回を超えたと発表、「世界中の人々が視聴した記憶に残る大会」と総括しました。こうした数々の数字が成功裏に終わったことを物語る東京世界陸上。その記録的な成功に至るまでの綿密な計画と徹底した準備を振り返ります。

「東京に世界陸上がやってくる!」――競技を間近で見られるラストチャンスになる人もいるかもしれない中、東京世界陸上を絶対に成功させるという強い決意の下、TBSテレビでは大会2年前の2023年に社内プロジェクトチームを立ち上げ、始動しました。そして、次の4つのビジョンを掲げ、挑戦が始まったのです。「フルスタジアムの実現」「社会現象化」「コンテンツ最大化」「顧客の圧倒的満足度」これらの目標達成に至るまでの経緯をご説明します。

大会の成功へ向けた事前取り組み

放送の成功には大会の成功が不可欠です。今大会は最初の3日間(9月13~15日)が3連休ということもあり、ステークホルダーのWA、日本陸上競技連盟、東京2025世界陸上財団(大会運営組織。以下、世界陸上財団)¹ と競技スケジュールの協議を重ねました。日本人選手のメダル獲得や8位までの入賞が期待される種目の「競歩」「マラソン」を3連休の午前中に編成。ナイトセッション(夕方から夜にかけて行われる競技時間帯)では注目度の高い「100m」や世界記録保持者が登場する「男子棒高跳」、日本人選手の活躍が期待される「男子3000m障害物」「女子10000m」などを続々編成。大会後半の週末には「女子やり投」と3種のリレーを編成する。この競技スケジュールの骨子が2024年4月に固まりました。

同時にWA、世界陸上財団と連携し、当社が大会公式マスコットキャラクター「りくワン」をデザイン、大会メインカラーの江戸紫を基調とした「大会コアグラフィックス」のデザインを担いました。また、「1秒後、世界が変わる。」を大会と番組の統一テーマとし、世界陸上財団と当社が連動したプロモーションへとつなげていきました。

さらに1997~2022年までの13大会にわたり、当社の「世界陸上」でメインキャスターを務めた俳優の織田裕二さんが大会のスペシャルアンバサダーに就任。就任が発表された2024年10月から大会公式のイベントのみならず、当社のさまざまなバラエティ番組やオールスター感謝祭などの特番に出演いただき"東京大会の顔"として、機運醸成を最大化へ導いていただきました。

加えて当社のアンバサダーには俳優の今田美桜さん、応援サポーターとしてボーイズグループ「&TEAM」メンバーのKさんを起用。今田さんはスポーツ大会の顔を務めるのはこれが初めてであり、その新鮮なリアクションとともに親しみやすさが注目を集め、これまで世界陸上の視聴者として手薄だった女性層や若年層に大きくアプローチをしてくれました。また高校時代は駅伝の有望な選手として活躍していたKさんには、陸上選手のすごさを身をもって体感したことを伝えてもらい、SNS投稿などのデジタル施策においても中心的な役割を果たしていただきました。


2 rikuone.JPG <「東京2025世界陸上」大会公式マスコット「りくワン」>

顧客満足度とコンテンツ最大化の追求

当社が世界陸上をゴールデンタイムで放送するのは2015年の北京大会以来となります。初めて陸上の世界大会を視聴される方やこの10年の視聴環境の変化も鑑み、陸上競技の見せ方をあらためて見直していきました。

1つのスタジアムの中で、"トラック、跳躍、投てき"の種目が同時進行で行われ、陸上競技は種目ごとに勝負を決する瞬間が異なるため「生中継で見せるべき、歴史的な瞬間」の優先順位を定めることとしました。例えば「日本人選手がメダルを決める瞬間」「世界記録が生まれる瞬間」「日本人選手が決勝進出を決める瞬間=種目においては大変な快挙」など、日々の競技進行の流れと想定される注目選手、記録や結果を基にシミュレーションを重ね、制作・技術・アナウンサーなどの全スタッフの指針としました。

まさに「1秒後、世界が変わる。」陸上競技中継で、スタッフの"迷い"は歴史的な瞬間を逃すことになりかねません。そこで、競技ストーリーの機微を確実に届けることに注力しました。

同様に日本開催であっても「がんばれニッポン」を打ち出すことは世界陸上の本質とは異なるとの信念を持ち、「陸上の世界一決定戦」の舞台として、金メダルや世界記録が期待される外国人選手をVTRやスタジオ、そして中継内のCG映像を取り入れて視覚的に分かりやすく伝えることを大切にするとともに、この舞台での日本人選手の目線・目標を丁寧に伝えることを徹底しました。

連日、スタジアムでは日本人選手への大歓声はもちろん、男子短距離のノア・ライルズ選手や男子棒高跳のアーマンド・デュプランティス選手など、世界的な注目選手の登場に大歓声が上がる場面を中継することで、陸上競技の魅力が届けられたのではないかと感じております。

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<男子棒高跳びで6ⅿ30㎝の世界新記録を樹立、3大会連続の金メダルを獲得した
アーマンド・デュプランティス選手>

また、地上波放送の中継枠では全てを届けられない陸上競技、各種目へのニーズに応えるべく、TVerにて最大4チャンネル(4種目)の同時LIVE配信を実施。番組ウェブサイトのほか、X、YouTubeなどの各プラットフォームにも動画投稿から放送やTVerへの視聴誘引を図りました。結果、期間中のTVer LIVE配信再生数は760万回を超えることとなりました。

複数種目の同時放送、配信を実現する中で、世界陸上では1997年以来28年ぶりに女性アナウンサーを実況に起用しました。当社アナウンスセンターからの提案もあり、新たな視点から世界陸上の魅力を伝えるとともに、アナウンサーの役割に幅が広がることにもつながりました。

世界に通じるスポーツコンテンツの演出

今大会における国際映像制作に関しても報告します。世界陸上の国際映像制作は2017年のロンドン大会より、WAが指定する制作会社が担ってきました。東京大会においてはFIFAワールドカップなどでもホストブロードキャスターを務めるHBS(ホスト放送サービス)です。その一方で当社はWAにマラソン、競歩(ロードレース)の国際映像制作を担うことを提案。日本独自の移動中継車といった放送機器や当社のロードレース中継実績、東京の景観を含めた中継プランが評価され、2024年に基本合意。スタートとフィニッシュ地点の国立競技場内の映像制作を担当するHBSと連携したロードレース国際映像は、WAから高評価を得ました。

マラソン中継では、国内放送用に独自のバイクカメラも走行しました。世界陸上では、海外大会でも独自のバイクカメラは走行させていましたが、東京大会では初めて解説者を同乗させたリポートバイクも追加して走行しました。当社が国際映像を担当していることもあり、WA、HBS、大会運営からの承認も比較的スムーズでした。この試みにより、映像の幅と臨場感が増した中継演出につながったと考えています。

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<男子110ⅿハードルで5位に入賞した村竹ラシッド選手(日本記録保持者)>

さいごに

当社では過去最大ともいえるビッグプロジェクトに対し、放送の成功だけでなく、国立競技場のフルスタジアム化、公式マスコット&ビジュアル制作など大会全体の成功に大きくコミットし、配信・グッズ・イベントなどLTV(Life Time Value/顧客生涯価値)の最大化という側面でも成果をあげられたことは今後に向けて大きな財産となりました。

スポーツ局の枠を超え、社内全体がこのビッグプロジェクトに一丸となって取り組めたこと、また社内だけでなく大会運営組織、東京都、各ステークホルダーら社外との綿密な連携が成功の大きな要因となりました。

昨今、視聴環境が目まぐるしく変わる中であらためて、テレビの底力、そして何よりライブスポーツの爆発力を見せられたことは、今後のスポーツ中継のあり方に一石を投じる機会となったのではないでしょうか。

今回生まれた社会全体の「陸上への熱」を絶やさないため、社内外で連携を図り、獲得したムーブメントを持続させることが使命であると感じています。


¹ 東京2025世界陸上財団は、「第20回世界陸上競技選手権大会」(東京2025世界陸上競技選手権大会/「東京2025世界陸上」)の大会運営組織として、2023年7月4日に設立された。

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