書評 本、気になって(第8回)『我が青春のラジオデイズ』

石井 彰
書評 本、気になって(第8回)『我が青春のラジオデイズ』

気になる本=我が青春のラジオデイズ 共に時代を創った「ON AIR」仲間達
田中秋夫著 文芸社

昨年の2025年は、日本でラジオ放送が始まってから100年の記念すべき年でした。その年を寿ぐように出版されたのが本書です。そこにはラジオへのおしみのない愛にあふれています。

著者の田中秋夫さんは1940年生まれ。東京学芸大学を卒業後、1964年にアナウンサーとして文化放送に入社。その後制作部・編成部に異動して『セイ!ヤング』『ミスDJリクエストパレード』など深夜放送の人気番組を数多く手がけてきました。1990年にFM NACK5へ制作責任者として転籍、J-POPブームとNACK5の躍進を生み出した人です。

田中さんはアナウンサー出身にもかかわらず言葉は少なく、しかも理知的な説得力に満ちた、希有な人です。またその底流には世情に安易に迎合しない、静かな気骨があります。

本書に登場する土居まさる、谷村新司、さだまさし、落合恵子、坂崎幸之助、松山千春ら、30人以上もの個性あるDJやミュージシャンらから信頼され、数多くの人気番組を作り続けてこられたのでしょう。

本書にはラジオを通して出会った人物交遊録と、中津川フォークジャンボリー、一連のオウム真理教事件など、47年間のラジオマン人生の印象的な出来事が綴られています。

90年代、AMとFMには編成上に大きな違いがありました。AMはおしゃべり中心でかかる曲は歌謡曲が多く、FMは音楽中心でかかる曲は洋楽ばかりでした。

その当時を著者はこう振り返っています。「一九八八年十月に開局したNACK5はFMブームの波に乗り切れず、営業の売り上げは低迷し、苦しい経営を強いられていた」。ジャパニーズロック専門局を打ち出していたNACK5は、リスナーの支持を集められていなかったのです。

50代での思いがけない転籍打診を、著者は快諾します。「制作部時代に音楽番組を担当し、フォークやニューミュージックの黎明期に立ち会った経験から、FMの音楽番組にチャレンジしたいと思っていた」からでした。

新天地にたったひとりで乗り込んだ著者は、バイリンガルDJを起用して洋楽をかける「アメリカンスタイル」主流の首都圏のFM局とは一線を画しながら、独自の編成を試みていきます。

まずパーソナリティーにラジオDJ小林克也、元文化放送のスポーツアナウンサー大野勢太郞、THE ALFEEの坂崎幸之助らを起用します。

と同時に「AMラジオとの差別化を図るために、トークと音楽の適度のバランスをとるようにし、音楽もフルコーラスを原則とした。選曲の音楽ジャンルはJ-POPと洋楽の比率を六対四の割合で選曲し、洋楽偏重の他局との差別化を図った」のです。

その結果、NACK5は聴取率をぐんぐん伸ばして、著者が提唱した「オンリーワンよりもナンバーワン」を実現したのは、歴史が証明しています。

2028年には、AM波の多くがFM波に転換します。

もはや波の特性ではなく、局のオリジナリティーこそが試される時代が到来します。そのとき、どんなラジオ番組が求められ、どうやって生き延びていけるのか?

いまこそラジオの新しい編成方針が求められています。そのヒントが本書にはたくさん載っています。

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我が青春のラジオデイズ
共に時代を創った「ON AIR」仲間達
田中秋夫 著 文芸社 2025年9月15日発刊
四六並/188ページ 定価:1,430円 (税込) 
ISBN:978-4-286-26866-8

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