CES 2025で考える~クルマ、AI、"トランプ時代"etc 放送は?~

長井 展光
CES 2025で考える~クルマ、AI、"トランプ時代"etc 放送は?~

かつて「世界最大の家電見本市」と呼ばれたCES。正式名称も2018年に「コンシューマーエレクトロニクスショー」から「CES」に変わり、AI、ロボット、クルマ、ヘルスケアなど"百花繚乱"。「あんなこと、こんなことできます!」とスタートアップがプレゼンし投資主を見つける場にも変化しました。今年もアメリカのラスベガスで1月7日から10日まで開催され、出展企業・団体は4,500以上、入場者は14万1,000人と発表されました。コロナ前の2020年が17万人でしたから"順調に回復"ですが、ファーウェイが出展できないなど政治的要素もあり中国勢は"いまだ"です。 

"トランプで変わる"か......アメリカ次世代地デジ

"地味"ですが、ATSC3.0のアメリカ次世代地上デジタルテレビ放送(地デジ)は毎年の出展。特長はIP方式で、高画質(4K)・高音質、データ放送、モバイル受信、緊急警報放送。アメリカ国内のエリアカバー率は人口の75%超で、普及台数は非公表。動画配信、スマートフォン全盛の中で「はて?」ですが、担当者は意外と意気軒高。ひとつは共和党政権下での「移行」への期待、もうひとつはブラジルでの採用です。

次世代地デジブース.JPG

<次世代地デジ(ATSC3.0)のブース>

「トランプ政権で国内経済活性化という観点から次世代地デジが推進されることに期待している」「アナログからの切り替え時のような法的なものではないだろうが、放送局がATSC3.0だけの方が経営には合理的、メーカーもテレビを売りたい、という事情による『民間的切り替え』はあるかも。廉価版セットトップボックスも出ているので低所得層対策はできる。個人の意見としては『2030年を挟んだ5年位の間のどこか』で移行するのでは」と業界団体担当者は語りました。既存のテレビに付ける1万円程度のATSC3.0受信機器が並んでいました。また、データ放送を使ってデジタルサイネージにニュースや天気予報などを表示する様子もデモされました。

トランプ政権となり、放送通信行政を司るFCC(連邦通信委員会)の委員長には共和党系のブレンダン・カー氏が指名されました。巨大IT企業に対する規制強化を主張してきた人が放送にはどのような政策判断を行うのか注目です。

データ放送でサイネージの情報更新も.JPG

<データ放送でデジタルサイネージの情報更新も

廉価版セットトップボックスJPG.JPG

<廉価版セットトップボックス データ放送やネットと結んで双方向も可能

「ブラジルがATSC3.0採用」も紹介されました。韓国、ジャマイカでは導入済みですが、地デジで日本方式を導入したブラジルが次世代でアメリカ方式を採用したことは大きなインパクトです。他にトリニダード・トバゴ、インド、メキシコ、カナダで試験電波が出されています。欧州ではネットとの親和性が高い次世代放送(DVB方式)が展開されており、「さて、日本は?」です。 

世界に伸びる アメリカ次世代地デジをアピール.JPG

<「世界にのびる」アメリカ次世代地デジをアピール

クルマから見る(と見えない放送)

「今年、日本企業で注目されたもの」はソニーとホンダの車「アフィーラ」、トヨタの未来都市「ウーヴン・シティ」(Toyota Woven City)でしょう。

アフィーラ.JPG

<ソニー・ホンダモビリティのEV「アフィーラ」

ソニーはCESでの展示を繰り返し、途中でホンダと合弁会社を作り、今年はアメリカでの年内発売まで来ました。イーロン・マスク氏の影響で「自動運転が進む?」という観測から、「自動運転でクルマの中は家、オフィスに次ぐ第3のエンタメ・ビジネス空間になる」かが注目されます。「アフィーラ」は1,500万円程、5GWi-Fiでつながる空間です。ダッシュボード、後部席にはモニターが配され、オーディオも車内全体がノイズキャンセリングに。AIが女性の声で音楽を選んでくれたり、店を教えてくれたりとSF的世界です。「車内で動画を楽しむ」はバッテリーの充電待ち中や子どもを迎えに行って待つ間に家で見ているものの続きを車内で見る、といった需要があるそうです。
デジタルのHDラジオを手掛け、各メーカー車に搭載されているXperiのシステムでも大きなディスプレーが実装され、無料配信のFASTFree Ad-supported Streaming Television)も見られます。

HDラジオのブース.JPG

<HDラジオブース:車内で動画配信も視聴可能

トヨタの「ウーヴン・シティ」は5年前のCESで発表された未来の街で、静岡県裾野市の東富士工場跡地で建設が進められてきました。今回、豊田章男会長自らが完成を発表しました。どんな情報インフラが構築されるのか、パートナー企業に放送局はあがっていません。 

ソニーは"コンテンツ制作"

「アフィーラ」はすぐ隣のブースに独立し、ソニー本体はゲーム系やコンテンツ制作に特化しました。今回「XYN(ジン)」という新たなブランドを発表しました。「空間エンターテインメントコンテンツ制作支援で、3D CGやいわゆるXR環境で利用されるコンテンツの制作に必要なツール群と、そこで必要となるハードウエアを組み合わせたソリューションビジネスだ」と言います。360度から「リアル」撮影可能な「PXO AKIRA(ピクソ アキラ)」。回転したり上下に動いたりする物理的なプラットフォームの上に、車や飛行機などを乗せ、背景の映像と合成して実際の現場で撮影しているようなリアルなコンテンツをスタジオで制作できます。モーションキャプチャなどもデモされ、「映像」へのこだわり満点です。 

ソニーブース.JPG

<ソニーブース:カーアクション撮影が簡単に

大きく、賢くなるテレビ

中国勢ハイセンスは136インチ、TCL163インチのマイクロLEDテレビを展示しました。韓国のLGは透明OLED(有機エレクトロルミネッセンス)のディスプレーを派手に見せました。

LGの透明OLEDディスプレイ.JPG

<LGの透明OLEDディスプレイ

お留守番をしているペットのわんちゃんが「ご主人さまが出かけちゃったよ。いつもこの時間にテレビを一緒に見ているのに」とつぶやいたら、テレビがついて番組を見せてくれる。韓国サムスンのプレゼン映像です。ここ数年「AIを活用してヒトの動きを検知する、他の家電と連携する」がトレンド。テレビでストレッチ動画を見ながらストレッチをしていたら、AIがエアコンを操作して部屋の温度を最適にする、リビングでくつろぐ人を検知すると「音楽をかけますか」とテレビが話しかけ、声で応えると音楽を流してくれる。「推し」の番組を検知し録画しておいてくれる、といった感じです。AI技術で画質、音質がアップするのももちろんです。 

ガンバレ、日本の放送局

スタートアップの小さなブースが並ぶ「ユーレカパーク」にはアイデア、可能性が詰まっています。ここの日本パビリオン内でTBSテレビとWOWOWが共同開発したリモートプロダクション用「ライブ・マルチ・スタジオ」(関連記事はこちら)が展示されました。ネット回線で放送局クオリティの映像伝送を行うもので会場から赤坂の情報カメラを操作できました。コンテンツ制作者などにアピールするのが狙いです。 

ライブマルチスタジオ.JPG<TBSテレビ・WOWOW「ライブ・マルチ・スタジオ」 赤坂の映像が低遅延で届く

AI、自動運転の進化という中で、放送はコンテンツの制作元、供給源として、クオリティの高い番組、信頼される情報をさまざまなウィンドウの中で、新技術を活用し、プロの技、人材を活かして作り続け、伸びていくべし」、会場を歩いてそんなことを感じました。「番組」を待っているのは"わんちゃん"だけではないでしょう。

※写真はすべて筆者撮影

最新記事