ルパート・マードック氏(92歳)が9月21日、社員に宛てた書簡で米FOXコーポレーションとニューズ・コーポレーションの両会長職を11月の年次総会を機に退任すると明らかにした。その後は両社の名誉会長に退く。ニューズ・コーポレーションの共同会長でFOXコーポレーションのCEOも務める長男のラクラン・マードック氏(52歳)が両社の単独会長を引き継ぐ。
豪州出身のルパート・マードック氏は父親から引き継いだ同国の新聞事業を基盤に、世界的規模でメディアの買収を進めてきた。テレビ・ケーブル(米Foxネットワーク、Foxニュースなど)、新聞・雑誌(英タイムズ紙、米ダウ・ジョーンズなど)、映画(21世紀Fox=2019年ディズニーに売却)を傘下に置き、一代で"帝国"を築いた「メディア王」と言われる。
1990年代前半にはアジア全域を対象とした衛星放送「スターTV」に経営参画。96年には孫正義氏率いるソフトバンクと合弁でCS放送の「JスカイB」(スカパー!の前身)に進出するとともに、同じくソフトバンクと組み、間接会社を通じてテレビ朝日の株式を取得する(翌97年に朝日新聞社が買い戻す)など、日本での事業展開にも意欲を示した。近年は高齢のため経営手腕が疑問視されており、長男ラクラン・マードック氏への引き継ぎが長年ささやかれていた。
一方、「これで本当に退くのか?」という声も少なくない。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は9月22日のオンラインコラム「DealBook」で、「引退後も名誉会長に居座ることからも、経営の第一線から本当に退くのかは甚だ疑問」と論じている。これまでも家族内で後継者問題のドラマを繰り広げており、この引退ではまだ終わらないというのが米各メディアの大方の見方だ。
事実、ルパート・マードック氏は引退表明した書簡のなかで「名誉会長として、FOXとニューズの報道内容には目を光らせている。意見も出すし、アドバイスもする」と明言している。しかもNYTによると同氏はマードック家の家族信託の大株主であり、ニューズ・コーポレーションの40%、FOXの43%の議決権株式を有している。つまり、「引退後も決定権を持っている」というわけだ。
ルパート・マードック氏は今年、FOXコーポレーションとニューズ・コーポレーションの合併を試みたが、投資家の反対で断念 している。メディア環境が急激に変化するなか、2社ともに近年は苦戦を強いられているのが現実だ。ドナルド・トランプ前米大統領に近いことも知られるところで、2020年の大統領選をめぐる虚偽報道で名誉棄損訴訟を抱え、巨額の賠償金を支払うことで和解している 。11月からの新体制で2つの巨大メディア企業がどう変わっていくのか、ルパート・マードック氏の動きも含め、世界が注目している。