FCC、「お化けアナログFM局」の存続を正式認可

鍛治 利也
FCC、「お化けアナログFM局」の存続を正式認可

FCC(米連邦通信委員会)は、7月20日に開催した定例コミショナー会議において、長年その運営形態に疑問の声が挙がっていた"お化けFM局"の存続を全会一致で正式に認めた。お化けFM局とは簡潔に説明すると、「アナログFMラジオ放送を行うテレビ局」のこと。日本のラジオ・テレビ兼営局とはかなりイメージが異なるが、"アメリカ版ラジオ・テレビ兼営局"と言っても間違いではない存在となっている。

この"お化けFM局"は、フランケンシュタインを短くした"フランケン"とFMをあわせて通称"フランケンFM局"とも呼ばれている。正確に言えば、「テレビ局としての免許を受けた放送局が経営する、ラジオリスナー向けのテレビ放送用周波数を使ったFMラジオ放送」というもの。まるで"お化け=フランケン"のように正体がはっきりしないラジオ局なので、そう呼ばれている。あくまでも免許上はテレビ局であり、いずれも第6チャンネルで放送を行っていることから、FCCは"FM6テレビ局"と呼んでいる。フランケンFM局を運営してきたテレビ局は全部で14局あり、今回FCCが今後もこれらの放送局がアナログFM放送を行うことにお墨付きを与えた、ということだ。

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第6チャンネルの音声は、FM放送用周波数帯の最も低い87.9Mhzのすぐ下の87.75Mhzを割り当てられているため、ラジオ受信機でその音声を受信することができる。外国製、特に日本製やロシア製のラジオ受信機や、カーラジオで聴くことができるそうだ。通勤中や仕事中にテレビ放送の音声を聴きたいというニーズがあったため、これをターゲットにして、テレビ番組の音声等のラジオ風番組を売りにしたビジネスに転換した方が儲かると考えたのが"フランケンFM局"というわけだ。1980年代には30局程度あり、次第に通常のラジオ番組スタイルに移行していった模様。現在では、ほとんどのリスナーは通常のFMラジオを聴いているという認識しかなく、フランケンFM局側もラジオ局として自身の存在をアピールしている。

アメリカのテレビ局は、フルパワー局、ローパワー局に大別される。フルパワー局は日本のテレビ局、ローパワー局はカバーエリアの狭い低出力局、つまりテレビ版コミュニティー放送とイメージしていただくとよい。ローパワー局はさらに、①トランスレーター局(中継局)、②クラスA局、③それら以外の局(以下、LPTVと表記)の3つに分類され、"フランケンFM"はすべてLPTVに該当する。LPTVは、近隣のフルパワー局から混信を受けてもそれを甘受する義務がある一方で、フルパワー局に混信を与えた場合、技術的な対策で解消できなければ周波数を明け渡し、他の周波数に移る義務があるが、その代わり番組に関する規制はフルパワー局に比べると緩やかになっている。

"フランケンFM局"はテレビ局として認可されているので、音声番組だけを放送することはできない。そこで、テストパターン、天気図やニュース等の静止画、サイレント映画をテレビ番組として放送していた。つまり、第6チャンネルの周波数帯の中でこのような映像を流しつつ、ラジオ番組としての放送を行っていた――言い換えると、テレビ局としての体裁を保ちながら、実質的にはFM局として運営していたということ。このような潜脱的な行為は認められないとする声も挙がってはいたが、FCC規則では、音声と映像がそれぞれ独立して伝送することや、音声と映像が同時伝送された場合は、それぞれ異なる番組素材や相互に無関係な番組素材に使われることを認めていた。

この規則は、"フランケンFM局"のような経営形態を認めることを企図したものではなく、このケースは想定外の使われ方をしたものだが、法的違反として問えるものではなかったようだ。LPTVのアナログ放送の完全停波が2021年7月と定められたことにより、"フランケンFM局"によるアナログFMラジオ放送はこの時点で消滅し、"フランケンFM局"をめぐる論争も同時に終結してしまうはずだった......が、そうはならなかった。

FCCは2021年3月、カリフォルニア州サンノゼを放送エリアとするフランケンFM局のKBKF-LDに対して、6カ月間のデジタルテレビ放送とFMアナログ放送の同時送信実験を許可したからだ。そのおよそ1年前からSystem Engineering Solutions社とCom-Tech社は技術開発を進めており、それにVenture Technologiesの技術チームと、アンテナ共用器製造の老舗メーカーのJampro Antennas社が加わり、試行錯誤の結果、ATSC3.0の地上デジタルテレビ放送とアナログFM放送のハイブリッド放送を実現させたのだ。

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FCCはこの実証実験の審査結果を受けて、混信問題を起こさないこと、FM音声は87.75Mhzで放送すること、映像と音声がシンクロした番組を一つ以上放送することなどをFCC規則の中で新たに定めることによって、FM6テレビ局の存続を正式に認めた。そもそもLPTVは、FCC1982年に遠隔地や大都市圏内の小規模コミュニティーをターゲットとした、いわゆるマイノリティー向けのテレビ放送サービスを行うことを目的に整備したもの。法的に問題がなかったわけではないが、FCCはこれまでの実績を評価し、その存続を認めた方が公共の利益に合致すると判断したようだ。

注目すべきは、地上デジタルテレビ放送の周波数帯の中でアナログFM放送波を送り出せるという非常にユニークな技術を開発した点だ。アメリカとは放送方式や制度が異なるので同じようなことが可能なのかどうかわからないが、例えばワンセグを使ってFM局の番組を放送することは可能か、あるいはテレビ番組とは異なる音声番組(情報)を放送することは可能かなど、大規模災害時の情報提供に役立てるための方策のひとつとしての観点からも、フランケンFM局について調査してみる価値はあるのではないだろうか。

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