テレビCMの信頼のサイクルをよりスムーズに テレビCM考査センター・須永センター長に聞く

編集広報部
テレビCMの信頼のサイクルをよりスムーズに テレビCM考査センター・須永センター長に聞く

2024年9月に一般社団法人テレビCM考査センターが設立されました。同センターは、在京テレビ5社(日本テレビ放送網、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)で放送されるすべてのCMの考査依頼窓口となることを目指して設立され、2025年4月からプレ運用が始まりました。同センターによって、テレビCMの考査はどう変わるのか、そもそも考査とは何かを、同センター長を務める須永太郎氏(=冒頭写真)にお聞きしました。


――センター設立おめでとうございます
ありがとうございます。

――須永さんご自身はどのようにCM考査に関わられてきたのでしょうか
TBSに入社し、最初に配属されたのが、考査を担当するCM部でした。2010年に再びCM部に配属され、本格的に考査実務に関わるようになりました。3回目は2019年にCM部長として戻ってきました。そして、2024年に(一社)テレビCM考査センター(以下、センター)の立ち上げとともに、センター長に就任しました。

――どうしてセンターを立ち上げたのでしょうか
従来、考査作業というものは、1つのCMに対して広告会社は、放送局ごとに考査を依頼していました。ですから、それぞれの放送局からの回答を広告会社が集約する作業が発生していました。また放送局によって判断が分かれた結果、広告主にとって1つのCMを複数のバージョンを制作せざるを得ない状況も生じていました。

広告会社からは「考査申請や回答の集約の手間が多い」「放送局ごとの対応が異なり分かりづらい」というご意見をもらっていました。これらの解消を目的に在京テレビ5社が連携して、考査の業務を統一した窓口で行う仕組みとして、センターを設立しました。このセンターによって、効率的かつ分かりやすい考査の流れを提供していきたいと考えています。

――会社の垣根を越えてのセンター設立とのことで、準備は大変だったのではないでしょうか
CM部長に就任した際、前任者からの引継ぎのひとつに、在京テレビ5社間で「5局が連携して考査を実施できないか」という課題がありました。その検討を引き継ぎ、具体化に向けた取り組みを進めてきました。その際、CM考査における「競争領域」と「協調領域」の線引きについて、多くの議論が交わされました。しかし、当時は実現には至らず立ち消えとなりました。

2023年に日本アドバタイザーズ協会から「CM素材考査の共同実施」に関するご要望をいただき、すぐに具体的な検討を進める会合を立ち上げました。こうして5年以上の検討を経て、考査センターが動きだしたことは感慨深いものがあります。

――センターが担当されるCM考査とは具体的に何をするのでしょうか
全国の放送局が実施しているCM考査と同様に、CMを事前に確認し、放送基準に合致しているか、景品表示法や薬機法など各種法令に違反していないか、放送して問題がないかなどを判断しています。分かりやすい表現をすれば、CMに「嘘・偽りがないか」を注視しています。

このような考えに沿って、CM素材の「一次考査」をセンターが担っていきます。対象は、在京テレビ社で放送予定があるCMで、配信のCM素材などは除きます。広告会社の担当者の皆さんには、在京テレビ社ではなくセンターの「ICCOU」という新システムを通じて考査依頼をしてもらいます。センターでは、中立公正の立場から依頼されたCMに対して、「A」「A-」「B」「C」の判定をつけ、依頼者と放送予定の放送局に判定を共有します。一次考査として特に指摘のない「A」判定、センターとして若干の懸念点がある「A-」判定は、ICCOUを通じ放送局にこの判定がシェアされ、放送局はこの判定を踏まえ最終判断をします。また、放送局でより詳細な考査判断が必要となる「B」「C」判定が出た素材は、判定結果を元に広告会社から放送局に対し改めて、個別に考査を依頼してもらうことになります。

考査センターでは、一次考査の判定結果とその理由を、放送局と広告会社に共有するまでがセンターの役目であり、最終判断は放送局に委ねることになります。

――センターが間に入るメリットはなんでしょうか
在京テレビ社ですと、毎月千件以上のCM考査の依頼があり、考査を行っています。そのうち6~7割は、センターでいう「A」「A-」判定素材であり、一次考査として特に大きな問題のないCM素材です。この部分を放送局で個別に考査する必要がなくなるので、放送局では、考査作業の効率化が図れると考えます。広告会社にとっても、考査依頼とその回答が1つになるメリットがあります。従来は、在京テレビ5社で放送しようとすれば、5社に考査を依頼し、それぞれから考査回答をもらう必要がありました。ここは大きな効率化になるのではないかと感じています。実際に広告会社を訪れ、「考査回答が1つになります。考査回答をマージする作業がなくなります。」と説明すると、担当の皆さんから喜びのリアクションがありました。

――感じている課題はありますか
利用者である広告会社からは概ね好評をいただいています。プレ運用として、運用が始まったばかりですので、これからより良くするための改修作業を引き続き行っていきます。広告会社の皆さまには、新しいシステムのICCOUをワークフローの中にどう落とし込むかを検討してもらいたいです。今までは、広告会社に放送局ごとの担当(局担)がいて、その局担が考査依頼を行っていました。今度は考査の窓口が1つになったので、広告会社内で誰が考査を依頼するのかなどを整理する必要があると思います。

また、放送局側も判定結果を受け取るだけになり、この考査の過程をどう共有していくのかも課題です。ICCOUというシステムの登場でスムーズになるということは、CM考査に直接関わる人が減るという意味でもあります。考査の知見をどう引き継いでいくかも大きいテーマの1つです。

――CM考査ができる人を育てるのは難しいのでしょうか
テレビCMの前提として、見ている人に不利益をもたらすものであってはいけないという、番組と同様のレベルを意識する必要があります。また、広告に関する法令も勉強していかなければなりません。法律は社会情勢に応じて改正されるので、常にアップデートが必要です。差別、家庭のあり方、人種など現在の価値観についても敏感に理解しておく必要があると思います。

――センターのウェブサイトを拝見すると「スムーズに」というキーワードがあると思いますが、ここに込めた思いはありますか
「考査=面倒くさい」というイメージを払拭したいという思いがあります。特に、広告会社の皆さんがよりスムーズに、ストレスなく考査を依頼できる環境を整えることを意識しています。そこで導入したのが、新しいシステム「ICCOU」。この名称には、「一次考査」「一考する」「一功」という意味を込めています。さらに、親しみやすさと利便性を高めるために「ICCOU」というキャラクター(=画像㊦)も制作しました。考査依頼をすれば、すぐに判定が得られ、迷わず・待たずに進められる、そんな"スムーズなプロセス"を提供したいという思いを込めています。

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――今後のスケジュールについて教えてください
2025年4月からプレ運用が始まり、1年後の2026年の4月からは本運用になります。広告会社にはぜひICCOUへの登録を2025年中にお願いします。20264月以降は、在京テレビで放送されるすべてのCMを対象とし、センターの運営のためシステム利用料が発生する見込みです。 

――今は東京だけですが、将来的に広がっていくのでしょうか
まずは東京エリアからと考えています。また全国すべてのCMをセンターに通すことが、かえって効率的でなくなる面があるかもしれないとも思っています。将来については、関係する広告主、広告会社、テレビ局にとって、センターが良い形で関わることができたらと考えています。 

――最後に、センターがテレビCMに果たす役割はなんでしょうか
地上波テレビのプレゼンスを高めることも視野に入れ、在京テレビ局で費用等を負担し、センターを立ち上げました。テレビは、視聴者、広告主、放送局の三者で築く「信頼のサイクル」によって成り立っていると考えます。放送局は、長きにわたってニュースや娯楽番組に信頼をのせて視聴者に届けてきました。広告主は、その信頼を活用してマーケティングを展開していただいています。その信頼を維持していくという責任は、昔以上にその責務が増えていると実感するところです。

CMが信頼に足るものかを意識して、今まで在京テレビ局が続けてきた考査をきちんと続け、公共の電波を扱うことを軽んじることなくテレビCMの信頼性を守っていくことがセンターの役割です。センターができたことで考査が変わるのかと問われれば、やり取りは変わりますが考査自体は変わることがないと思います。センターとしては、CMに関わる課題解決をお手伝いし、テレビ広告に関わる人がWIN‐WINになれる関係を構築していきたいと考えています。

一般社団法人テレビCM考査センター(外部サイトに遷移します)

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