米LAの山火事でローカル局が貢献 ラジオが住民の命綱に

編集広報部
米LAの山火事でローカル局が貢献 ラジオが住民の命綱に

2025年が明けて間もなく、米カリフォルニア州南部を州史上最大規模の山火事が襲った。何週間にもわたって住宅地を含む広範囲を焼き尽くし、多くの住民が家を失うなど大きな被害をもたらした。こんなときに住民が真っ先に頼るのがローカルのテレビとラジオだ。今回の山火事では避難命令や自宅待機命令などエリアによって違いはあるものの、地元に立脚するテレビ局とラジオ局はそれぞれのエリアの住民に正確な最新情報を流し続けた。米各メディアは「今回の山火事でローカルニュースの必要性があらためて証明された」と、その貢献度の高さを評価している(冒頭画像)。

山火事が最初に猛威を振るったのは1月7日、パシフィック・パリセーズ周辺だった。この日、被災地でのローカルテレビ視聴者数は通常の2~3倍を記録したとオンラインメディアのVarietyが伝えている。ニールセンによると、パリセーズ地区最大のローカルテレビ局KABC(Channel 7)の夕方6時のニュース視聴者数は通常で平均17万人だが、この日は32万人を記録。CWネットワーク傘下のKTLA(Channel 5)も同日夕方5時、通常平均の3倍にあたる21万人以上の視聴者数を記録している。

山火事発生直後、どのメディアよりも早く真っ先に報道を始めたのが、多くのラジオ局を所有するAudacy社のKNX-AMや、同じくiHeartMediaのKFI-AMなどLAのニュース専門ラジオ局だった。停電し、モバイル通信も不安定な状況で、住民が頼るのはカーラジオからの情報だ。特に、道路状況に関するAMラジオの速報が車で避難する人々の命綱だったという。ハリケーン並みの暴風に煽られ、火の回りが異常に速かった今回は、刻一刻と閉鎖される道路が増えていったからだ。テレビ局と臨時の連携態勢を敷いたラジオ局もあった。LAist(KPCC)はCBSのローカルテレビ2局と提携し、お互いの報道内容を共有することで、より多くの情報を住民に伝えようとした。

また、ラジオ報道の重要な側面が気象情報。風向や風速によって次の被害がどこに及ぶか決まるのが山火事の特性だけに、気象や災害の専門家による定点観測的な気象情報が欠かせないからだ。

ラジオ業界のオンラインメディアInside Radioによると、ラジオ各局は報道を続ける一方で、いち早く被災地支援の司令塔として動き出しているという。iHeartMediaのLAラジオ局はウェブサイトで寄付を呼びかけるとともに、慈善団体と提携し、衣類や毛布などの支援物資を同団体の各地拠点まで持参するよう呼びかけた。Audacyも被災地支援のための活動を開始し、独自に寄付・物資を募ると同時に、同様の支援活動を行う地元の各団体についての情報も流した。

オンラインニュースAxiosによると、大手映像メディアはそれぞれが多額の寄付を発表している。ディズニーとワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)がそれぞれ1,500万㌦、Amazonとコムキャスト、Netflixはそれぞれ1,000万㌦、ソニーは500万㌦を寄付すると発表。加えてAmazonはPrime Videoで復興支援関連の無料広告を配信、コムキャストも地元復興支援団体に別途250万㌦を寄付する。WBDは被害に遭った社員1,000人以上に仮住宅やその他のニーズを提供すると発表している。

ソーシャルメディア全盛のこの時代。今回の山火事でも初期の被害状況の把握などではソーシャルメディア情報がそれなりに貢献したとの声がある。一方、"燃えるハリウッドサイン"のように明らかなフェイク映像が拡散されるなど、その弊害も引き続き指摘された。折からの大手SNSにおけるファクトチェックの廃止などが進むなか、長期にわたって続く今回のような自然災害の報道においては、人命の尊重を第一に地元に立脚した地道な取材とファクトチェックを経て速報するテレビとラジオという従来型メディアの真価をあらためて印象づけることとなった。

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