【MIPCOM2025リポート】②日本のコンテンツが海外でさらに飛躍するために

稲木せつ子(クレジットのない写真撮影も)
【MIPCOM2025リポート】②日本のコンテンツが海外でさらに飛躍するために

MIPCOM 2025の現地リポート第1回では、海外ビジネスの拡大を目指す日本勢への朗報として、国際コンテンツ取引市場で日本や韓国への世界の注目度が上がっている様子を紹介した。そのうえで、フォーマットやアニメの分野で日本勢がオールジャパン体制で海外のバイヤーに積極的なアピールをした様子を報告した。2回目は海外展開を目指す民放の課題を少し掘り下げてみたい(冒頭写真はバイヤーたちでにぎわう会場のブースエリア/© S. d'HALLOY / IMAGE&CO)。

10年以上前から感じていたのは、欧米ではメディアのビジネス環境が激しく変化し、日本のそれとの違いが年々際立ってきているということだ。この差を乗り越えてビジネスするのは容易なことではない。そんななか、人脈を活かして成果を上げた民放2局をケーススタディとして紹介したい。

その前に、MIPCOM2025で報告された最新のビジネストレンドを手短にまとめる。欧米放送局の新たな戦略には、時流に波乗りしながら構築しているようなスピード感と勢いがある。

「ハイパー流通」戦略の時代に

イベント初日に毎回、グローバルトレンドを紹介しているフランスのメディア調査会社Glance¹ のフレデリック・ヴォルプレ代表は、2025年を欧米の放送局と米デジタル大手との画期的な提携が相次いだと振り返った。これらの提携の特徴は、これまでのような番組単位の「マルチウィンドウ戦略」ではなく、放送番組の大部分または放送そのものを一気にNetflixなどのSVODで同時配信² するという形で展開される。同氏は「今われわれはコンテンツ(IP)のハイパー流通の真っただ中にいる」と語った。

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<「ハイパー流通の時代」と力説するヴォルプレ氏>

「ハイパー流通」とは、コンテンツを抱え込まずに細分化された動画市場に解放(複数のプラットフォームに一気に提供)する戦略だ。強いコンテンツ(IP)を抱えるライブスポーツですでに浸透しており、米国ではアメフト(NFL)、野球(MLB)などの競技団体が複数の放送局や配信プラットフォームと放送/配信契約を結び、試合の露出度を最大限に増やしている。リーチを最大化することで競技の人気が高まり、ファン(視聴者)が増えることのメリットを関係者が共有し、ビジネス全体を潤すというアプローチだ。ヴォルプレ氏は、他のジャンルでもリーチの最大化がコア戦略となりつつあり、25年の提携ラッシュは業界が「ハイパー流通時代」に突入した現れとしている。

数年前には考えられなかったこうした局の方針転換の背景には、世界的な視聴トレンドの変化がある。同氏によると、配信サービスの利用は放送での視聴を追い抜く勢いで伸びており、米国では25年5月に逆転している。また、25年の業界の勝者はNetflixとYouTubeとのことだ。欧州の大手放送局が敢行した「デジタルファースト戦略」は日本からみると大改革だが、ヴォルプレ氏は「公共・民間を問わず放送局は自社プラットフォームの拡充を加速しなかった」と厳しく採点する。

放送局にとっての朗報は、英BBCのiPlayerや民放ITVの配信プラットフォーム「ITVX」の視聴シェアが前年比でそれぞれ3㌽ ³、2㌽と微増したことや、大手民放(仏2大民放のTF1とM6)のデジタル広告の収入が、全広告収入の12%にまで増えたという、控えめなものだった。同氏は、放送局が自社コンテンツをハイパー流通させる戦略に切り替えたことで、「放送局に新たな視聴者層、特に若年層を獲得する道筋が見えてきた」と分析している⁴ 。欧米の放送局は他力(大手配信プラットフォーム)でリーチを最大化し、デジタル広告収入の利益分配を確保する道筋を作っている⁵ のかもしれない。

こうしたハイパー流通が進む欧米市場への進出はこれまで以上に狭き門となる。各国の大手放送局が進んでSVOD上で同時配信するようになれば、コンテンツの調達にも影響が出そうだ。「日本アニメ」のように国単位でブランド力を高めることも大切だが、この集団から抜け出すには、会社や個人レベルでの人脈が鍵となる。

日韓共同でアジア初の売り込みにチャレンジ

日本の放送局がこぞって番組フォーマットを紹介した「Treasure Box Japan(TBJ)」(放送コンテンツ海外促進機構〔BEAJ〕主催)で、韓国の共同開発パートナー(CJ ENM、以下、CJ)⁶ と登壇したのはTBSグループ(以下、TBS)だった。発表された新作『MUGEN LOOP』は、2021年に締結した制作協力提携に基づいて共同開発された。無限に続く六角形の密閉空間に閉じ込められた6人の挑戦者がさまざまなミッションと心理戦に挑みながら互いを出し抜いて無制限の賞金を勝ち取ることを目指すゲームショーだ。当初、両者はドラマの共同制作に着手したが、完成までに時間がかかることから、TBS側が24年のMIPCOMでフォーマットでの共同開発を持ちかけ、企画書から半年かけて日韓での放送⁷ につなげたそうだ。

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<Treasure Box JapanでTBSの高木春香氏(左から2番目)
とCJのダイアン・ミン氏(左端)>

番組のコアコンセプトは韓国発で、ビジュアル設計(色、形、六角形の意味づけなど)やセットデザインは日本という役割分担があったようで、開発に関わったTBSホールディングス・グローバル営業開発部の高木春香氏は、日本向け制作には国内で受け入れられる演出を求めたという。同氏はTBSホールディングスに移籍する前に、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンやAmazon JapanのPrime Video部門で番組の買い付けや海外フォーマットの日本版の制作に関わった。そうした経験を活かして、『MUGEN LOOP』の日本版では、番組を盛り上げる演出として欧米では一般的な「客入れ」を行わず⁸ 、一方で、サバイバルゲームの緊張感を出すために番組進行は「謎の声」が行うというミステリアスな演出にしたという⁹ 。

実は、高木氏とCJは同氏がTBSに移籍する前から取引経験があり、今回の開発ではかつての人脈が役立ったという。長年付き合いのあったCJの幹部が自らアイデアを出し、開発の過程でも深くサポートしてくれたそうだ。こうしたことから、CJ側の開発責任者には韓国でヒットしたサバイバル番組『大脱走』¹⁰ のプロデューサーがついた。番組の組み立ての作り込みで、細かいアイデアが次々と出るなど欧米向け企画のノウハウが豊富で、高木氏は「学びが多かった」としている。

TBSがもう一つ狙ったのは、海外セールスで勢いがある¹¹ CJの海外展開を共同開発者として経験することだ。今回は、欧米の制作会社や配給会社を介さずに、グローバルセールスをCJに任せることにした。CJ側も日韓で開発、制作から販売までをアジア発で完結させる取引を実現することに意気投合したという。すでにオプション契約のオファーが寄せられているとのことで、手応えが得られているようだった。

海外展開に求められる人材の確保と育成

『MUGEN LOOP』の事例は、会社と個人の人脈が最大限に活かされた好例だ。韓国の大手制作会社に接近し、国際協力の提携を結んだのはTBSだが、提携合意の具現化においてはTBSに中途採用された高木氏が自らの人脈と経験を活かして魅力的なフォーマットの共同開発につなげている。

世界的なコンテンツ取引に関わる人材は、会社を変えてもキャリアチェンジする人は少なく、取引先との関係は何十年もかけて培われる。しかし、日本の放送局は社員の局内異動が定期的に行われるため、欧米のような取引経験やスキルを持つ人材が育ちづらい。また、簡単なようで難しいのは中途採用された人材の活用だ。

TBSの事例をみる限り、局側は高木氏に映画やSVOD業界で培った制作経験と人脈を最大限に活かせる機会を与えているし、高木氏の持つ専門性へのリスペクトが感じられた。海外向けコンテンツの制作は局内の調整も重要な仕事だけに、最終的にはプロジェクトのチームワークが成否に直結する。新しい人材からの企画や提案は部内のいい刺激になり、組織の活性化にもつながりやすい。今後、民放が海外ビジネスをさらに発展させるためには、経験のある人材をどう育てるか、あるいは優秀な人材をどう確保するかが優先課題となっていくだろう。

YouTubeで復活したフランス版『ドラえもん』

フランスで『ドラえもん』を復活させたテレビ朝日の快挙も、取引相手の独立がきっかけでビジネスチャンスが生まれたという好事例だ。

『ドラえもん』がフランスに初デビューしたのは2003年。大手民放M6で19時半にベルト放送(月~金)を華々しく開始している。しかし、番組はスペインやイタリアのように定着せず、早々に打ち切りとなった。ほぼ10年後(2014年)、ワーナー・ブラザース系の子ども向け有料TVチャンネル「Boing TV」でテレビ朝日は『ドラえもん』シリーズの放送を復活させた。ただ、こちらも4年後には放送終了となり、同局は最近までフランス市場から遠ざかっていた。

起死回生のチャンスはコロナ禍で巻き起こった日本アニメブームがもたらした。2021年にデジタルプラットフォーム用に子ども向けアニメのIPを探していたフランスのプロデューサー(シャルル・クーシエ氏)がYouTubeで『ドラえもん』を発見し、テレビ朝日にアプローチをかけた。クーシエ氏が所属する大手アニメ制作会社「Xilam」のYouTubeチャンネルで『ドラえもん』の配信を希望したが、テレビ朝日側は放送媒体での復活を模索しており、物別れに終わっている。一方、日本アニメへの需要の高まりを感じたテレビ朝日は、過去に『ドラえもん』の放送実績があった3市場(トルコ、中東、フランス)での復活を目指すことにした。

23年にクーシエ氏がXilamから独立し、AVODプラットフォーム向けのキッズアニメ配給会社「Soupir Distribution」(以下、Soupir)を設立。移籍前の人脈で、同氏はテレビ朝日に『ドラえもん』をYouTubeに出すことのメリットをあらためてアピールした。今度はテレビ朝日がそれに応じ、フランス語版『ドラえもん』は24年9月にYouTubeの公式チャンネル¹² として復活したのである。

テレビ朝日が方針を変えた背景には、コロナ禍で動画配信利用が急増したという視聴動向の変化や、YouTubeの視聴データを武器にコンテンツの配給先をアニメ配信サービスやAmazon Prime Videoなどに拡大するSoupirのビジネスモデルが、コンテンツ(IP)流通のトレンドに乗ったものだったことがある。稲葉真希子国際ビジネス開発部長は「YouTubeでは収益化よりも、まず足がかりを作りたかった。その先のプラットフォームが本当の勝負で、そこからライセンス料が得られることが、ビジネスとしては正しい方向と考えた」と当時を振り返る。この戦略は見事に実を結び、テレビ朝日はフランス市場に復帰。2025年にはフランスのAmazon Prime VideoやADN(Amimation Digital Network)、Pluto TVとの配信ライセンス契約を結んだのである。

配信会社とのライセンス契約がまとまったことから、テレビ朝日はフランスでアニメ声優として活躍している俳優を起用し、新たなフランス語版シリーズを現地で制作。MIPCOMの直前にYouTubeで配信を開始した。そして、同局のMIPCOM展示ブースで新シリーズの声優をお披露目しながら、『ドラえもん』のフランス市場への復帰を大きく宣伝した。

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<テレビ朝日はMIPCOMの展示ブースで
フランス語版の『ドラえもん』を大々的にPR>

稲葉氏は「今は放送にこだわる必要は全くない。メディア環境も大きく変わった」と述べ、同時期に市場復帰を果たしたトルコ、中東に次ぐセールス拡大を目指す。期待どおりの展開に導いたのは、パートナー会社であるSoupirの手腕とも言えるが、設立まもない同社と組んだテレビ朝日の勇気も評価されるべきだろう。それまでとは違う販売戦略についての社内調整は「とにかく熱意で説得した」とのことで、稲葉氏は「フランス(市場)に戻るならアニメブームがある今だとスピード感をもって動いた」という。

次々と変化する動画ビジネス界で一歩を踏み出すには、パッションとスピード感を持って機運を摑みにいく気概が求められる。その実現を助けてくれるのはやはりパートナー会社や人脈だ。見本市に参加する価値は、そこにあるのではないだろうか。

現地報告の最終回となる次回は、マネタイズ面でも視聴面でも力をつけているYouTubeについての最新分析データや海外大手の活用事例を紹介しながら、注目度を上げているマイクロドラマのビジネス性にも触れてみたい。

(第3回につづく)


¹ Glanceは、フランスの視聴率調査大手メディアメトリ(Médiamétrie)の国際部門

² フランスでは、最大民放のTF1がNetflix、公共放送のFrance TélévisionsはAmazon Prime Videoでそれぞれ全チャンネルを同時配信する提携を結んだ。米国ではFOXが同局の放送同時配信サービスFOX Oneを有料でAmazon Prime Videoに提供。

³ BBC iPlayerは、18〜34歳層の利用割合が前年の22%から48%に増えた。

⁴ 細分化された視聴データの分析から、放送コンテンツを他のプラットフォームに出しても、視聴の奪い合いにならず、むしろ、追加したプラットフォーム経由で失いつつあった若者世代の視聴を取り戻す効果があることが明らかになったことが、大転換につながっている。

⁵ グローバル市場調査会社Omediaも放送局の将来性について厳しい見方を示していた。メディア・エンタメ部門の調査責任者マリア・ルア・アグエテ氏は、2030年までにオンライン動画配信収益の72%が広告収入になり、コネクテッドテレビ(CTV)上での広告収益は30年までに800億㌦に達し、33年にはAmazonGoogleNetflixが収益全体の42%を占め、放送局のシェアは25%未満となると予測。同氏は、放送局が配信に移行しても収益のリカバリーは難しいと語っていた。

⁶ CJのフォーマット販売のトップ、ダイアン・ミン氏がフォーマットの概要を説明した。

⁷ 日本での放送は2025年3月。その後、CJ側は日本版を傘下の放送局tvNで字幕付きで放送した。

⁸ 日本のバラエティで観客の反応ショットはあまり挿入されることがなく、欧米のスタイルをそのまま取り入れても取ってつけたようで番組の盛り上げ要素にならないことが多い。

⁹ 日本の司会者は出演者との会話でお笑い要素を入れて場を和ませるが、サバイバルものでは、緊張の盛り上がりが演出しづらくなる側面があるため、「謎の声」にした。

¹⁰ CJ傘下の放送局tvNで放送された密室脱出バラエティ。フォーマット販売されており、中、露、ベトナム版がある。

¹¹ CJの人気フォーマット『I Can See Your Voice』は、BBCや米FOXなど世界30カ国でローカライズ(放送/配信)されている。

¹² フランス語『ドラえもん』のYouTube公式チャンネルでは、フランスと北アフリカのフランス語圏に地域を限定したジオブロック(地域制限)がかけられ、コンテンツの無断利用などの取り締まりはSoupirが行った。

 

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