【MIPCOM2025リポート】①変革しつつある見本市で、日本勢が健闘

稲木せつ子(クレジットのない写真撮影も)
【MIPCOM2025リポート】①変革しつつある見本市で、日本勢が健闘

長年、「Content is King(コンテンツは王様)」(ビル・ゲイツの発言から)とされてきたメディア業界。2025年のMIPCOM(仏カンヌで2025年10月13〜16日開催)で最もスポットライトを浴びたのはYouTubeという、いわばクイーン(女王)格のプラットフォームだった。主催したRX Franceは「クリエイターエコノミー¹ をイベントの中核に据え、YouTubeを初めて主要出展者として迎え入れた」と述べ、イベントとして「この10年で最大の変化を遂げた」と総括している(冒頭写真=会場となったパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ/© S. d'HALLOY / IMAGE&CO)。

2025年2月に開催地を英国のロンドンに移した春の見本市(MIP LODON/初開催のリポートはこちら)への参加を見送った常連たちがMIPCOMには足を運んでおり、107カ国から1万600人、うちバイヤー3,340人(昨年比100人増)が集う「世界最大級の国際見本市」の面目を保った。トルコは参加者数で上位5位につけ"ドラマ大国"の威信を示し、アジアからも日本を筆頭に、韓国が200人を超える規模で参加するなど強いプレゼンスがあった。今回は日本の放送局が個別に新作を披露する場面はなかったものの、前年を上回る数の民放、アニメ関連会社が「オールジャパン」で2つのセッションを開催し、多くの参加者でにぎわった。

並行して開催されたのが、大手ブランドの出資で作られるコンテンツをテーマにしたサミットで、電通ロンドンなど広告会社が登壇した。NetflixやHulu、Amazon Prime VideoなどのSVOD(定額制動画配信サービス)からのコンテンツ発注が減るなか、新たな金脈としてブランドの資金を取り込もうという狙いだ。責任者のルーシー・スミス氏は、この試みを「好評だったので来年も継続する」と語っており、ここにも見本市の「変化」があらわれていた。

そこで、今回の現地リポート1回目では、MIPCOMのさまざまなセッションで言及されたグローバルコンテンツ市場におけるアジアコンテンツの評価を紹介し、アジアからの最大勢力としてイベントに臨んだ日本勢の動き、特に官民の連携をリポートする。韓国のアプローチの変化にも触れながら、日本との違いも考えてみたい。

アジアのコンテンツに高い評価

MarkHoebich.jpeg

<Luminateのホイビッチ上級副社長>

米国市場におけるアジア製(特に韓国)コンテンツの進出を紹介したのが、米エンターテインメント産業を調査する「Luminate」だ。上級副社長のホイビッチ氏は、2022〜25年に米国内で放送・配信された国外制作番組のうち、隣国のカナダ(21.7%)を除いて、最も幅を利かせたのは韓国製(13.5%)だったとし、米市場で消費されるコンテンツのグローバル化が進んでいると指摘した。同氏は深掘りしなかったが、Luminateのデータを細かく見ると、インド4位² 、日本が6位のシェアを占めており、これらアジア3カ国のコンテンツシェアを足し合わせると、カナダを抜く勢いとなっている。

米国の地上テレビネットワークに日本の番組を売り込むのは難しいが、SVODなどではアジアのコンテンツが予想以上に浸透していることがうかがえる。同氏は、米国の主要SVODでは韓国と日本のコンテンツが大きく伸びていると指摘。24年の国別比較ではトップが韓国コンテンツで2位が日本だった。

また、同様に興味深かったのは、ドラマと主題歌、放送・配信とソーシャルメディアなどエンタメ系のいくつかの分野にまたがってコンテンツ展開し、相乗効果でヒットを生む「トランスディア」の台頭で、韓国がこのトレンドをうまく活かしてファンを増やしているという指摘だ。

ホイビッチ氏が例に挙げたのは、アニメ映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(邦題)で、リリース直後はあまり注目を浴びていなかった。しかし、その後じわじわと人気が高まり、Netflixの全世界ストリーミング映画ランキングで1位を獲得した。ゆるやかな右上がりをずっと維持してトップになったのは、同作品が初めてだという。

視聴の広がりに大きな影響を与えたのが劇中で歌われている音楽のクリップで、映画を制作したソニー・ピクチャーズがミュージックアニメ動画を作成し、NetflixだけでなくYouTubeで配信した。主題歌『Golden』のクリップは、いまや7.4億回視聴されるほどのグローバルヒットに。これが動画の視聴を押し上げ続け³ 、視聴数トップの記録を打ち立てた。SNSが起爆剤になり、同作品のコア視聴者層は18歳以下(31%)と、リーチしづらい層を呼び寄せたとのことだ。

一方、ドラマ(脚本)のフォーマットで注目を集めたのは日本だ。スイスのコンテンツ調査会社「WIT」のバージニア・ムスラーCEOは、恒例の新作ドラマ紹介「Fresh TV Fiction」のなかで、広くローカライズされている「優れた脚本フォーマット」のランキング⁴ を発表し、上位6作品のうち、トップ⁵ と6位が日本のドラマだった。また、勢いのあるトルコやスペインの作品が取り上げられるなか、アジア発のドラマとしてテレビ朝日の『大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜』がヒット作として紹介され、日本のドラマのプレゼンスを示すうえでは有意義だった。

同様に、初日のヒット番組フォーマットの紹介「Fresh TV Format」でも、日本のコンテンツ力が話題となった。ムスラー氏はセッションの冒頭で『マネーの虎』⁶ を「世界で最もローカライズされているフォーマット」と紹介し、近年のヒット『The Traitors(裏切者)』(既報)や『The Floor』と肩を並べる世界6大トップフォーマットの1つに挙げた。さらに、同氏は、番組フォーマットの輸出国ランキング⁷ をグラフで示し、強豪の英・米・オランダが6割近いシェアを占めているなかで、アジア勢からは日本が健闘していると語っていた。紹介した新フォーマットにアジアの作品はなかったものの、ムスラー氏は「このあと、日本のフォーマットを紹介するセッションがある」⁸ と「Treasure Box Japan(TBJ)」のイベントを案内し、自然な形でバイヤーらを初日に開催されたイベントに誘っていた。

日本のフォーマットに注目集まる

TreasureBoxJapan.jpg

<好評だったBEAJの「Treasure Box Japan」>

今年の「Treasure Box Japan(TBJ)」は、主催した放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)の働きかけ⁹ もあり、過去最大の参加者数を集めて日本の勢いを印象づけた。

注目されたのは、2025年6月に発足した日本テレビ放送網の海外向け制作ユニット「GYOKURO STUDIO」¹⁰ のお披露目プレゼンだ。「フォーマット開発に特化する」というスタジオ設立の狙いを簡潔にアピールし、デビューコンテンツ2つを動画で紹介したうえで、秋山健一郎社長が登壇。トップアスリートが巨大なボールを捕まえるなど風変わりなものをキャッチして勝負するゲームフォーマット『メガキャッチ~掴むだけで一攫千金~』を紹介した。秋山社長は「コンセプトは、とにかく『キャッチ』すること。よいフォーマットはシンプルでないといけない」と、『スッキリ』や『有吉の壁』などのヒット番組を手がけた制作者らしい発言だった。

このほか、出演者が丸をつけて回答する『クイズ!丸をつけるだけ』(NHK)、お笑い芸人が椅子取りゲームをしながら即興ネタで笑いを競う『The Laughing King』(関西テレビ放送)、タレント4人が相手の発言のうそを見破る心理ゲーム『好き嫌いダウト最弱王決定戦』(フジテレビジョン)など個性的なフォーマット¹¹ が次々と紹介され、幅広い日本の創作性をアピールできたと思う。

毎日放送が久々にTBJで新作紹介を行うなどプレゼン数が増えた一方、各局の持ち時間が4分以内と短くなり、聴く側はいささか消化不良になるきらいがあった。また、時間が足りずにステージにいるバイヤー代表との質疑応答ができなかったプレゼンもあった。発表の機会をできるだけ多くの社に与えたいとの主催者BEAJの考えはそのとおりだが、物理的な限界にきていることは否めない。

日本のクリエイティブ産業のグローバル化を目指すのなら、放送局系を含めた制作会社のTBJへの参加も今後は大切となっていくだろう。しかし、参加希望がこれ以上増えたら、いまのやり方では対応できない。「オールジャパン」の雰囲気を残しながらも、「横並び」のプレゼン方式を見直し¹² 、競争要素を加えてもいいのではないだろうか。

官民の連携が日本のアニメを後押し

オールジャパン体制で開催されたもう1つのイベントが、日本のアニメ界のグローバルパワーをアピールする座談会(JETRO〔日本貿易振興機構〕主催)だった。この夏Netflixが同サービスにおけるアニメ視聴が5年間で3倍に増え、契約世帯の5割がアニメを視聴していることを明らかにしていただけに、タイムリーな企画と言える。

座談会で冒頭に発言したのは総務省の近藤玲子・官房審議官(情報流通行政局担当)。「13兆円の国内市場を持つ日本のコンテンツ産業の海外売上は約5.8兆円(23年)に達し、自動車に次ぐ基幹産業となった」と、その勢いをアピール。「目標(輸出を33年までに4倍の20兆円に増やす)に向け、政府もコンテンツ制作や海外流通の支援をしている」と説明した。近藤氏の流暢な英語による説明には説得力があり、アニメの売り上げは国内よりも海外の方が膨らんでいると話すなど、日本が生み出すアニメのポテンシャルの高さを聴衆に印象づけていた。

また、座談会ではグローバルな取引実績があるアニメ会社2社(東映アニメーションおよび日本アニメーション)に加え、放送局のなかでアニメによる収入が多いテレビ東京、そしてMIPCOM初参加となったバンダイナムコのエキスパートが登壇し、近年のアニメブームに寄与してきた日本勢の取り組みを紹介した。「アニメは子ども向け」という既成概念が薄れ、大人層にもアピールするようになった背景に配信サービスの台頭があるとの見方を示しつつ、トレンドに貢献してきた日本には漫画など普遍性のある物語をアニメ化するノウハウがあり、ヒット作には世代をまたいだファン層が形成されているとの話が出て、日本のアニメ産業のまとまりを見せた。

animesessionmipcom2025.jpg

<JETRO主催のアニメに特化したセッション>

その一方で、国際見本市のセッションとしては、具体的な国際戦略や共同制作・開発への意気込みがやや不足しており、中座する人も少なくなかった。メッセージ性はあるが、聴衆の知りたい情報とのミスマッチがあったようで、タイムリーな企画だっただけに惜しまれる。アニメの人気はこれからも続くはずなので、次の企画に期待したい。

さらに気になったのは、日本の縦割り行政が生む課題だ。今回紹介したイベントの主催者であるBEAJとJETROはそれぞれ日本のコンテンツ紹介するサイトをPRしたのだが、これが統一されていない。バイヤーからすれば、窓口は1つの方がわかりやすい。特に見本市のような場では、いかに容易にコンテンツ情報にアクセスしてもらうかが鍵となる。省庁の垣根を超えて、経産省がイチオシするアニメの宣伝役を近藤氏がしっかり務めるなど、官民一体感は増しているが、さらに改善の余地があるように思えた。

韓国 : 2分化した海外コンテンツ戦略

こうした意味では、複数の省庁と連携し、共同プロジェクトを通じて多角的な海外進出を仕掛けるKOCCA(韓国コンテンツ振興院)の運営モデルが参考になる。

年初から急激なウォン安(対ユーロ)が進んでいる韓国は、出展コストの高騰が影響してMIPCOM2025への参加者数が前年より減ったそうだが、Kコンテンツを紹介するセッションはこれまでどおり開催した¹³ 。日本のTBJとは対照的に、韓国のイベントでプレゼンしたのは3大放送局と大手制作会社の6社のみ。しかし、質の高い、プレミアム感のある発表となっていた。2月のMIP LONDONでは中規模の制作会社がコンテンツへの投資を求めるプレゼンをしていたが、今回はそうした動きは見られなかった。この背景として、KOCCAの戦略の変化が見受けられる。

KOCCAは2024年からKコンテンツへの投資を募るイベント「U-KNOCK」をシンガポールや米国で開催しており、MIPCOM2025の開催直前に大阪、そして11月に米LAでU-KNOCKを開催し、有望な企業十数社がプレゼンしている。韓国はコンテンツ輸出で世界4位になることを目指しており、海外からのテコ入れ投資がなければその実現性が減る。加えて、投資家のコンテンツ事業への参入は近年のトレンドでもある。Kコンテンツ人気を最大限に活かして、制作力を強めようと狙っているようだ。そう考えると、厳選されたプレミアム新作をMIPCOMで見せてKコンテンツのブランド力をアピールしたKOCCAのイベントの「使い分け」は、なかなか興味深い。

今回の日本の発表と韓国のアプローチを比較すると、韓国の方がトレンドに敏感に反応しながらビジネス展開しているように思える。KOCCAは世界各地に拠点を持ち、コンテンツビジネスに特化した情報収集や人脈づくりをしていることが、一歩先に踏み出せる伸び幅を生み出しているようだ。日本のコンテンツもいま、評価が高まっているだけに、チャンスを最大限に活かしたいものだ。

次回は、韓国やフランスと手を組んで時流に乗ろうとしている日本の民放の動きを紹介しながら、冒頭に触れたYouTubeフィーバーを報告する。

第2回につづく)


¹ 誰もがコンテンツや商品をつくり、いつでも発表・販売できるようになり、企業や団体でなくても個人が支持層や顧客とつながることで形成される経済圏のこと。※参考 : 一般社団法人クリエイターエコノミー協会

² 3位が英国(10.4%)で、インド(5.8%)、ブラジル(5.3%)に次いで日本(4.8%)が6位に食い込んでいた。スペイン(4.1%)やオーストラリア(2.9%)を上回っていた。

³ アニメ映画は10カ国語で作られており、主題歌『Golden』はスペイン語とフランス語版も作られた。これにより、中南米圏ではスペイン語の主題歌のヒットが動画の視聴を押し上げ、フランス語のヒットが欧州でのアニメの視聴増につながったということだ。

⁴ 1位は日本テレビの『Mother』、2位はスペインの『Alpha Males(邦題=アルファ男の条件)』、3位はフランスの『Dix pour cent(Call my Agent/邦題=エージェント物語)』、4位が米国発のマイクロドラマ『The Breaking Ice』、5位が英国の『Ghosts(邦題=ゴースト~ボタン・ハウスの幽霊たち)』、そして6位が日本テレビの『3年A組-今から皆さんは人質です-』だった。

⁵ 『Mother』は2025年9月にギリシャ版(11カ国目)が放送開始している。

⁶ このフォーマットは『Shark Tank』『Dragon's Den』などの名前でフランチャイズされ、世界50カ国以上でローカライズ化されている。20年以上前に開発されたフォーマットだが、2025年にネパールでShark Tank Nepalが放送開始された(52番目)ほか、米国ではABCがシーズン17を放送中(配給はソニー・ピクチャーズ)。

⁷ フォーマット市場の輸出シェアのトップは英国25.9%で、米国19.2%、オランダ12.8%、ベルギー(フランドル)5.8%、フランス4.5%に次いで日本が3.6%と国別では6位にランク入りした。一方、国際的に共同開発されたフォーマットが4.7%あり、近年のトレンドを裏づけていた。

⁸ 「Treasure Box Japan」を主催するBEAJはイベントの司会にムスラー氏を起用。このことも集客に役立ったようだ。

⁹ バイヤーがMIPCOMでの商談アポを入れ始める前にイベント告知をダイレクトメールし、直前に業界誌に前振り記事を書いてもらうなどの宣伝を展開。前述したように司会のムスラー氏が「フレッシュTV」のセッションのなかで声かけをするようになったのも集客に役立っている。

¹⁰ GYOKURO STUDIOは別会社化されておらず、米LAに拠点を置いて海外市場向けのフォーマット開発に力を入れるが、パイロット版などのコンテンツ制作はインハウスで行う。

¹¹ このほか、TBSグループが韓国の大手制作会社CJ ENMと共同開発したサバイバル型賞金ゲーム『MUGEN LOOP』、タイムスリップしてレトロなデートをしながら恋を見つける『ラブタイムトラベル』(テレビ朝日)、相撲を軸にタレントがフィジカル勝負をする『SUMO KING』(テレビ東京)、6世代で構成される2チームが挑戦するクイズ番組『ロクジェネクイズ』(読売テレビ放送)、朝日放送テレビの『相席食堂』の「ちょっと待てぃボタン」をフォーマット化した『Wait, What!?』がお披露目された。

¹² 個人的には、冒頭で海外のトレンドウオッチャーに日本コンテンツの魅力を語ってもらい、厳選した(複数の海外バイヤーに事前にトレーラーをプレビューさせて発表作品を絞り込む)5~6作品を紹介した方がプレミアム感やインパクトがあるように思う。また、競争要素を持ち込むことで、紹介トレーラーなどの売り込みスキルが高まる可能性もある。

¹³ 別途、韓国芸術文化教育振興院(KACES)の主催で、AI技術会社や大学教授らがAIを使ったコンテンツ紹介のセッションを開いた。

最新記事