NTT IOWNを活用した大阪・関西万博でのリモートプロダクション NTT西日本担当者に聞く

編集広報部
NTT IOWNを活用した大阪・関西万博でのリモートプロダクション NTT西日本担当者に聞く

NTT西日本グループは、オールフォトニクス・ネットワーク IOWN APN)を活用したリモートプロダクションに関する実証実験を在阪放送局4社(NHK、朝日放送テレビ、読売テレビ放送、関西テレビ放送)と実施している。実証では、大阪・関西万博会場と参加放送局をIPネットワークで接続し、放送局からリモートで番組を制作できる環境を半年におよぶ万博会期の間提供され、その環境は会期中、在阪4社によって共同利用される。同取り組みについて、企画立案などを担当する平田翔一氏(NTTビジネスソリューションズ)とエンジニアの田中克哉氏(NTTスマートコネクト)に話を聞いた。取材は、2025428日に実施。


――大阪・関西万博での実証実験について

平田 NTTは次世代情報基盤としてIOWN構想を掲げ、実現に向けた取り組みを進めています。このうち、「オールフォトニクス・ネットワーク (以下、IOWN APN)」という技術が映像制作に役立つと考えていますIOWN APNは、高速大容量・低遅延・ゆらぎがないという3つの特徴があるネットワークです。このネットワークは、遠隔で映像制作を行うリモートプロダクションと相性が良いです。大阪・関西万博の「未来社会の実験場」というコンセプトに沿って、リモートプロダクションという少し先の未来に向けて万博のフィールドで、在阪4社と実証実験に取り組むことにしました。

田中 大規模なインターネット配信には携わったことはありますが、放送関連のシステムは作ったことがありませんでした。ですので、映像制作に必要な通信について、ノウハウがない中、取り組むことになりました。その都度、放送局とコミュニケーションをし、条件などを詰めていきました。放送機器も特殊で、機器間の相互接続やIP特有のネットワーク設定についても試行錯誤でした。4社の使用する機材が異なり、要望も異なる中で、1つのシステムにまとめることも苦労した点です。また、万博での取り組みだったので、未完成の会場で図面を見比べながら準備を進めるというのも、期間限定のイベントだからこそのチャレンジでした。

――今回の実証の新しさ・共同利用できるサービス利用型のメリット

平田 いままでの実績で、東京地区を中心に、NTTと放送局でリモートプロダクションに挑戦した事例はありましたが、今回のように設備を共同で使うシェアリング型の実証は初めての試みです。従来であれば、放送局と中継地は1対1の関係で回線をつなぎ、制作に必要な設備は放送局が自前で準備する必要がありました。今回の実証実験のポイントは、メディアハブとしてNTTスマートコネクトのデータセンターを置いたことです。放送局がメディアハブとつながっていれば、万博会場に限らず、例えばスタジアムなどでも同じようなリモートプロダクションが実現できるという点です。これは撮影拠点の設備を放送局自ら保有する現在のかたちから、サービス利用型に変わる点で、放送局にとってメリットになってくるかと思います。

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<データセンターをハブに、IOWN APNよるIP網を構築した今回の実証実験>

田中 簡単に言えば、同じものを皆で使えるのでリソースをシェアできることです。例えば、「集中管理」が可能で、監視も1カ所でできるといった管理のしやすさもあります。別の視点ですが、今回の実証で、複数の放送局で同じ取り組みをするため、知識や課題を共有できることは得るものが多く、魅力だと感じました。おかげで、放送局の皆さんと随分関係が深まったと感じています。もちろん、手間が発生する場合もあります。例えば、ある社の要望をかなえようとすると、別の社への影響がないかを調査する必要が出てきたり、リソースシェアなので他社と使用時間が重ならないようスケジュールの調整が必要だったりします。

平田 IP設備はバーションの管理や通信が届いているかの監視など、従来なかった業務が発生することとなります。放送局視点で考えると、いままでにはないノウハウを蓄積する必要があるとも言えます。この部分を、IPの世界での監視の知見があるNTTスマートコネクトがお手伝いできることは大きなメリットだと思っています。

――今回の実証で想定しているリモートプロダクション

平田 万博会場内で撮影した映像をIOWN APNを通じてデータセンターへ伝送します。その後、放送局にてスイッチング等の操作をリモートで実施し、制作した映像を放送局のサブ(副調整室)などに伝送し、それを生放送などの番組で使っていただく想定です。生放送がポイントで、例えば、リモートでスイッチング操作をする際のスムーズな操作感、リモートでカメラを動かす際に操作と実際の動きにズレを感じにくいこと、カメラ・マイクに加えインカムなどのコミュニケーションツールを映像制作で利用する放送局にとっては通信容量をあまり気にすることなくそれらを増強できることなど、大容量で低遅延の次世代型通信であるIOWN APNだからこそのチャレンジ領域になると思っています。

田中 今回の実証で使っている回線の帯域は100Gbpsです。放送で使う非圧縮の映像は1.5Gbps程度で、双方向合わせて130台程のカメラが使えるキャパシティがあり、このリソースをシェアして利用する形になります。IOWN APN自体は400Gや800Gといったもっと大容量の回線もあるので、4K、8K映像など高ビットレートな伝送も対応可能になっています。

――放送局からの反応・この実証を通じた今後のイメージ

田中 自社でIPに対応したサブを保有している放送局※では、そのIPサブに接続すると、データセンターや万博内の中継地点が増設されるような感覚で、日ごろから使い慣れている機器を操作しリモートプロダクションができるという利点があったようです。

平田 リモートプロダクションで大切なのが、使用する設備同士の時刻を同期させることです。従来の回線であると、PTPIPネットワーク上でマイクロ秒単位の時刻同期を行うためのプロトコル)が、ロックせず設備の同期が出来ないことが課題としてありました。ゆらぎがないIOWN APNでは、離れた拠点の機材をPTPですぐにクロック同期でき、その後も安定して同期ができるので、この部分は放送局の本件の担当者に驚かれました。

平田 万博会場と在阪4社をメディアハブであるデータセンターとIOWN APNで接続しました。今後はメディアハブと接続する拠点を増やしていくことが我々のサービスの価値につながると思っています。今後の広がりによっては、中継車の派遣が不要になったり、イベント会場ごとに中継設備を保有しなくても必要な時だけ中継ができるようになったり、さらには、大阪のスタジオで撮影する番組の人手が足りないので広島のスタッフが制作するといったリソースのシェアリングみたいなところにも利用できるサービスになるのではと考えています。

――最後に

田中 万博開幕に向け、4社のすべての機器が使える準備状況まで、無事に持っていくことができました。まずは安全運用を半年間しっかりやりきりたいと思います。

平田 実証を進め、放送局と相互に知見を得ていると実感しています。今後は、実証で終わることなく、実際のフィールドで使えるようにメディアハブのサービス化を2026年の春に提供できるように検討を進めていきます。そのためにも万博の会期中に、自分の家のテレビでリモートプロダクションの番組を見て、これまでの放送と同じことができていると実感できれば嬉しいです。

※(編集広報部注)放送局はSDIという遅延がほぼない同軸ケーブルを利用して放送システムを構築する場合も多く、すべての放送局でIPネットワークに対応した放送システムを保有しているわけではありません。

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