2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が4月13日、大阪府で開幕した。国内では、2005年開催の愛・地球博以来20年ぶりとなる。10月13日までの184日間、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催される。開幕の前日の4月12日には、毎日放送、朝日放送テレビ、読売テレビ放送、関西テレビ放送、テレビ大阪が『民放5局同時生放送!EXPO2025大阪・関西万博開幕前日SP』を生放送するなど、地元放送局の取り組みが盛んだ。そこで、4月28日、29日に実際に万博会場を訪れ、取材した。
こんにちは「大阪・関西万博」!
東京から大阪・夢洲(ゆめしま)にある万博会場に訪れて最初の感想は「大きい!」。端から端まで見渡せないほどの横幅のゲートを抜け進むと、大きなミャクミャク(=冒頭写真)ともっと大きな格子状の木造建築が見える。これが大屋根リングと呼ばれる1周2㎞の環状の橋のようなもので、会場のどこからでも臨めるシンボルだ。大屋根リングの下をくぐり、リングの内側に入ると、個性あふれる海外パビリオンが軒を連ねる。そしてさらに中央に進むと、大きな鏡張りのスピーカーが重なったような「null2」、漆黒の長方形の建物壁面全てに水が流れる「いのちの未来」など近未来を感じたり、自然と融和した外観で廃校を利用したどこか懐かしさを感じさせる「Dialogue Theater-いのちのあかし-」でホッとしたり、いずれも「見たことがない」シグネチャーパビリオンが現れてくる。
ミャクミャクが描かれた壁と夢中になって自撮りをする高校生、竹でできた巨大なベンチに座り大きい声で家族を呼ぶおじいさん、会場に200カ所以上ある公式スタンプを万博スタンプパスポートに押して集める子どもたち、海外パビリオンで民族衣装に身を包んだスタッフと写真を撮ってもらうマダム――。会場内での楽しみ方、訪れるパビリオンは人それぞれだが、晴れた日は大屋根リングを散歩して、期間限定のこのお祭りをみんな楽しんでいる。
情報発信の拠点「メディアセンター」
そんな万博の、放送局、新聞、そして海外メディアを含めた情報発信の拠点となるのが、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、協会)が提供するメディアセンターだ。ちょうど訪れたタイミングは定例会見前だったこともあり、メディアセンター内は、カメラマンや記者の人が多くが集まり混雑していた。メディアセンターには、記者会見室、メディア向けワークスペース、インタビューコーナー、映像・画像素材分配コーナーがあり、開幕した4月13日にこちらも正式にオープン。記者会見室は、記者席が80席、英語・フランス語どちらかの同時通訳を入れて、各国・各パビリオンによる会見などに使用されるほか、石毛博行・同協会事務総長による定例会見も実施している。また同協会が撮影した公式映像は、専用のクラウドサービスにアップロードされ、メディアに配付されている。情報発信の起点であるメディアセンターの運営に必須なのはインターネット通信。露口孝嗣・同協会広報企画課参事によれば、「異なる経路で万博会場のある夢洲まで光回線を敷設している2つのキャリアと契約し、災害にも強く安定したインターネット通信を保つようにした」とのこと。このほか、海外メディア向けに日本の都道府県や市町村を紹介するスペースなどを設置している。
東西2カ所のサテライトスタジオ
<サテライトスタジオ西=㊧、サテライトスタジオ東=㊨>
メディアセンターとは別に、万博会場内の大屋根リングの内側にサテライトスタジオがある。愛・地球博の際にも長久手会場内に愛知県の放送局6社がサテライトスタジオを構えたが、今回も公募の結果、地元放送局に貸与されている。サテライトスタジオは会場の東と西に2カ所あり、それぞれ3局ずつが入っている。西側は、朝日放送テレビ・関西テレビ放送・テレビ大阪が、東側は、毎日放送・読売テレビ放送・NHKがそれぞれスタジオを構えている。どちらのスタジオも、今後の活躍が期待される40歳以下の若手建築家の設計によるユニークな外観をしている。
関西テレビ放送のサテライトスタジオでは、バーチャルスタジオを実現。サテライトスタジオの規格は全社ほぼ同じの長方形のシンプルなスタジオだ。しかしながら、関西テレビ放送では、機材を導入し、3DCG映像と実写映像をリアルタイムで合成することで、広がりがあるスタジオ演出を可能とした。「万博を未来の実験場と捉え、サテライトスタジオでも新しいことに挑戦し、今後のためのノウハウを蓄積できればと考えた」と堀切八郎・関西テレビ放送万博推進室長。「カンテレミライスタジオ」と名付け、子会社であるウエストワンとともに、実現にこぎ付けた。今後は、AIが作成したスタジオ背景映像を合成させることにチャレンジする予定だ。
<リアルのセットの横にグリーンバックを配置した「カンテレミライスタジオ」>
日頃の情報発信は会場内から
大阪・関西万博の見どころは何といっても、各国らしさが溢れるパビリオン、休憩スペース、そしてトイレにいたるまで、大小さまざまな建造物にある。個性豊かな建造物に加え、エスカレーターの脇、パビリオンの壁、床にまでミャクミャクからインスピレーションを受けたイラストが描かれるなど、まさに「映え」が詰まっている。「画」も大切な情報であるテレビ局は、やはり、サテライトスタジオから飛び出し、外での生中継を行うことが多い。ここで活躍しているのが、TVU・LIVE Uなどのネット回線を使った簡易中継システムだ。来場者が1日平均15万人と予測された万博会場では、安定した通信ができるかは不安があった。在阪放送局が、協会と交渉を重ね、万博会場内数カ所に専用Wi-Fiを設置できる仕組みを構築した。
<万博会場は少し歩くだけでさまざまな景色を見ることができる>
「見ればその魅力が分かる」今回の万博で苦労したのは、完成した建造物がない開幕前にどう機運を醸成するかだったという。放送局として、報道とは別に、地元開催の国際イベントを盛り上げるという役割もある。読売テレビ放送では、報道・情報番組『ウェークアップ』(2024年4月13日放送)で大屋根リング内に特設セットを設置し生放送を行ったほか、『ベストヒット歌謡祭』(2024年11月14日放送)では、アーティストの映像を万博会場で収録し放送した。宮本典博・読売テレビ放送万博事務局長は、「世界初の番組をという思いで、社内のスタッフを含めて意識を盛り上げていった。また、5月31日放送予定の『音道楽EXPO』では万博会場からのスペシャルLiveを生中継する予定だが、開幕前に『ベストヒット歌謡祭』を制作したスタッフで万全の態勢で臨みたい」と明かす。
<読売テレビ放送・宮本典博さん=㊧、安井祥人さん=㊨ 手に持っている"シノビー"はイタリアでアニメ放送を予定、世界初公開は万博会場で行われる>
放送局発のコンテンツを世界へ
万博における大阪・関西局の取り組みは、大きく3つに分類できる。①万博会場での特別番組、②期間限定の自社コンテンツ展示やイベント、③パビリオン内などへのコンテンツ提供――だ。もちろん、このほかにも、万博のテーマに賛同し活動を行う「共創パートナー」に毎日放送やテレビ大阪が登録しているなど、万博のテーマに沿った活動も各社展開しているが、"放送局らしさ"という視点で、事例をいくつか紹介する。
①は、4月29日に『関西12局ラジオ合同特番「KANSAI EXPO RADIO」~繋がろう!ラジオからこんにちは!~』(14:00~16:00)が大阪・関西万博内フェスティバルステーションから公開生放送された。関西ラジオ12局(エフエム滋賀〔e-radio〕、京都放送〔KBS京都〕、エフエム京都〔α-STATION FM KYOTO〕、MBSラジオ、朝日放送ラジオ〔ABCラジオ〕、ラジオ大阪、エフエム大阪、FM802〔FM802・FM COCOLO〕、ラジオ関西、兵庫エフエム放送〔Kiss FM KOBE〕、和歌山放送)の一斉生放送で、12局のパーソナリティやアナウンサーが勢ぞろいし、抽選で当たった事前招待150人に加え、当日観覧希望者も集い、会場は大いに盛り上がった。12局はこの枠組みを活かし、「関西ラジオ12局の街歩き音声ガイド~大阪・関西万博来て、聴いて~」(外部サイトに遷移します)と題してポッドキャストも配信中だ。関西各地の魅力を各局のパーソナリティがタッグを組み届ける。
<各局パーソナリティがそろってオープニングを迎えた『KANSAI EXPO RADIO』>
②期間限定の自社コンテンツの展示では、自信があるコンテンツの国際発信への好機となっている。4月13日開幕初日に行われた毎日放送主催の「1万人の第九 EXPO2025」。1983年から毎日放送が「サントリー1万人の第九」として続けている師走の恒例イベントが万博の開幕を彩った。また今後、読売テレビ放送は7月23日~25日に「Iwatani スペシャル 鳥人間コンテスト展 ― 知る 見る 触れる 人力飛行機の世界 ―」を、朝日放送グループは9月1日~4日に"世界に発信する「防災」の未来設計図"を万博会場内で展示予定だ。鳥人間コンテスト展を行うことについて、「世界にむけて発信できるコンテンツに歴史が必要だと実感した」と宮本典博・読売テレビ放送万博事務局長は話す。
③パビリオン内などへの映像コンテンツの提供は、読売テレビ放送が「いのちの遊び場 クラゲ館」の360度映像コンテンツに制作協力している。万博のパビリオンの展示は「映像表現」で魅せるものが多いが、その多くは美しいCG映像である。読売テレビ放送では"実写"にこだわり、海外3カ国、国内17カ所で特殊なカメラを使用し、2年以上かけ、自然や祭りの撮影を行った。また「大阪ヘルスケアパビリオン」内で注目を集める株式会社サイエンスが開発した「ミライ人間洗濯機」内の映像を企画・撮影・制作したのは、関西テレビ放送だ。担当した山本道雄・関西テレビ放送「カンテレXR事業」プロジェクトリーダーは「"体だけでなく、心も洗う"とのコンセプトのもと、今までのコンテンツ制作を活かし、参加者にいかに映像に没入してもらい、楽しませるだけではなく心をリフレッシュしてもらうという視点で映像を撮影・制作したことは意義深かった」と語る。
<取材にご協力いただいた関西テレビ放送・山本道雄さん=㊧、堀切八郎さん=㊨>
放送局と万博
55年前の1970年日本万国博覧会(=大阪万博)で、民放テレビ局は『幕ひらく日本万国博』のタイトルで、3時間にわたるカラーワイドで開会式を実況生中継した。全民放テレビ局が同一時間、同一画面、同一音声、同一スポンサーで放送するという民放史上初めての試みであり、その中継はたいへんな挑戦だった。20年前の愛・地球博では、「FM LOVEARTH」による放送と通信の融合に関する実験的な取り組みなど、万博に際して放送は常に新しい取り組みにこだわってきた。2025年の大阪・関西万博では、大阪・関西局のみなさんの熱意を感じる取り組みばかりで、放送局が長年にわたり番組を通じて仕掛けてきた「楽しませる」「盛り上げる」「考えさせる」といったノウハウが詰まっている。"放送"というくくりを飛び越えた今後の仕掛けにも期待していきたい。