英政府 公共サービス放送局チャンネル4の民営化取りやめ

編集広報部
英政府 公共サービス放送局チャンネル4の民営化取りやめ

英デジタル・文化・メディア・スポーツ省のドネラン大臣(当時)は1月5日(現地時間)、ジョンソン政権時代に民営化が決まっていた公共サービス放送局(PSB)のチャンネル4について、その計画を取りやめるとする大幅な政策転換を発表した。

新たな見解では、「現時点で英国のクリエイティブ産業を支援するには、売却が最良の選択肢ではない」とされている。これを受けチャンネル4は、商業的な柔軟性を高めつつも国有局として、コンテンツ分野での人材育成や雇用拡大のための投資を増やしながら、長期的な放送局の持続可能性と、クリエイティブ産業の成長を支援する新たな体制を整えることになった。

チャンネル4は広告放送とスポンサーシップ(企業名のみ表示)を財源として経営される大手放送局(視聴シェア3位)だが、事業形態は政府が所有する非営利法人となっており、ライセンス料(いわゆる受信料)で運営されるBBCや、民放局(ITVなど)とも異なる存在だ。とりわけ

同局は放送要件で、「コンテンツの『調達・編成』を担う」機関と位置づけられており、第三者の制作会社(とりわけ独立系の制作会社)に番組制作を委託することが義務づけられている。作品の権利を局側が持たず、制作者側がマネタイズできる仕組みで、二次利用の面でもクリエイティブ産業を支える構造となっている。また、公的資金を投入しない放送事業および放送産業支援は、若者やマイノリティ層をメインターゲットとして、BBCで放送できない挑戦的で革新的なコンテンツを提供することが求められ、これも免許要件となっている。

同局は、足かせがあるにもかかわらず、多数のチャンネル(有料を含む)を抱える大手に成長。映画制作にも投資を行い、放送だけでなくVODSNSでも広く配信しており、若者層のオンラインプラットフォームのシェアではBBCITVをしのいでいるという。2021年の決算では、1982年の放送開始以来、初めて10億ポンドを超える企業収益と「記録的」な黒字を達成している。

一方で、ネットフリックスやユーチューブなどの米大手配信事業者に視聴やデジタル広告のシェアを奪われ続けており、広告収入以外にマネタイズの手段を持たないチャンネル4の事業モデルは、ここ数年、競争には勝ち残れないと懸念されていた。成熟した今が売りどきで、民営化で同局の経営が安定すれば、クリエイティブ産業のためにもなるというのが政府の民営化への方針の根拠だった。

デジタル・文化・メディア・スポーツ省(当時)は、今後法改正をして、チャンネル4が独自のコンテンツを制作して収益化できるよう、「コンテンツの『調達・編成』のみ」とされてきた制限を緩和するほか、番組制作で7,500万ポンド、事業拡大で最大2億ポンドまでの民間融資を容易に受けられるよう措置を講ずるとしている。状況に応じて、上限額の引き上げも検討するという。

スナク首相は首相候補時代に同局の民営化路線を維持する立場を示していたが、番組制作者の団体をはじめ、クリエイティブ産業の各方面から民営化反対の公開書簡が送られるなど、政権交代を機に「見直し圧力」が各方面から高まっていた。就任後のスナク首相は、低迷しつづける経済の立て直しを優先しており、放送産業を弱体化させる可能性がある民営化計画を、"お蔵入り"させることにしたようだ。

チャンネル4は、政府の正式決定を歓迎。同局が海外資本に売却されることなく、「持続可能な方向性の確立は、イギリス国民の手に安全に委ねられた」と評価し、「コンテンツの調達・編成のみ」とされた制限が緩和されることへの期待を表明した。

また、イギリス広告界も「チャンネル4が公共の手に残るという決定は、確実性をもたらす」と歓迎。広告業界団体(ISBA)は、「公共放送局と独立プロダクションによるエコシステムの共生関係は、広告で支えられている」とし、この問題が業界内の混乱を生まない形で決着したことに安どしているようだ。

今後の焦点は、法改正でチャンネル4にどこまで自主制作の裁量が与えられるかだが、番組制作者の団体は大幅緩和に難色を示している。また、公有にとどまるための駆け引きで、チャンネル4は政府や業界に、▷オペレーションの地方分散と、それによる地方の雇用倍増▷若者に向けた職業訓練プログラムへの1,000ポンドの投資――などを約束しており、これらのコミットメントが経営にどのような影響を与えるのかも注目される。

2月7日(現地時間)、スナク首相は内閣改造を実施した。省庁改編を伴うもので、同氏が力をいれているデジタルやイノベーションを掌握する、科学・イノベーション・テクノロジー省を新設し、その大臣にデジタル・文化・メディア・スポーツ相だったドネラン氏を任命し、住宅相だったフレイザー氏をドネラン氏の後任として、改組された文化・メディア・スポーツ省の大臣に起用した。今後、チャンネル4が独自で番組制作できるようにするための交渉や、改正法案のとりまとめ作業は、フレイザー大臣が担当することになる。

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