11月12―18日まで大阪・吹田市の関西大で開かれた第42回「地方の時代」映像祭(主催=民放連、NHK、関西大などで組織する実行委員会)。12日にコンクールの贈賞式やシンポジウムを開催したほか、翌13日にはワークショップなども行った。
12日のシンポジウムは「地域からは日本と世界のいまが見えてくる」と題し、地域の目線から伝える意義やメディアの役割を考えた。CBCテレビの有本整氏、毎日放送の奥田雅治氏、読売テレビ放送の堀川雅子氏、山口朝日放送の高橋賢氏、NHK沖縄放送局の渡辺考氏が登壇。ウクライナ避難民や戦時下の沖縄放送局、岩国の米軍基地など、それぞれが担当した番組の一部を上映したうえで自身の関心や問題意識を述べ、これを手がかりに議論した。司会は音好宏・上智大教授が務めた。
放送エリアを越えた外からの視点
渡辺氏は長崎放送局時代に地元ではタブーとされていたカトリック信者や被差別部落の人々の戦後を描いた番組を制作。"外の人間"だったので「ルールを知らずに取材することができた」と語った。有本氏は、本映像祭で選奨を受賞した熊本県産アサリの産地偽装を明るみにしたドキュメンタリー『偽りのアサリ ~追跡1000日 産地偽装の闇~』に触れ、地元では問題となっていなくても、外から見ると「おかしい」と感じたので、エリアを越えて記者が取り組んだと明かした。奥田氏もドキュメンタリー「映像」シリーズで、関西以外の事例も取材、番組化しており「問題意識があり、地元局が取材していなければ扱う」との考えを示した。
<左から音氏、有本氏、渡辺氏、高橋氏、堀川氏、奥田氏>
各局の連携
堀川氏は「NNNドキュメント」は参加している各局が競争する一方、新型コロナウイルスのような全国共通の問題では、各地の対策を一つの番組にまとめる連携も生まれたと紹介。高橋氏はANN系列の「テレメンタリー」でも同様に、各地域の制作者が集まり、アドバイスし合うことで「より高いクオリティの番組ができている」と語った。有本氏は「名古屋は災害時には取材ヘリコプターを共同運航することにしている。ローカル局は競争するだけでなく、一緒にできることもある」と述べ、速報性に勝るウェブ媒体との競争を念頭においた取り組みを紹介した。
番組のインターネット展開
「深夜に放送しても見てもらえない。多くの人に届け、社会を揺さぶる武器としてネットを使っている」(有本氏)、「放送地域外の人に番組を届けられる」(奥田氏)、「コメント欄を含めて反響がすぐにわかる」(堀川氏)と実例を挙げながらインターネットの活用について議論し、多くの人に届けられる機能や反響をすぐに得られる利点などの意見があった。高橋氏は自社ニュース番組の特集コーナーの内容がYouTubeで100万回以上再生されたとして「短尺のコンテンツでなくても可能性がある」と指摘した。
最後に音氏が「地域発メディアの価値や課題、可能性をどう考えるか」と提起。「足元に目を向け、知られていない問題を掘り起こす」(有本氏)、「知っているつもりにならず、小さな声を聞いて深く掘るのが地域発の報道の役割」(渡辺氏)、「慣れや放置から諦めが生じる。何が起きているか伝える」(高橋氏)、「当事者の声だからこそ変えられるものがある。地元から発信しないといけない」(堀川氏)、「地域を大切にする。住んでいるからこそ作れる番組がある」(奥田氏)とローカルメディアの意義をそれぞれが語った。
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13日午後に開かれたワークショップのテーマは、「どうなる・どうする地域放送~ローカル放送局・ケーブルテレビ局の未来戦略~」。パネリストは、大迫順平・九州朝日放送取締役、二宮以紀・南海放送ビジネス戦略局次長に加え、長野県須坂市を中心にケーブルテレビ事業や町おこし事業を行っているGoolightの丸山康照社長が登壇。司会を原真・共同通信社編集委員が務めた。
<左から原氏、大迫氏、二宮氏、丸山氏>
はじめに、大迫氏が、福岡・佐賀80市町村において特定の自治体の魅力を1週間にわたりテレビとラジオで伝える企画「ふるさとWish」について紹介。県内各地を回り、すべての市町村を放送で取り上げる企画を通じて「自治体との信頼のネットワークができた」と語った。1周目は無料で、2周目からはマネタイズにつなげるため、制作費の一部を自治体や企業が負担している。それぞれの自治体からは生産者の応援やふるさと納税のPR、観光客増加などさまざまな要望や相談が寄せられ、放送以外での解決策もあることから、2020年に立ち上げたコンサルティング業務を行う㈱Glocal KをはじめとしたKBCグループで取り組んでいると話した。
次に、二宮氏がネットコンテンツの制作や新規事業など放送外収入への取り組みを説明した。15年にリリースした「南海放送アプリ」はアライアンスを結んだ各局が利用し、系列を越えて20局が利用。各局のデジタル担当者同士でノウハウを共有し、機能の開発費を実装局でシェアしている。ローカル局のためのアプリで、視聴者をつなぐUIと低コストを実現し「ローカル局のデジタル担当者の英知が詰まっている」と語った。また、YouTuberの育成やAIカメラを利用したスポーツ配信事業、楽天とのECサイト連携なども紹介。放送外収入にも積極的に取り組む"両利き経営"で「他局や他業種との連携を進めつつ、徹底した地域貢献を貫く」と述べた。
続いて、丸山氏が、ケーブルテレビなどの基軸サービス以外の取り組みとして、▷大学との連携事業▷地域と組んだシティープロモーション▷コンテンツの海外展開▷スラックライン(幅5㎝のライン上でアクロバティックな技を展開し、その難易度や技の美しさを競うスポーツ)のワールドカップ開催を紹介。また、今年7月に長野県須坂市と手を組み、市の子育て支援センターなどが入った多目的施設「bota」を、同社のある商業ビルの1階に立ち上げて運営しており、「新しい事業領域の中で可能性に挑戦している」と語った。
今後の展望として、「コンテンツを作り続けるために新規事業に活路を見出していこうとしている」(大迫氏)、「稼ぎ頭はテレビ。地域メディアとして生き残る方法を考えている」(二宮氏)、「地域を巻き込んだ新規事業の仕組みを作る必要がある」(丸山氏)と語った。
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このほか、12日にはノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが『「時代」を超える』と題して記念講演。13日午前のワークショップでは、高校生・大学生の受賞作を題材にしながら、会場の参加者と受賞者で意見交換を行い、映像制作を学ぶことの意義などを議論した。