真夜中に署名された大統領令
ドナルド・トランプ米大統領による公共放送への助成金削減政策が波紋を広げている。
トランプ大統領は5月1日の夜、米公共放送PBS(Public Broadcasting Service)と同ラジオNPR(National Public Radio)への助成金を打ち切る大統領令に署名した。公共放送側は直ちに反対を表明。NPRは「憲法修正第1条が認める権利への侮辱」と厳しく批判、あらゆる手段で大統領令に異議を唱えるとの声明を発表した。PBSも「違法な命令で、50年以上続いてきた教育番組の提供が危機に瀕する」と懸念を示した(冒頭画像はNPRの声明)。
同大統領令は連邦政府の他の機関がPBSやNPRに補助金を提供することも禁じた。このためPBS・NPRへの助成金を管理する公共放送公社「CPB」(Corporation for Public Broadcasting)は5月6日、教育省がPBSの子ども向け番組への助成金プログラム「Ready To Learn」を打ち切ったと発表。助成金を受給していた44局に同プログラムを直ちに停止するよう通知し、番組は中断している。CPBのパトリシア・ハリソンCEOは「CPBは民間の非営利組織でホワイトハウスから命令される立場にはない。資金提供を維持できるよう議会や政府に働きかけていく」とコメントしている。
判決では執行停止命令が相次いだが......
共和党とトランプ大統領はこれまでNPRやPBSを「リベラル寄りで、偏向している」と批判してきた。3月には、国際的な報道サービス「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)を管理するグローバルメディア局(USAGM)の縮小を決定。議会の承認を経ずVOAへの資金提供を停止し、1,300人以上の記者を休職に追い込んだ。VOA側は政権を相手に直ちに提訴し、4月22日にワシントンD.C.連邦地方裁判所は、資金提供停止の差し止めと報道活動の再開を命じている。同判決では同じく政府からの助成金で運営されているアジア向けのRFA(Radio Free Asia)と中東向けのMBN(Middle East Broadcasting Networks)の閉鎖措置への停止を命じている。
また、欧州向けのRFE/RL(Radio Free Europe/Radio Liberty)への助成金差し止めで同じくワシントンD.C.連邦地方裁判所が4月29日、「議会がすでに支払いを承認している」と、政府に2025年4月分の1,200万㌦をRFE/RLに支払うよう命じた。RFE/RLは、報道の自由が制限されている国々で独立的な報道を提供している。一方、同じ4月29日にトランプ大統領はPBS・NPRへの助成金を管理するCPBの理事3人を理由もなく解任したが、CPBは「不当解雇」として提訴。司法はこれを暫定阻止し、5月中旬に予定される本格審議まで執行が差し止められている。
このように、政権による矢継ぎ早の措置をメディア側が直ちに提訴し、司法が撤回を命じるというパターンが続いている。そうしたなかでの5月1日の新たな大統領令というダメ押しだけに、公共放送各社が存続の危機にある状況は変わらない。ニューヨーク大学法科大学院のリチャード・ピルデス憲法学教授はニューヨーク・タイムズ紙で「予算権限は議会にあり、大統領が勝手に支出を止める権限はない」と指摘。憲法違反であるの見方を示している。さらにCPBが政府機関ではなく民間団体である以上、大統領が同団体に命令を出せる法的根拠もあいまいだという。ホワイトハウスはこの件についての取材に応じていない。