米CBSの報道番組『60ミニッツ』をめぐって2024年10月にトランプ大統領(当時は共和党の大統領候補)がCBSに起こした訴訟がいまだ解決をみていない。CBSはこれまで和解こそ拒否したものの、裁判所の調査には協力する姿勢を示していたが、3月に入って強硬姿勢に転じ、裁判所に訴訟を却下するよう申し立てた。
発端は2024年10月に放送された『60ミニッツ』のカマラ・ハリス民主党大統領候補(当時)の独占インタビュー。トランプ氏はCBSがインタビュー内容を意図的に編集し、有権者をハリス候補有利に誘導したとして訴訟を提起した。何度か和解が模索されたが膠着状態のまま、今年2月にトランプ大統領陣営は当初の賠償金請求額100億㌦(約1兆5,000億円)を200億㌦に倍額した。また、連邦通信委員会(FCC)に苦情を申し立て、FCCはすでにCBSへの調査を開始している。
CBSは3月6日、最初の訴訟が提起されたテキサス州北部地区米連邦地裁に対し、この訴訟は同地裁の管轄外であることなどを理由に申し立てを行った。トランプ大統領側が2月の修正訴訟を却下するか、もしくは訴訟をニューヨーク南部地区の連邦地裁に移すよう求める内容で、CBSは「原告は自分たちの意見に反するという理由で、憲法に守られた報道機関の編集判断を否定し、罰則を科そうとしている。しかも、報道機関の今後の編集方針にも介入しようとしている。言論・表現の自由を定めた合衆国憲法修正第1条に抵触し、法的・事実的根拠も持たない」と訴えている。さらに、FCCの調査のために提供した『60ミニッツ』のインタビューと書き起こしをウェブに公開し、意図的な改竄などはなかったことを視聴者にも訴えている(冒頭画像はCBSの公開ページ)。
さらにCBSは3月10日、FCCにもトランプ陣営からの苦情を却下し、CBSへの調査を中止するよう求めた。「FCCは、CBSが(3月)6日に裁判所に提出した申立内容を無視している。いまCBSを調査することはFCCの存在理念にも反する」と訴えた。
同訴訟はスカイダンス・メディアとの合併を控えて政府認可を待つCBSの親会社パラマウント・グローバル(既報)にとっても大きな懸念材料だ。これまで何度か和解が模索されてきたが、CBSは一貫して編集の正当性を主張。和解を拒否してきた。それだけに、解決に向けてCBSにかかる圧力も相当なものだという。
一方、FCCの元委員長アルフレッド・サイクス氏やトム・ウィーラー氏など超党派の元委員5人が連名で3月28日に「問題となっている番組は憲法修正第1条で保護される編集上の判断の範囲内にある」として、一度は却下しながら2月に調査を再開したFCCを強く非難。「独立機関としての伝統的な役割を放棄し、トランプ大統領の不興を買うような放送局を脅迫する"ホワイトハウスの個人的な検閲官"だ」と自制を促した。
また、3月31日には民主党の連邦議会議員3人がFCCのブレンダン・カー委員長あてに書簡を提出した。「FCCの権限を不適切に行使し、標的とする放送局の憲法修正第1条を制限している」と批判。4月15日までに回答するよう求めている。
なお、4月7日にニューヨーク・タイムズ紙がトランプ大統領とパラマウントの双方が調停人を立てたと報じている。和解に向けて進展があるのかも含め、今後の動きが注目される。