存廃に揺れる米公共放送 トランプ政権が助成金カット  NPR、PBS、VOAなど対象に

編集広報部
存廃に揺れる米公共放送 トランプ政権が助成金カット  NPR、PBS、VOAなど対象に

米トランプ政権下で公共放送のテレビネットワーク「PBS」(Public Broadcasting Service)とラジオネットワーク「NPR」(National Public Radio)への連邦政府からの助成金支給をめぐって攻防が繰り広げられている。新政権発足以来、「政府予算の1兆㌦(約140兆円)規模の大幅削減」を名目にトランプ大統領に批判的なメディアへの威嚇が続いているが、真っ先に標的となったのがPBSとNPRだった(既報)。連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長が1月、公共放送のスポンサーシップの是非をめぐって調査を開始した。

その一環として3月26日にイーロン・マスク氏率いる米政府効率化省(DOGE)の小委員会で公聴会が開かれた。PBS、NPRなどから代表者が出席。公共放送の必要性と報道内容の正当性・信頼性を証言し、FCCが問題視する"スポンサーシップ"(支援・後援)の合法性を訴えた。しかし公聴会の終了後、共和党は「PBS、NPRへの政府助成金は必要ない」と発表し、翌27日には政府からのあらゆる支援を打ち切るべきとする法案を議会に提出する展開となった。

小委員会のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、PBSが報じた子どものトランスジェンダー問題をめぐる番組を「幼児虐待」と主張するなど、政府・共和党の姿勢と相容れない考えへの感情的な批判を展開した。また、イーロン・マスク氏を批判したPBSの報道を「偏見で、公平性を欠く。PBSはもはや信頼に値しない」と一刀両断。「メディア市場は大きく変わっており、公共放送の必要性は低い」と指摘する共和党議員もいた。

共和党からの法案が議会で可決されるとPBSとNPRはどうなるのか――ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)がそれぞれの可能性を掘り下げている。NPRは2011年、政府からの助成が断たれる"最悪の事態"に備えた計画書を作成しているが、「全米各地のNPR加盟局の経営はどこも収支とんとん。助成金が断たれると年間2億4,000万㌦(約340億円)の損失となり、加盟局約1,000のうち18%が閉鎖に追い込まれる。特に中西部、南部、西部が最も大きな影響を受ける。全米の約30%のリスナーがNPRを聴取できなくなる」との悲観的な内容をNYTは報じている。

一方、ピュー・リサーチ・センターの調査結果では、公共放送局への米国民の支持が厚いことが示された。政府助成金を「不要」と考える国民は全体の約25%に対し、「必要」が43%を占める(冒頭画像はその概要を伝える同センターのサイトから)。仮に助成金が廃止されても、支持者や団体からの寄付金が増え、ある程度の穴埋めになると予想される。ただし、そのほとんどは都市部の大規模市場に分配されるため、小規模市場、特に"ローカルニュース砂漠"(参考記事)となっている僻地まで行き届かない懸念があるという。

NPR以上に政府助成金に依存するPBSへの影響はさらに深刻だとNYTは指摘する。PBSへの政府助成金額は年間3億7,300万㌦(約530億円)で、運営費の15%にあたる。『Nature』などの人気番組の制作費は寄付金で賄われているが、NPRと同様、加盟局の経営は助成金あってのもの。公聴会に出席したアラスカ州の公共放送「アラスカ・パブリックメディア」もその一つだ。こうしたエリアでは地元紙などローカルメディアがことごとく消滅しており、PBS、NPRがほぼ唯一の情報源。これらの市場で公共放送局がなくなると地元住民の生命や生活が脅かされるというのが公聴会でのPBS、NPRの証言の焦点でもあった。

VOAなどの国際放送も標的に

連邦政府の予算で運営されているメディアはPBSとNPRだけではない。英BBCの国際報道サービス「BBCワールド」のように世界を対象にした「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)やキューバ向けの「Office of Cuba Broadcasting」、欧州向けの「Radio Free Europe/Radio Liberty(RFE/RL)」をはじめ、「Radio Free Asia(RFA)」「Middle East Broadcasting Networks」などがある。これらには、政府機関のグローバルメディア局(U.S. Agency for Global Media=USAGM)を通じて資金が配分されている。連邦議会の承認を得たUSAGMの2025年度予算は約9億㌦(約1,300億円)といわれる。VOAは1942年にナチスのプロパガンダを阻止するために始まり、衛星放送・AM・FM・短波を通じて約50の言語で週に3億5,000万人以上に利用されている。

ところが、トランプ大統領は3月14日、USAGMなど複数の政府機関を名指しで「法律で義務づけられた最小限の存在の機能に限定する」よう求める大統領令に署名した。これら放送局が「過激なプロパガンダ」「しばしば党派的な全国メディアに沿って左翼的に偏向している」(大統領令の付随説明)として、事実上の解体や規模縮小を示唆。翌15日にUSAGMは直ちにVOAなどの職員1,000人以上に休職を命じた。

VOAの有志らは3月21日、スタッフの復職を求めて提訴。ニューヨークの連邦地裁は同28日、休職を一時差し止めるよう命令した。また、資金の配分が滞り、放送の存続が危ぶまれていることから、同月後半にはRFE/RLやRFAも助成金打ち切りを阻止する訴えを次々と提起。ワシントンD.Cの連邦地裁は同25日、RFE/RLへの助成金凍結を一時差し止める判断を下している。「議会の決定を経た助成金は大統領といえども勝手に破棄することはできない」「助成金の打ち切りには根拠や権限がなく、恣意的な政策決定の典型だ」などと原告側を支持している。

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