テレビ新広島・古賀颯祐さん ニューヨーク駐在記者「国連総会取材の行列の先頭はいつも日本メディア」<U30~新しい風>㉒

古賀 颯祐
テレビ新広島・古賀颯祐さん ニューヨーク駐在記者「国連総会取材の行列の先頭はいつも日本メディア」<U30~新しい風>㉒

30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。22回はテレビ新広島・古賀颯祐さんです。2022年から記者として米国ニューヨークに駐在している古賀さんに記者活動を通じて感じた海外メディアと日本メディアの違いを語ってもらいました(冒頭写真は、2024年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利した際のフロリダ州でのリポート)。(編集広報部)


「地下鉄で何者かが銃を乱射し多数の乗客が撃たれたとみられています」
日本では考えられないような衝撃的なニュースで幕を開けたニューヨーク駐在。赴任からわずか数日、まだ時差ボケに苦しむ中「これが米国か」と面食らいながら銃撃事件の現場に向かいました。それまでと全く違う世界にいるという不安を抱えながら現場に到着すると、米国メディアが規制線の前で中継をしたり、目撃者に話を聞いたりしているのが見えました。「メディアはどの国も同じなんだな」と少し安心したのを覚えています。

それから間もなく3年がたとうとしています。今では海外メディアと日本メディアの違う部分にも少し気づくようになってきました。

「テレビのこれから」という難しい問いに対する答えになるかは分かりませんが、両者の比較を通じて感じたことを綴ってみます。

国連総会の取材

ニューヨーク駐在記者として担当しているエリアは米国の東半分から南米まで、そこでの事件、災害や経済、スポーツに至るまで幅広いニュースを日本に伝えるのが今の私の仕事です。オフィスからの出稿で完結する取材もあれば、実際に現場へ足を運ぶこともあり、環境の違いこそあれ、日本にいたころの記者としての業務内容と大きな違いはありません。2024年の大統領選をはじめ、ハリケーンの被災地やNASAのロケット打ち上げ、日本が優勝したWBCの決勝戦など、これまでさまざまな現場に足を運びました。

そうしたさまざまなニュースを取材する中、1年で最も忙しい時期の1つが毎年9月に国連総会の「ハイレベルウィーク」と呼ばれる期間です。世界中の首脳らがニューヨークの国連本部に集まり、一般討論など各種会合が開催されます。

米国のバイデン大統領(当時)やウクライナのゼレンスキー大統領、イスラエルのネタニヤフ首相といったビッグネームだけでなく、各国のリーダーたちにとっても自国の方針や主張を世界に発信する貴重な機会ですので、当然メディアも世界から集まり国連本部は大混雑します。

議場を撮影できるメディアブースはスペースに限りがあるため基本的に先着順です。演説は午前9時スタートですが、ニューヨーク支局のある日本のテレビメディアは、他国のメディアの姿が全くない午前5時からほぼ全局が並び始め、先頭を独占する光景が毎年続いています。午前6時ごろに「自分が1番だ!」と思ってやってきた外国のカメラマンが先に並んでいる日本メディアを見て驚くのが恒例です。

カメラマンが国連総会議場を撮影する様子.JPG

<国連総会ホールを撮影するカメラマン>

なぜそんなに早くから並ぶのか、もちろん議場でリポートを撮るためなどしっかりとした理由はあるのですが、私にとっては他社の存在がとても大きいです。
万が一何かイレギュラーなことが起きた際、他社が並んでいるのに私たちがいないということを想像すると怖いのです。この「国連総会取材の行列の先頭はいつも日本メディア」現象を日本メディア(あるいは日本人)は「真面目過ぎる」「周りに合わせ過ぎる」とマイナスに捉えることもできますが、私はこれをプラスの現象として考えたいと思っています。

米国メディアの報道

米国に赴任し、現地のニュースを見て驚いたことの1つが、他社の報じた情報や映像を躊躇なく引用するということです。進行中の事件報道では「ニューヨーク・タイムズによると、容疑者は○○の凶器を持っていた」というように自社で裏が取れるまでは他社の報道を引用して報じることが大手メディアでもあります。要人に対する他局の独占インタビュー映像をそのまま流すような場合もあります。チャンネルが変わったのかと勘違いするほどです(勝手に使用しているわけではなく使用上のルールは守っています)。

日本の場合、民放のニュースが「NHKによると~です」などと報じることはなかなかないと思います。他社の情報であっても有益なものは伝える米国メディアの方が視聴者にとってはありがたいという考えもあるかもしれません。一方で、日本のメディアは自分たちの発信する情報に対し、より責任感とプライドを備えているという考え方もできると思います。

記者をしていると、他社のニュースを見る際は「何か抜かれていないか」と、少なからずドキドキするものです。もしも他社の引用でニュースが書けたらどれだけ仕事が楽になるでしょうか、羨ましいと思う記者は私だけではないはずです。そうした楽な方法を選ばず、「抜いた」「抜かれた」の他社との激しい競争意識を常に持っているのが日本のメディアであり、だからこそ、「国連総会取材の行列の先頭はいつも日本メディア」なのです。

タイムズスクエアでリポートする様子.jpg

<タイムズスクエアでリポートする筆者>

失ってはいけないもの

米国の大統領選をめぐっては、2024年6月にCNNが主催したテレビ討論会でトランプ氏と対峙したバイデン氏は弱々しい声で何度も咳込むなど衰えを露呈。見ていた誰もが「大丈夫か?」と思うパフォーマンスで、結果的に高齢を不安視する声が高まり、バイデン氏が大統領選からの撤退を決める大きなきっかけとなりました。ここまで世論を大きく左右するだけの力があるのかと、テレビの影響力の大きさをあらためて実感した出来事です。

その一方で矛盾するようですが、米国ではマスメディアに対する信頼度は3割程度とされ、SNSの影響力がますます大きくなっています。この傾向は日本も同じだと思います。

テレビの将来は視聴者からの信頼なくして語れませんが、「他社よりも良い情報・映像を視聴者に届けたい」とするこの競争意識は、視聴者からの信頼を得るために日本のテレビ局が失ってはいけないものだと感じています。

ボストン・レッドソックスのスタジアム前で支局スタッフと記念撮影.JPG

<ボストン・レッドソックスの本拠地スタジアム前で支局スタッフと>

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