"ロボットほどの派手さはないけれど" ~CESで考える映像・音声コンテンツ産業としての放送~

長井 展光
"ロボットほどの派手さはないけれど" ~CESで考える映像・音声コンテンツ産業としての放送~

「AIロボットのオンパレード」――最新テクノロジーの展示会、米国・ラスベガスで1月に開かれたCESについて報じたメディアの多くがこんなフレーズで伝えました。これは間違いのない事実です。「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」=家電の見本市と呼ばれていた時代からCESには十数年通い、今年も行きました。確かに「テレビが主役」ではもはやないのですが、放送を映像・音声コンテンツの担い手として捉えるならば、さまざまなヒントがそこにはありました。

SONYはどこに行った?

4日間の会期中に14万8千人の参加者があり、4,100の出展者があったと発表されたCES。その広大な会場でこれまで最大規模のブースを構えていたSONYと韓国サムスン。"家電の象徴"のような両社のブースが今年は消えました。サムスンは"誰もが入ってこられる"=競合他社も見に来る会場内での展示をやめ、近隣のホテルの「スイート」と呼ばれる部屋、宴会場で招待者・関係者限定で展示する方法に変えました。昨年までサムスンのあった場所は中国家電大手のブースになりました。

SONYの"跡地"に陣取ったのはSONYとホンダ(本田技研工業)が合弁会社を作って取り組むクルマ「アフィーラ(AFEELA)」です。米国市場では今年後半と言われる納車開始、日本では2027年からということで大きな注目を集めました。CES会場に入るのに必要な入場証を首からぶら下げるストラップは「アフィーラ」の提供、コンベンションセンターの外壁にも大看板と、SONYらしいPR戦術も健在です。

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〈SONY跡地のアフィーラ〉

SONYが「ブラビア(BRAVIA)」ブランドのテレビ事業を分離し、中国の家電大手TCLと合弁会社を設立、そちらに移すと発表したのはCES終了から程ない1月20日のこと。"消えたブース"もなるほどと納得させられました。もっともそれではSONYは映像・音響の世界から遠ざかるのか、といえばそうではないようです。もともと、クルマに進んでいったのはセンサー技術の活用と並んで「自動運転の時代を迎え、車内をオーディオ・ビジュアル空間にする」というコンセプトがあったからです。今回、記者発表ではアフィーラの価値を「運転するクルマ」から「時間と空間を価値化する体験型モビリティ」へ、として"人と車の関係性の再定義"をうたっていました。

「アフィーラ」ブースもよく見ると一角にSONY系の映画、音楽、アニメ企業の紹介がありました。またSONYは昨年のCESでは映画やアニメに登場する3Dオブジェクトや立体空間の制作を独自の先端テクノロジーによってまとめたソリューション「XYN(ジン)」を発表しています。今年はCES会期中にクリエイター向けに最新版ソリューションを紹介するプライベートセミナーを近隣ホテルで開催したということです。SONYにとって映像音声メディア重視のクルマ、コンテンツ系、BtoBであるコンテンツ制作向け分野が成長分野ということでしょうか。

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〈アフィーラの一角にはSONYコンテンツの展示〉

ちなみに東芝のテレビのブランドだった「レグザ(REGZA)」は中国メーカー、ハイセンスの傘下となり、今年もハイセンスのブースの一角で展示されていました。東芝時代からの受信機技術の進化を記したパネルもあり、日本人としては複雑な心境で歴史をたどりました。

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〈レグザはハイセンスの中〉

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〈レグザの歴史を記す〉

一方の"雄"、パナソニック。SONYと同規模のブースを構えてきましたが、今年も同じ規模でAIを活用したBtoBのソリューション中心の展示をしました。近年は家電製品を並べることはやめています。今年はCESの公式アプリのスポンサーになっていて、紙の会場地図が廃止され、皆がスマートフォン(スマホ)片手に会場内を巡る時代に存在感を示していました。

次世代地デジは"メインストリート"

米国ですでに始まっている"次世代地デジ" ATSC 3.0NextGenTV)。高画質、ネット連携機能、クルマでの受信とさまざまな特長がありますが、前回のアナログからの転換のように期限を切った強制的なものではなく、ネット、スマホの影響力が大きくなる一方の時代にあって、あまり大きな話題にはなっていません。推進団体ATSCは毎年CESに紹介ブースを出展してきましたが、今年はCES会場入り口近くの"メインストリート"に陣取りました。もっとも、関係者によると、ここは公共性や話題性のあるところにあてがわれるスペースで、テレビメーカーなどが居並ぶ平場の会場内の方が見学者は多いとのことでした。今年は集合住宅用インフラや低価格コンバーター(外付けチューナー)などを展示したことは先日の民放online記事に詳しく記されているとおりです。

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〈メインストリートの次世代地デジ〉

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〈廉価版チューナーが並ぶ〉

担当者に話を聞くと、移行に関しては「共和党政権に戻り、連邦通信委員会(FCC)も共和党カラーになったが大きな変化はなく、NABも様子見状態」とのことです。外国ではATSCを導入したブラジル(地デジでは日本方式を導入した)が「FIFAワールドカップの年なので普及に拍車がかかると期待できる」。一方、インドはブラジルと違う環境で、モバイル受信中心の展開が計画されているのだそうです。「人気クリケットの試合を見ようとすると、スマホ配信では回線が逼迫するという超人口大国らしい問題があり、まだガラケー需要もあるので放送波でストレスなく見られるようにする」が主な目的なのだそうです。

驚いたことにこのATSCブースに日本人がいました。厳密に言えばずっと日本に住む日系ブラジル人。ブラジルのデータ系会社で働いていて、ネット連携のハイブリッドで可能になるターゲット別にCMを出し分ける技術を売り込むのが仕事だとのことです。日本の放送界にとってもマネタイズの手法として関心の高い分野ではあります。日本でのビジネス展開は如何に?

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〈次世代地デジと通信の連携で対象別にCMを差し替える〉

ラジオ組では米国でデジタルラジオ「HD radio」を手掛けるXperiが、自動車関係中心のホールに出展を続けています。ここは車の中のエンタメシステムを提供している会社で、日本の自動車メーカーとのつながりもあり、ラジオ局とも連携しています。配信映像コンテンツの車の中への取り込みにも熱心で、移動中の自動車のリアルタイムデータも取得できることから、今後、放送界としてどう付き合っていくのかも大切なところでしょう。

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〈HDradioも手掛けるXperi〉

インカムもスマホアプリで

1,200を超えるおびただしい数の各国のスタートアップ企業(ベンチャー)が小さなブースを並べたユーレカパーク。すっかりCESの名物になりました。日本勢も2つのグループに分かれて出展しています。この中で、日本の放送局では、唯一、TBSテレビが昨年に続いて出展しました。展示されていたのはラスベガスから東京・赤坂の情報カメラをネット回線経由でスムーズにコントロールできる「ライブマルチスタジオ」、音声合成技術を使い、原稿さえあればナレーションの音声が完成するというシステム「音六AI」、ネット回線を利用し、スマホ・タブレットで動作するインカムアプリ「T-QOM」。インカムだけでなくスタジオ音声の送り返し、タリー信号も乗るということで中継現場やリモートプロダクション環境ですでに使われ、海外では国際電話をかける必要がなく、費用削減にもつながっているといいます。放送現場だけでなく、イベントやショッピングモールなどでも使ってほしいというのが民生品のCESに出している意図のようです。

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〈TBSテレビのインカムアプリ〉

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〈TBSテレビ 赤坂の情報カメラをラスベガスから操作〉

カンペもロケ弁もおまかせ?......

大きな話題になった「AIロボット」について少し。「フィジカルAI」という言葉が昨年からCES関係のサイトでどんどん増殖していきました。AIの活用と言うとこれまで"パソコンやスマホ、ネットの中のこと"という印象が強かったのですが、これがロボットなど形のあるものに実装されていく......。荷物を仕分けして運ぶロボット、階段を登っていく4足歩行のロボット、ボクシングや卓球をするロボット......今年のCESの「華」は間違いなくここにありました。ロボット関連はどこも最終日まで人だかりが絶えませんでした。米中関係の悪化で入国ビザ取得が厳しくなり、中国企業、中国人の姿が減るなかで、この分野は中国勢が大きな存在感を見せました。これまでもロボット単体は展示されてきましたが、AI活用でより高度、複雑なことができる、考え、情報を判断しながら行動する、単体ではなくグループとして行動する、などの進化がありました。しかし、こと放送界については、ロボットはまだ遠い存在か、と個人としては思えました。「AIが読むニュース」というのは日常、目(耳)にするようになりました。これにCG合成のキャラクターが付くとしてもコンピューター上で完結する話でしょう。昔のように形のあるビデオテープやキューシートを持ってスタジオに走る、オンエアの終わったテープを倉庫に積み上げるという時代でもありません。放送局におけるAI活用は「フィジカルでない」分野中心に進みそうで、モノを運ぶロボットの出番はあまりなさそうです。もっとも、「ディレクターがサブで叫んだ内容をADがインカムで聞いてせっせとスケッチブックに書き込むカンペ」は「演者のそばをつかず離れずついて回るロボットのお腹に埋め込まれたディスプレーに、しゃべった内容がそのまま文字化される」に変わる時代が来るかもしれません。「セキュリティーが厳しくなって局内に入りにくくなったお弁当屋さんに代わってADロボットがロケ弁の山を楽屋に配る」はあるかもしれません。

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〈仕分けするロボット〉

一方で、放送界にとって"味方につけておくべき"なのは、お年寄の面倒を見たり、癒し・家事系をこなしたりするAIロボットなのかもしれません。高齢化時代なのでCESでも「エージテック」は大きく取り上げられています。そこでもロボットは注目されていて、「ご主人さま、何をなさりたいですか?」から始まるレコメンド機能も出てきます。「もうすぐトレンディードラマ『〇△◇□』の再放送が始まりますがテレビつけますか?」とロボットに言わせるのには電子番組ガイド(EPG)の進化も必要でしょう。一見、単なる「癒し系」に見えるAIロボットが実は家庭内のAI家電の司令塔役になることもあるそうで、侮ってはいけないようです。

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〈病院で働くロボット お年寄の面倒をみるようになるか〉

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〈癒し系のようで実は人と対話し家庭内のAI機器に指令を出すロボット〉

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〈最終日。この日は他社ブース巡りをする出展メーカーの説明員も多い〉

2025年中に開催されたCES主催者によるオンラインでの事前レクチャーでは、AIロボットに関する質問と並んで、「記者向けの無料ランチは今年も提供されますか?」という質問も紹介されました。「取材先とのニュートラルな関係のためには便宜供与はご法度」などという原則論は引っ込むほど、米国の物価高は強烈です。特に日本人にとっては円安もあり苦しい状態です。ちなみに最終日に配られた25ドルのランチチケットは餃子数個、パン1個、水の小ボトル1つで消えました。そんな物価高もあり、乗り継ぎのロサンゼルスでは街に出ず、パソコンで無料広告型動画配信FASTFree Ad-Supported Streaming Television)を見て過ごすことにしました。近年は、あまたあるFASTの番組コンテンツのひとつにローカルニュースも加わっていて、それも見ることができました。「コードカッティング」と呼ばれる(ケーブル)テレビ離れが進む米国でローカル局の活路として注目されています。

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〈FASTで流れるCBS系のローカルニュース〉

十年ほど前は「テレビが華」と言われたCES。今はその展示内容も多様化し、放送に近い分野では配信を中心とした「コンテンツの時代」となり、映像コンテンツは溢れています。その中で放送業界が埋もれないようにするためには、伝送路が何であるかにかかわらず「プロらしいクオリティの高さ」と「情報の信頼性」があり、視聴者(利用者)に求められるものを作ることかとあらためて感じました。

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