何年かぶりでニューヨーク市の自宅で迎えた2024~25年の年末年始。ここ何年か家族の事情で日本に一時帰国して新年を迎えていたという事情もあるが、それまでのいつもの大みそかなら、米テレビ各局がそれぞれにタイムズスクエアから中継するカウントダウンの年越し番組を見ながら過ごすところだが、今年はなんと『NHK紅白歌合戦』(以下、「紅白」)を見た。
北米で唯一「紅白」をライブ&録画配信したのは、2024年3月にサービスを開始した日本語テレビ配信サービス「Jme」だ。在ニューヨーク38年になるが、「紅白」をテレビで見ながらの年越しは初めて。これまでも視聴は可能だったが、前年まで「紅白」を放送していた24時間日本語テレビチャンネル「テレビジャパン」(24年3月からJmeに統合)を見るためにはケーブルテレビへの契約が必要だった。そこまでして見ようと思わなかったが、今回は配信で視聴できるようになったこともあり、格段にハードルが低くなった。
しかも正月三が日が明けたら同じくJmeで「箱根駅伝ダイジェスト」のオンデマンド配信や、大相撲の初場所(ライブと、時間を決めての再配信)まで! これらをすべてテレビの大画面で見られるのだ。おかげでニューヨークにいながらにして日本の正月を堪能した。
海外ではハンパない「紅白」の特別感
おそらく「紅白」というのは、日本ではひと昔前ほどのインパクトはないのだろうが、海外にいると特別感がハンパない。年末などソーシャルメディアで「アメリカで紅白を見るにはどうしたらいいか、知っている人がいたら教えてください」という投稿を何度見たことだろう。
筆者はJmeを有料契約(月額25㌦)しているので、正直「やった!」と思った(契約の経緯はこちらをお読みください)。日本人の友人に声をかけ、「紅白」の配信スケジュールに合わせて拙宅でウオッチ・パーティを開くことに。時差の関係で、ライブ配信はニューヨーク時間の大みそか未明の午前5時20分。これはさすがにパス。再配信が同日夕方5時20分からだったので、それに合わせて日本人ばかり4人で集まった。いずれも在米30年以上、そのうちの一人は50年を超える。米国文化にどっぷり浸かって生きてきた"浦島太郎"ばかりだ。Jmeの「NHKワールド・プレミアム」(NHKの海外の日本人向けライブチャンネル)で"本当に"「紅白」が始まると、4人そろっての反応は「おおおお、マジで始まったぞ」。実際、あれは一種のカルチャーショックに浸った感覚だった。
4人ともいい年なので、出演者の半分以上を知らない。でも今回はイルカや南こうせつ、THE ALFEEに玉置浩二などわれわれ世代の大御所が登場したのが良かった。B'zなどは筆者はよく知らないのだが、一人大喜びした友人が画面のボーカルに合わせて「ウルトラ、*+&#!」と叫び出し、残り3人もわけのわからないままに拍手喝采。藤井風のニューヨークからの中継はわれわれの地元なので、「あ、あそこや! クイーンズボロブリッジや」みたいになって大盛り上がり。いやー、4時間以上ガチで「紅白」を見たのは何十年ぶりだろうか。前日、近所の日本食材店で買った出来合いの鏡餅とみかんをテレビ画面の前に置いて、ささやかな日本の年越しを演出。図らずも、ニューヨークで日本の「お茶の間」を再現してしまった(冒頭写真=筆者撮影、以下同)。
夜10時前に「紅白」が終わったのを潮に、3人は大満足して帰っていった。そしてテレビ画面には、夜10時からの「紅白」2度目の再配信が......。なんとなく、パーティの片付けをしながらまた見た。地元ニューヨークのタイムズスクエア・カウントダウンなどガン無視してしまった。ちなみに正月三が日は、Jmeに特設された「紅白チャンネル」で毎日2回、時間を決めて「紅白」が再配信された。筆者など三が日だけで3回くらい見た。真面目に見ているのではないが、コーヒーを淹れながら、掃除しながら、猫を撫でながら、みたいな"ながらウオッチ"だ。そうやって何度も見ると、そのたびに新たな発見もあった。「♫ブリンバン、ブリンバン......ボン♫」(Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』)のラップソングが筆者的な大ヒットだ。
「海外に住むなら地元のテレビを」と、これまでかたくなに自前の異文化論を貫いてきた筆者だったが、ニューヨークの自宅で正月にテレビをつけたら「紅白」をやっているのも悪くない。そして1月3日から日本テレビ放送網「箱根駅伝」の往路、4日から復路のダイジェスト版オンデマンド配信が始まり、これもまた堪能した(写真㊦)。
今後の課題は見逃し配信とオンデマンド配信
Jmeは年末から「紅白」需要を視野に入れ、最初の月が50%オフになる割引キャンペーンを実施していた。Jmeを運営するNHKの関連会社NHKコスモメディア アメリカ社(本社ニューヨーク市)の藤野晋平副社長によると、サービス開始月の24年3月を除くと、12月は単月としては年内で最多加入者を記録したそうだ。新規だけでなく、再契約数も12月は年内2位。「紅白」効果絶大だ。また、契約者から「箱根駅伝はJmeで配信しますか?」という問い合わせも多かったということで、年明けから期間限定で「箱根駅伝チャンネル」が設けられ、こちらはオンデマンドで提供してくれたので、好きな時に見ることができた。「紅白同様、正月の風物詩を北米でも楽しみたい、体感したいという方が多いことを実感しました」と藤野氏は話す。
「紅白」が海外で手軽に見られるだけでもありがたいのだが、欲を言えばライブ以外はオンデマンドにしてほしかったというのが正直なところだ。ソーシャルメディアでも海外在住者による同様の要望投稿が見られた。もっと言えば、「紅白」に限った話ではなく、JmeのNHKライブチャンネル「NHKワールド・プレミアム」全体に対しての要望と言ってもいい。
日本ではすでに、リニアチャンネルがライブ配信されると、その後一定期間はいつでも好きな時に視聴できる「見逃し配信」が一般的になっていると聞く。藤野氏いわく「顧客からも、このご時世になぜ北米で同じことができないのかとの問い合わせが多く寄せられている」とのことだ。改正放送法に基づき、NHKは25年10月1日から新たな必須業務として、テレビ番組のネット経由での同時配信、見逃し配信、さらにはニュース記事の文字情報をはじめとする番組関連情報の配信を開始する。ならばそれを機に、日本国内だけでなく海外でもテレビ放送と同じ情報内容・価値を提供すべく、北米のJmeでもNHKワールド・プレミアムの見逃し配信や、「紅白」のオンデマンド配信を実施してほしいものだ。筆者と同じような願いを持つ北米在住邦人は多いのではないだろうか。
暫定措置としてJmeは、NHKワールド・プレミアムで24年7月から『ニュース7』『おはよう日本』『国際報道2024(現在は2025)』『クローズアップ現代』の4番組に限り、1週間の見逃し配信を可能にしている。また、子ども番組の多くが北米の深夜時間帯のライブ配信になるので、子ども専用チャンネルを設け、子ども番組だけを決められた時間帯に再配信。少しずつ顧客の要望が現実化しているのも事実だ。
さてこうなると、今から「2025~26年日本の年越し@NY」が実に楽しみだ。
<Jmeは大相撲の初場所も配信>