2025年秋クール(10~12月)のテレビドラマは近年稀に見る傑作ぞろいだった。そこで、今回は前後編に分けて注目した作品を紹介したい。
本クールはどの作品もクオリティが高く見応えがあったが、一番の話題作を選ぶとすれば、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(以下『じゃあつく』)ではないかと思う。
25年秋ドラマ一番の話題作
TBSテレビの火曜ドラマ(火曜夜10時枠)で放送された『じゃあつく』は、亭主関白的な価値観を内面化した化石男・海老原勝男(竹内涼真)が、恋人の山岸鮎美(夏帆)にプロポーズするがフラれてしまう場面から始まるラブコメディ。
鮎美のことが忘れられない勝男は彼女の得意料理であった筑前煮を自分で作ろうとするが、なかなか上手く作れない。彼女の味と見た目に近づけようと試行錯誤を繰り返す中で、鮎美がいかに手間暇をかけて自分のために料理を作ってくれたかに勝男は気付く。
本作が大きく注目されたのは、鮎美の作った料理に勝男が「全体的におかずが茶色すぎるかな」とニヤニヤと笑みを浮かべながらダメ出しをする姿があまりにも酷かったからだ。
だが、勝男は自分の振る舞いを反省し、料理作りを通して成長していく。当初は古臭い昭和の価値観に縛られていた勝男だが、失恋をきっかけに会社の後輩やマッチングアプリで知り合った女社長と交流を重ねる中で、現代的な価値観にアップデートしていく。
最初の印象が最悪だった反動もあってか、みるみる成長していく勝男に視聴者は拍手喝采した。料理と恋愛の二本柱が本作の魅力だが、根幹にあるのは古臭い考えを新しい価値観にアップデートさせていく勝男の成長物語であり、本作を観ていると今の時代の成長とは古い価値観をアップデートさせていくことなのだとよくわかる。
原作は谷口菜津子の同名漫画(ぶんか社)。メインの脚本家は劇団アンパサンド主宰の安藤奎。本作の脚本は原作の魅力を活かしつつもドラマならではの魅力に溢れている。勝男は劇中で『フォーエバーラブは東京で』というトレンディドラマを繰り返し観ている。視聴者の反応を観ていると、まるでトレンディドラマの時代に戻ったように盛り上がっており、何だかんだ言って視聴者が求めているのは恋愛ドラマなのだと安心する。
原作漫画が連載中なので、終盤はオリジナルの展開となり、一度別れた鮎美と勝男がもう一度やり直そうとする姿が描かれ、最終的に勝男がお互いのために鮎美との別れを選択する。勝男のこれまでの成長を考えると納得の展開だが、恋愛の快楽をアップデートの快楽が追い抜いてしまったように感じ、最終的に現代における恋愛の困難を炙り出したような、苦い結末だった。
『じゃあつく』以外のTBSドラマも傑作だった。金曜ドラマ(金曜夜10時枠)で放送された『フェイクマミー』は「母親の成りすまし」という犯罪を描いたユニークなドラマだった。
東大卒で大手企業の社員だった花村薫(波瑠)は、元ヤンキーでベンチャー企業社長のシングルマザー・日高茉海恵(川栄李奈)の娘・いろは(池村碧彩)の家庭教師として雇われたことをきっかけに、いろはの名門私立小学校受験のために偽の母親に成りすますフェイクマミー契約をおこない、入学後も、いつ正体がバレるのかとスパイのように警戒しながら、いろはの母親として学校行事に関わるようになる。
本作は「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」というドラマ脚本家の育成・発掘を目的とした賞の第1回の大賞を受賞した園村三のデビュー作『フェイク・マミー』を連続ドラマ化したものだ。脚本には園村の他にも複数の脚本家が参加しており、集団作業によって脚本を練り上げている。その結果、目まぐるしく状況が変化する緊張感のある物語に仕上がっており、最後まで目が離せなかった。
一方、日曜劇場(日曜夜9時枠)で放送された『ザ・ロイヤルファミリー』は、競馬業界の内幕を描いた物語。本作は、税理士の栗須栄治(妻夫木聡)が、大手人材企業「ロイヤルヒューマン」の創業者・山王耕造(佐藤浩市)と共に自社の競馬事業を立て直すために有馬記念を目指す姿を描く。
日曜劇場らしい大人のドラマに仕上がっていた本作だが、何より素晴らしかったのが、JRAが全面協力した競馬レースの臨場感に溢れた映像。チーフ演出の塚原あゆ子は『海に眠るダイヤモンド』を筆頭とする近年の日曜劇場の作品を多数手掛けている。壮大な風景描写と情感あふれる人物描写を得意としており、本作も塚原ならではの迫力ある映像に仕上がっていた。
世代交代による継承が物語の大きなテーマとなっていたが、塚原あゆ子の演出を軸に置いた本作を観ていると日曜劇場の世代交代は本作によって完全に果たされたと言えよう。
社会派も考察系もサスペンスも傑作がそろう
日本テレビのドラマも傑作ぞろいだった。日曜ドラマ(日曜夜10時30分枠)で放送された『ぼくたちん家』は、動物園で働く50歳のゲイ・波多野玄一(及川光博)が主人公の物語。
波多野は、ゲイの小学校教師・作田索(手越祐也)と、母親が失踪中の中学生・楠ほたる(白鳥玉季)と共に疑似家族的な関係を構築していく。3人の優しい関係は、どこか幻想的で観ていて楽しいが、同時に同性婚ができない日本社会の問題を問いかける社会派ドラマでもあった。
脚本を担当する松本優紀は、日テレシナリオライターコンテストで2023年度審査員特別賞を受賞した新人で本作が初めての連続ドラマとなる。
企画を立ち上げた河野英裕は『野ブタ。をプロデュース』や『だが、情熱はある』といった日本テレビの連続ドラマを多数手掛けてきたベテランプロデューサーだ。本作は河野の出世作となった2003年の木皿泉脚本の連続ドラマ『すいか』を彷彿とさせる要素が多く持ち込まれており、セルフリメイクに近い作品となっている。
またインクルーシブプロデューサーとして名を連ねる白川大介は、ゲイであることをカミングアウトして報道の分野で性的マイノリティーに対する取材をおこなっている日本テレビ報道局ジェンダー班のジャーナリストだが、彼が参加したことで劇中の同性愛者の描写に奥行きが生まれている。
一方、考察ドラマとして大きな反響を呼んだのが『良いこと悪いこと』。土曜ドラマ(土曜夜9時枠)で放送された本作は、小学生時代にいじめをおこなっていたグループの6人が次々と殺されていく連続殺人事件を描いた物語。
脚本はガクカワサキが担当しているのだが、設定が絶妙で、何より上手いと思ったのが、6人にいじめられていた雑誌記者の猿橋園子(新木優子)が、自分をいじめていた高木将(間宮祥太朗)たちと共に殺人犯を探すミステリードラマとなっていることで、その結果、単純な復讐モノでは終わらない複雑な物語に仕上がっている。いじめの加害者たちが次々と殺されていく中で高木たちは過去のいじめを反省するのだが、猿橋は彼らを許すことができない。それは視聴者にとっても同じで、小学生時代の回想で高木たちが酷いいじめをおこなっている場面を観れば観るほど、こんな奴ら殺されて当然という気持ちになってしまう。
だが、この負の感情こそが本作の肝で、話が進むにつれ「いじめっ子を罰したい」という欲望とどう向き合うべきか? という問いかけこそが本作のテーマだったことがわかってくる。
事件の謎を考察するゲーム的な楽しさの背後に、過去のいじめの罪は許されるのか? という多くの人が自分事として捉えることができるテーマを組み込んだからこそ、多くの視聴者を引き付ける考察ドラマとなったのだろう。
そして、もっとも素晴らしかったのが、水曜ドラマ(水曜夜10時枠)で放送された『ESCAPE それは誘拐のはずだった』。
本作は誘拐事件から始まるサスペンスドラマ。人質と犯人の関係だった大手製薬会社の社長令嬢の八神結以・通称ハチ(桜田ひより)と、誘拐犯の一人だった林田大介・通称リンダ(佐野勇斗)は、お互いの目的のために一緒に逃げることになる。
そこに製薬会社の闇や、触った人間の心を読める「さとり」の力の秘密といった謎が絡む考察ドラマとなっているのだが、何より魅力的だったのが、逃亡中のハチとリンダのやりとり。
桜田ひよりと佐野勇斗の二人芝居にはアドリブが多く取り入れられており、とてもライブ感のある身体性の伴ったリアルな芝居となっていた。
劇中にはGPS、ドローン、SNS、動画配信といった最新のテクノロジーが次々と登場し、逃亡するハチとリンダと二人を追う追撃者たちとの、激しい攻防戦が繰り広げられる。
つまり、とても現代的なドラマだが、根底にあるものは、人の優しさや善意を信じて困っている人がいれば助けるという義侠心で、その意味でとても古典的な王道を行く作品でもあった。
個人的には2025年ベスト1のドラマで、最後までハチとリンダから目が離せなかった。
(後編に続く)

