米国で5月2日から始まったものの収束が全く見通せない脚本家組合(WGA)のストライキに加え、映画俳優組合(SAG-AFTRA)も7月14日に43年ぶりのストライキに突入した。
ハリウッドの2大労組が同時にストライキを行うのは63年ぶり。すでにWGAのストライキで番組制作が中断されたなかだけに、ニューヨーク・タイムズ紙は7月17日付で「業界にとってWGAストライキは"不都合レベル"、SAG-AFTRAのストライキで"危機レベル"に達した」と報じている。同紙は業界で地殻変動が起こる可能性にも言及、秋のテレビ番組編成と2024年の映画収益に大きな穴を空けるとしている。同じ日、CBSとNBCは相次いで9月から始まるテレビ新シーズンの番組編成を変更した。
この余波で、俳優のトム・クルーズが新作映画のPRで7月17―18日に来日を予定していたが、直前でキャンセルされている。
▷SAG-AFTRAの要求
俳優組合の主な主張は、映画やテレビ番組が配信サービスにライセンスされた際に出演者に支払われる再放送(配信)料金の増額だ。配信へのライセンス事業はスタジオ側が期待したほどの収益増につながっていない。メディアの報道によると、スタジオ側は経営陣への高額報酬を確保するため現場労働者の報酬を抑えているとの見方もある。加えて、ライター同様に俳優陣もAI(人工知能)に大きな脅威を抱いているという。
米映画・テレビ製作者協会(AMPTP)は「報酬・再放送料の歴史的な増額と、AIからの俳優陣保護のための企画書も提示している」と組合側の要求を最大限のんでいると主張しており、すぐにでも再交渉に応じる姿勢を示している。
▷テレビ各局、秋の番組編成を変更へ
CBS、NBCともに予定していた新作ドラマや人気ドラマの新シーズンをラインアップから外し、代わりにゲーム番組やリアリティ/コンペティション番組、報道番組、スポーツ中継、そして番組の再放送などで穴埋めする形をとった。CWとFOXはダブルストライキ直前に早々に変更を発表していた。
CBSの月曜夜はコメディ番組がめじろ押しだったが、代わりに新しいラテン系のゲーム番組がそれらの時間枠を埋める。木曜夜に放送予定だったドラマ4本はすべてゲーム番組に差し替え、続く金曜日もゲーム番組一色となる。これまで5シーズンが放送された人気ドラマ『Yellowstone』は、シーズン1からの再放送となる。
NBCは人気のリアリティ/コンペ番組や週末のNFL中継があるため、他局より強気の姿勢だ。それでも変更は避けられず、秋のオープニング週の火曜日(9月26日)に予定していた『Night Court』など人気4番組の新シーズン・プレミアは、リアリティ/コンペ番組『America's Got Talent』の最終2回分の放送に切り替える。毎週水曜はシーズンを通してシカゴをテーマにしたドラマを組んでいたが、すべて再放送で凌ぐという。
16万人の組合員を擁するSAG-AFTRAは俳優だけでなくテレビジャーナリストや舞台俳優、スタント、エキストラ、ラジオパーソナリティ、ファッションモデルも含まれる。これらが一斉にストライキとなると、今後、ドラマ以外のジャンルでも制作が難しくなることが懸念されている。
▷ WGAストライキも長期化のおそれ
一方、ストライキ開始からすでに3カ月になろうとしているWGAは交渉そのものが中断され、進捗がまったくみられない。米オンラインメディアDeadlineが7月11日に伝えたところによると、AMPTPの戦略はライターらを経済的にギリギリまで追い込み、それから交渉を再開しようというもの。これがさらにWGAとSAG-AFTRAの反感を買って労使の衝突が激化しており、WGAについては10月後半までは続く見通しだと予測されている。
ただし、ストライキが長引くとSAG-AFTRAもメンバー全員がいつまで団結していられるかは疑問だ。年収数十億円の大物俳優と、年収400万円そこそこの無名の俳優やエキストラでは要求内容が全く異なる。そのあたりからSAG-AFTRA内部で亀裂が生じるのではと指摘する米メディアもある。
▷配信ビジネスによる労働環境の変化も要因に
視聴率が上がらず打ち切りのリスクがあるテレビ局との契約だが、それでも年間を通してスケジュールがあり、1シーズンのエピソードもかなりの数があるテレビ番組はライターと俳優の双方にとって長期で安定した収入源になっていた。ところが、配信サービスのオリジナルは1シーズンのエピソード数もテレビの半分以下で、リリース時期と方法も流動的。結果、ライターも俳優も仕事のサイクルが不安定になったうえに、テレビ時代より安い報酬を受け入れざるを得なくなっている。この厳しい労働環境が、今回のダブルストライキを招いたと米メディアは伝えている。