米連邦通信委員会(FCC)は11月19日、地上波ネットワークと系列局の関係を包括的に見直すと発表した。FCCのブレンダン・カー委員長はこれまで、全国ネットワーク(ABC、CBS、NBC、FOX)が系列のローカル局に過大な影響力を行使し、系列局独自の番組編成権を阻害し、「公共の利益」に資するための義務を果たせていないと繰り返し批判してきた。新たな審査手続きを開始してこれらの問題を制度的に検証するという。
FCCが具体的に問題視しているのは、ネットワーク側の優越的地位に基づく契約上の慣行だ。カー委員長は系列局がネットワークの全国番組を差し替えた際に課される罰則的な措置や、競合ネットワークの番組放送を禁じる契約条項などを例に挙げ、「地域放送の公共性を守るためには是正が必要」とソーシャルメディアの「X」上で主張した(冒頭画像はカー委員長の11月20日付Xへの投稿とFCC告示)。
背景には、今年9月のABCの『Jimmy Kimmel Live!』をめぐる騒動がある。司会者キンメル氏の保守派活動家チャーリー・カーク氏に関する発言でABCが番組の放送を一時中止したことを受け、ローカル放送局グループSinclairとNexstar傘下のローカル局は独自の判断で他番組に差し替えて放送。ABCが同番組の放送を再開してもローカル局での完全復帰には時間を要した(既報)。カー委員長は「全国ネットの影響力にローカル局が反発した象徴的事例」と位置づけている。
今回の審査でFCCは、次のテーマで情報提供と意見募集を始めた。
▶全国ネットとローカル局の交渉力が近年どのように変動してきたか
▶系列契約がローカル局の編成決定権限をどの程度制限しているか
▶系列局による全国番組の差し替えの現状と実態
▶差し替え権の行使を「重大ニュース」など特定のケースに限定するような系列契約の条項が妥当かどうか
FCCは番組差し替え権行使を「重要な場合にのみ」に限定すべきではないとの立場を明らかにしているほか、系列局が競合ネットワークの番組を放送したり、自主制作番組を拡大できるよう規制を見直す可能性も示唆。番組の伝送手段が配信へと移行していることを交渉材料に使ってネットワーク側が系列局に不当な契約条件を押し付けていないかも調査対象となる。意見提出期限は12月10日。それを受けた反論や追加意見は12月24日まで受け付ける。
所有規則の追加意見募集も開始
FCCはこのほかメディア所有規則の4年ごとの見直しに関する追加の意見募集も開始した。今年7月の連邦控訴裁判所による「トップ4局の同一市場内共同所有禁止規則」の無効判断(既報)を受け、あらためて広く意見を求めることとなった。
今回の焦点はローカルラジオ所有規則だ。現在、大規模市場では最大8局まで所有できるが、そのなかでAM局、FM局それぞれ5局までというサブキャップ(内訳上限)が設定されている。FCCはこの上限緩和や市場内所有数の拡大を検討対象としている。配信サービスや衛星ラジオの浸透を踏まえ、FCCは「ローカルラジオが依然として独自市場として成立しているか」「公共の利益基準がどう適用されるべきか」を重視。全米放送事業者連盟(NAB)は、より踏み込んだ規制緩和を求めており、カー委員長も改正に前向きな姿勢だ。初回の意見は12月17日まで受け付け、それを受けた反論や追加意見は2026年1月16日まで受け付ける。
一方、所有規制の緩和全般に対してドナルド・トランプ大統領が11月23日にソーシャルメディア「Truth Social」に「上限が撤廃されると急進左派やフェイクニュースのネットワークの拡大を助ける」と反対を表明し、政界と業界双方に波紋も広がっている。
