【米メディア所有規制をめぐる動き(前編)】 FCCの「複数所有ルール」に「無効」判決 

編集広報部
【米メディア所有規制をめぐる動き(前編)】 FCCの「複数所有ルール」に「無効」判決 

米連邦通信委員会(FCC)によるメディア所有規則の見直しがいよいよ本格化しつつある。FCCのブレンダン・カー委員長は就任直後から「delete, delete, delete(削除、削除、削除)」をキャッチフレーズに「時代遅れ」で「効果の乏しい」これまでのFCC規則を撤廃することを明らかにしていた(既報)。その目玉がメディア所有規制の大幅な緩和だ。

口火を切ったのが、第8巡回区控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the Eighth Circuit)の7月23日判決だ。「同一市場内で視聴シェア上位4局(CBS、NBC、ABC、FOXの各系列)のうち、1つの放送局グループが2つ以上のテレビ局を所有することを禁じるFCC規則(Top-Four Prohibition)」の一部を「無効」と判決したのだ。さらに、低出力局やマルチキャストチャンネルを通じて、同一市場内で上位系列局を間接的に取得することを制限する条項も「合理性を欠く」として無効とされた。

FCCは1996年通信法に基づき放送局の所有規則を4年ごとに見直すよう義務づけられているが、近年はその作業が滞っていた。2023年末に発表された見直し報告書は2018年時点の内容をほぼ維持。むしろ規制対象を拡大する内容だった。このため全米放送事業者連盟(NAB)やローカル局の一部が「デジタルプラットフォームからの競争圧力を無視しており、市場の実態を反映していない」と訴訟を起こしていた。

今回の判決で裁判所はFCCに対し90日以内に対応するよう求めた。FCCのブレンダン・カー委員長は同判決を歓迎する声明を出すとともに翌7月24日の記者会見で「これでFCCは迅速に次のステップに進める」「2026年に予定されるメディア所有規則の見直しは今回の判決を踏まえた内容になるだろう」との見通しを示した。その際、ローカル局の競争力強化を政策の柱とする考えをあらためて強調している。NABのカーティス・ルジェット会長も「大きく変わるメディア環境下で競争力と繁栄を目指すローカル局にとって大きな前進だ」とコメントした。

FCCは7月29日、これとは別に放送事業者への規制免除策を発表した。これまで放送局に課していた2年ごとの所有権の報告書提出義務について、次回の提出期限を2027年6月1日以降に延期する。商業・非商業を問わず、テレビ・AM・FM局は奇数年(本来なら今年)に提出すべきだった所有権構造報告書を当面の間、免除されることとなる。この報告制度はNABなどが「コストと労力がかかり、多様性促進という目標達成にもつながっていない」と廃止を要望していた。現行の報告様式では、複雑化する放送局の所有構造を正確に反映できていないとの指摘もあった。

一連の動きはFCCが放送業界の要望に耳を傾け、規制緩和に大きく舵を切り始めたことを示している。すでに一部の放送局グループでこれを見越した合併や売却の動きも始まっており、後編で詳しく紹介する。

後編に続く)

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