FOX、ディズニー傘下のESPN、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)の3社が2月6日に発表した合弁による新たなスポーツ配信サービスに、米国の放送・配信業界が大きく揺れている。競合する既存のスポーツ配信サービスをはじめケーブル・衛星の大手、さらにNFLやNBAなどプロスポーツリーグまでもがサービス阻止を表明したからだ。米司法省も3社合弁が独禁法に抵触しないか調査に乗り出すとみられている。
▶スポーツ配信のFubo TVが3社を提訴
米各メディアが2月20日一斉に伝えたところによると、スポーツに特化したvMVPD(配信によるテレビチャンネルのバンドルサービス)を提供するFuboTVが同日、3社を提訴した。Fuboは今回の3社合弁事業が実現すれば、Fuboも含む配信業者やMVPD(リニアケーブル/衛星テレビ)が不利な立場に追い込まれ、相場以上の再送信料を強要されると記者発表で指摘。事業の中止を訴えるとともに、陪審員による審査と懲罰的な損害賠償の支払いを求めている。これに対して3社はコメントを控えている。
MVPD/vMVPD各社はここ数年、スポーツに特化したテレビパッケージの実現を目指して模索してきたが、今回の大手3社からは協力を拒まれてきた。「われわれスポーツ事業者のアイデアをこの3社は盗もうとしている」とFuboの共同創設者であるデヴィッド・ガンドラーCEOは訴える。Fuboは3社合弁の発表直後に声明文で「3社の計画はFuboTVがすでに提供しているサービスの追随に過ぎない」と批判していた。
▶米司法省、調査へ
Fuboの提訴に先立つ2月15日には、米司法省がこの件で調査に乗り出すとブルームバーグが報じている。3社合弁事業の詳細が決まった段階で、消費者やスポーツリーグ、ライバルメディアへの影響や健全な市場環境を壊す可能性がないか調査するという。
▶大手MVPDも3社に苦言
今回の3社合弁事業はコードカットに拍車をかけるとして、コムキャストやチャーター・コミュニケーションズのスペクトラムTV、DirecTVなどケーブル・衛星のMVPD各社が内々に3社に抗議したとも伝えられている。同時に、どのように対抗していくかでMVPD側は戦々恐々ということだ。
ケーブル・衛星各社はすでに有料契約でスポーツチャンネルをバンドルにしたプランを提供している。CNBCの分析によると、これらMVPDが大手3社の合弁に対抗するには、自社のスポーツチャンネル/バンドルの配信版を立ち上げる必要があるが、そのためには再送信をめぐる契約でFOX、ESPN、WBDの合意が必要になる。3社が合意するのは論理的にあり得ないというのがCNBCの見方で、仮に3社が合意してもケーブル・衛星側の配信バンドル設立そのものがリニアの存在意義を脅かすのではないかという、根本的な部分での疑問と不安がつきまとう。
3社合弁の新配信サービスはまだ名称すら決まっておらず、詳細が見えないだけに対抗策も練りにくいが、それ以前にFuboの提訴の行方や司法省の介入いかんによっては計画が中止となる可能性も否めない。前途多難な船出といえそうだ。